第15話「男気という呪い」
「男気。」
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河合町ソールズが最も大切にしている言葉だった。
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学生時代からずっと使ってきた。
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金がない仲間には金を出す。
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困っている仲間がいたら集まる。
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誘われたら断らない。
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飲み会は参加する。
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仲間を優先する。
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それが男気だった。
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少なくとも彼らはそう信じていた。
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土曜日。
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昼過ぎ。
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いつものパチンコ店。
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いつもの顔ぶれ。
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いつもの光景。
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ケンジ。
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タカシ。
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ナオト。
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シンジ。
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ユウスケ。
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アキラ。
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タカシは財布の中身を確認する。
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現金一万二千円。
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本当は使ってはいけない金だった。
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返済に回すべき金だった。
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だがここに来ている。
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「今日は勝てる気がする。」
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ケンジが笑う。
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根拠はない。
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いつもない。
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しかし全員笑う。
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タカシも笑う。
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心の中では笑っていない。
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午後五時。
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結果。
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タカシは二万七千円負けた。
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持っていた金以上に負けた。
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ATMへ向かう。
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追加で引き出す。
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口座残高。
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ほぼゼロ。
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それでも席へ戻る。
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誰も異常だと思わない。
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河合町ソールズでは普通だからだ。
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夜。
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居酒屋。
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タカシは異常なペースで酒を飲んでいた。
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ジョッキ。
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ジョッキ。
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ハイボール。
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ジョッキ。
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ナオトが言う。
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「飲みすぎやろ。」
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タカシは笑う。
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「男気や。」
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全員が笑う。
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その瞬間、
ナオトは妙な違和感を覚える。
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男気。
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またその言葉だった。
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何か都合が悪いことがあると、
男気で片付ける。
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無理して飲む。
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男気。
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無理して金を使う。
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男気。
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断らない。
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男気。
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体調が悪くても参加。
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男気。
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本当は嫌でも参加。
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男気。
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気付けば、
その言葉が全員を縛っていた。
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アキラが酔った顔で言う。
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「なぁ。」
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「俺ら男気って何なんやろな。」
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一瞬だけ静かになる。
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ケンジが笑う。
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「今さら何言うてんねん。」
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タカシも笑う。
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「地元の仲間を大事にすることやろ。」
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「そうか?」
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アキラは珍しく食い下がる。
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「地元の仲間を大事にするのと、自分の人生を捨てるのは違うやろ。」
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静かになる。
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誰も返事ができない。
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それは図星だった。
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全員がどこかで感じている。
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地元の仲間を優先し続けた結果、
失ったものがある。
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資格。
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恋愛。
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出世。
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挑戦。
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時間。
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健康。
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だが認めたくない。
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認めた瞬間、
十五年間が否定される気がするからだ。
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ケンジがジョッキを置く。
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「そんなこと言うてもしゃあないやろ。」
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「今さら変われへん。」
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その言葉に、
誰も反論できなかった。
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変われない。
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それは本音だった。
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変わるには痛みがいる。
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仲間との距離。
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生活習慣。
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考え方。
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全部変えなければならない。
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だから皆、
変わらない方を選ぶ。
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その方が楽だからだ。
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深夜。
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店を出る。
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酔っている。
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全員顔が赤い。
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ケンジが車のキーを取り出す。
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ナオトは一瞬それを見る。
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酒を飲んでいる。
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全員飲んでいる。
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本来なら運転してはいけない。
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だが誰も何も言わない。
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「近いし。」
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「大丈夫やろ。」
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「今まで何もなかったし。」
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いつもの言葉。
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危険を正当化する言葉。
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ナオトは心のどこかで思う。
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いつか事故が起きる。
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いつか取り返しのつかないことになる。
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そんな気がする。
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しかし口には出さない。
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出しても変わらないと思っている。
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それが河合町ソールズだった。
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男気。
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仲間。
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地元。
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その言葉に守られながら、
その言葉に壊されていく。
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誰もまだ気付いていない。
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自分たちが信じているものこそが、
最大の呪いになっていることを。
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そして一年後。
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その呪いは最初の犠牲者を生む。
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飲酒運転による死亡事故。
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その日まで、
あと少しだった。
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第16話「大丈夫という病」へ続く。




