黄金の塔の断罪
傀儡たちが、砕けた金細工の音を立てて床に転がっていく。男はその残骸を踏み越え、王の懐へと飛び込んだ。
クリュソスは、玉座に座したまま微動だにしなかった。その双眸は、向かってくる剣先を避けるどころか、砂漠で一滴の水を待ちわびる旅人のように、ただ静かに、熱烈に見つめていた。
「……そうだ。それでいい」
王の思念は、もはや拒絶ではなく、法悦に近い震えを帯びていた。
「数千年だ。数千年の間、私は一睡もせず、一粒の糧も、一滴の愛も、何一つ望むことを許されなかった。飢えこそが禁忌であり、充足こそが私を縛る鎖だった」
男の放つ錆びた剣が、王の白磁の胸に触れる。その刹那、王は自ら吸い込むように、わずかに身を乗り出した。
「死という『終わり』……これこそが、私が最後に欲した唯一の贅沢。神の座さえ投げ打ってでも、焦がれ続けた究極の充足だ」
王の顔に、聖者の仮面が剥がれ落ちたあとの、一人の疲れ果てた男の微笑が浮かんだ。それは、何よりも人間らしく、何よりも絶望的なまでの喜びだった。
「さあ……奪い取れ。私の命も、この塔が飲み込んできたすべての業も。……君だけが、私に『終わり』を与えてくれる」
男は、その願いを正面から受け止めた。
全身の筋肉を軋ませ、錆びた剣を、王の胸の中心――水晶の如き心臓へと、深く、深く、突き立てた。
硬質な何かが粉砕される、悲鳴のような音が聖域に響き渡った。
「……ようやく、この渇きが癒える」
王の指先が、男の頬をかすめるように震えた。
透き通るような白磁の肌が崩れ落ち、中から現れたのは、ひどく痩せ細り、けれど安らかな一人の男の顔だった。
「……友よ。すまない。君に、この世界の『重み』を返してしまった。君がせっかく……すべてを捨ててまで手に入れようとした『安らぎ』を、私が壊してしまった……」
その言葉は、主人公が失った過去、かつて神の側近としてこの王と語り合っていた頃の断片に触れるものだった。王の瞳には、謝罪と、そして自分を終わらせてくれたことへの深い慈愛が滲んでいた。
「……だが、見てくれ。世界は……こんなにも、醜く、愛おしい……。飢えるからこそ、人は手を伸ばす。痛むからこそ……人は、温もりを求めるのだ。……君も、いつか……わかるはずだ……」
王の身体が、金色の光の粒子となって霧散していく。
「……さあ、行け。死ねない彼女が……君を……待っている。……地獄の先にある、ただ一人の……救いのために……」
最後の一言が消えるのと同時に、王の肉体は完全に崩壊した。
あとに残されたのは、男の掌に残る消えない「熱」と、錆びた剣に宿った一筋の銀色の輝き。
そして、聖域を埋め尽くしていた数千年の『欲』が、逃げ場を失った濁流となって、男の「空っぽの器」へと一気に流れ込んでいった。




