黄金の聖者、絶望の充足
部屋の中央、天を仰ぐように据えられた玉座に、第一の王クリュソスはいた。
その肌は、もはや人間のものではない。透き通るような白磁と、血管のように這う黄金の筋。彼は指一本、睫毛一筋さえ動かさない。ただそこに「在る」ことで、世界中の飢餓をその身に肩代わりしていた。
「……また、誰かが私の平穏を汚しに来たのか」
王は唇を動かさない。その思念は、氷の破片が脳を刺すように冷たく、鋭く響いた。
男が進み出ると、王の双眸がゆっくりと開き、その深い黄金色の瞳が男を捉えた。
「空っぽの器よ。その手に下げた鉄屑で、私を終わらせようというのか。この、唯一争いのない『幸福な孤独』を壊してまで」
「幸福……?」
男の問いに、王は自嘲気味に思念を震わせた。
「そうだ。かつての人間を見よ。一欠片のパンのために親を殺し、一滴の水のために国を焼いた。私は、その醜き『欲』をすべて吸い上げ、この塔という胃袋に閉じ込めた。私が欲することをやめれば、人類は永遠に飢えから解放される」
王の背後から、無数の黄金の糸が伸び、王の肉体を玉座に縛り付けていた。それは拘束具であり、同時に彼に「生」を強いる生命維持装置でもあった。
「……だが、お前が救おうとした人々は、石のようにただ座り込んでいるだけだ。あれを幸せとは呼ばない」
男が錆びた剣を抜くと、王の瞳に激しい動揺と、それ以上に深い「渇望」が走った。
「黙れ。奪い合う苦しみを知らぬ者が、救いを語るな。……お前が私を斬れば、この塔に溜まった数千年の『飢え』が世界に逆流する。人々は自らの腹を満たすため、隣人の喉笛を食いちぎるだろう。それが、お前の望む『人間らしさ』か!」
王の叫びと共に、広間に並んでいた黄金の像たちが一斉に動き出した。欲を奪われ、守護者へと変えられた傀儡たち。
王は、主人公に襲いかかる傀儡たちの背後で、ただ一筋の「透明な涙」を流した。
「……救ってくれ。私を、この終わらない充足から。私はもう、一滴の水も、一片の愛も、欲しくてたまらないのだ」
聖者の仮面の下にあったのは、数千年の間、一粒の糧も許されなかった、世界で最も飢えた男の魂だった。
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