灰色の目覚め
その世界に、色はなかった。
男は、ひび割れた大地の上に横たわり、意識の底から這い出した。
まぶたを押し上げても、目に飛び込んでくるのは彩度を失った灰色の空だけだ。風が吹くたびに、ざらついた砂が頬を叩くが、痛みも不快感も、驚きさえない。
自分の中が、空洞の洞窟のように「空っぽ」であることだけを理解していた。
「ようやく起きたね、空っぽの君」頭上から、場違いなほど軽やかな声が降ってくる。
そこには、半透明の薄い羽を小刻みに震わせる、小さな妖精が浮いていた。
その瞳だけが、この死に絶えた世界で唯一、復讐の炎のような昏い光を宿している。
「名前は? 自分が誰か、何のためにここにいるか……なーんにも覚えてないって顔だ」男は答えようとしたが、喉は乾いた石のように固まり、言葉にならない。
ただ、自分の横に、一本の鉄の塊が転がっていることに気づいた。
それは、ひどく錆びつき、刃こぼれした、名もなき無骨な剣だった。
「拾いなよ。それが今の君にふさわしい『魂』だ」妖精が指差した先から、地響きと共に「それ」が現れた。感情を奪われた人間の成れの果てか、あるいは神から零れ落ちた業のゴミか。
泥を固めたような醜悪な巨躯の魔物が、意思のない瞳で男を見下ろし、灰色の爪を振り上げる。
「死ねないこの世界で、永遠にその化け物の腹の中で過ごしたいのかい? 嫌なら抗ってみせてよ、器さん」男は、吸い寄せられるようにその錆びた剣の柄を握った。
冷たい鉄の感触が、空っぽの胸の奥で、かすかな熱を灯した。




