灰色の目覚め2
魔物がその巨大な腕を振り下ろそうとした瞬間、男の身体は自分でも驚くほどの速さで動いた。
錆びた剣を泥の塊のような胴体へ突き立て、力任せに横へなぎ払う。
手応えはなかった。
ただ、腐った果実を潰すような嫌な音が響き、魔物は灰となって風に散った。
「……はあ、はあ……」男は、自分の荒い呼吸の音に戸惑った。心臓が、耳の奥でうるさいほどに脈打っている。その時、散った灰の一部が男の掌に吸い込まれ、胸の奥に「鋭いトゲ」が刺さったような感覚が走った。
「おや、もう共鳴したのかい?」妖精が肩のあたりに降り立ち、面白そうに男の顔を覗き込む。
「今、君の中に流れたのは『欲』の残滓だ。かつての主たちが人間から奪い、独占している力の一部だよ」男は、自分の腹の底に、これまでなかった「どす黒い空白」が生まれたのを感じた。
何かを食べたい。何かを掴みたい。何かを――壊したい。空っぽだったはずの器に、毒のような熱い泥が流し込まれていく感覚。「あっちだよ」妖精が細い指で、地平線の先を指差す。
そこには、灰色の空と大地の境界に、陽炎のようにゆらゆらと揺れる黄金の塔が見えた。
「あそこに『欲の王』がいる。君が奪われたものを持っている神様だ。行こうよ、空っぽの器さん。君が君自身を創り上げるための、最初の材料を奪い返しにね」
男は何も言わず、ただ黄金の塔を見つめた。
なぜか、あそこに行かなければならないという強い衝動が、足の先にまで伝わってくる。
重い錆びた剣を握り直し、男は一歩、また一歩と荒野を踏みしめ始めた。




