静けさの中で
黄金の塔へと続く、終わりのない荒野。
歩き続けても景色は変わらず、道端には石像のように座り込んだまま動かない人間たちが点在していた。
「……彼らは、何をしているんだ?」男の掠れた問いに、前方を浮遊していた妖精が振り返る。
「何もしないのさ。いや、『何もできない』んだよ」妖精は近くにいた老人の顔を、羽先でなぞるように飛んだ。
老人の瞳は開いているが、そこには焦点も、生への執着も宿っていない。
「かつて、この世界はもっと騒がしかった。人間たちは欲にまみれ、愛に狂い、血を流して争っていた。それを見た四人の神様たちは、こう考えたんだ。
『こんなに苦しむくらいなら、その原因を取り除いてあげよう』ってね」妖精の声は、どこか歌うような響きを帯びていた。
「神様たちは人間から四つの『業』を奪い取った。死、戦、欲、そして色。その結果がこれさ。お腹が空くこともない、誰かを妬むこともない、死の恐怖に怯えることもない。……完璧な平和だと思わないかい?」
男は、老人の虚ろな瞳を見つめた。
そこにあるのは平和ではなく、永遠に続く「停滞」だった。
「神様たちは、奪ったものを自分たちの中に閉じ込めて、異形の王になった。彼らは今も、君の代わりに世界の『毒』を背負い続けている。……あそこの塔で、空っぽの満足感に浸りながらね」妖精の言葉を聞くほどに、男の手にある錆びた剣が重く感じられた。
王を倒せば、この老人にも「飢え」や「苦しみ」が戻る。それが本当に救いなのか、今の男にはわからなかった。ただ、掌に染み込んだ魔物の残滓が、疼くように黄金の塔へと彼を急かしていた。




