20「ワカラナクナルモノ」
20「ワカラナクナルモノ」
「ある人」とは、誰で何者なのだろうか?
「会う事の無い状況」とは、どんな状況なのであろうか?
画面の中で対峙する、エスタシオンの同意を求める目に
明人と透矢は・・・言い知れぬ不安を抱える事となった。
震える様な声が聞こえてくる
『自分の母親が虐められていたのに気が付いたのは何時?
誰が、節花さんをあんなにしてしまったの?』
晴季さんの言葉にエスタシオンが答える
『幼稚園の時の先生も、小学校の時の先生も・・・
同じ事を言っていたよ「被害者にならないで下さい」って』
感情を押し殺した様な瞳で・・・
エスタシオンは口元だけに笑みを浮かべた
『虐めじゃないんだってさ・・・人の息抜きに付き合って
御金出して、人付合いがちゃんとできない人が悪いんだって
できない人は「普通じゃない」から
「知的障害」を疑われても仕方がないんだってさ』
エスタシオンの目から涙が零れ落ちる
『ごめんね・・・夏おねぇさん
僕の母さんがそう思われてたせいで・・・
夏おねぇさんの「大切な人」を巻き添えにしてしまって』
理不尽に傷付けられた子供は、罪も無いのに
誰かが犯した罪への謝罪を肩代りしてしまう
『ただ、僕の父さんと派遣会社が一緒で
ずっと一緒に同じ所に派遣されてただけなのに・・・
僕とは関係なかった筈なのに
僕の友達の父親の接待で、風俗に連れてかれたんだよね』
晴季さんが息を飲むのが、微かに音声として伝わって来る。
子供だからって全く理解できないなんて事は無かったのだ
子供が大人になれば子供の頃の記憶から・・・
更に理解を深める事だってあるのにそれを大人は失念していた
『あの時の僕は幼かったけど、憶えているんだよ・・・
母さんとおねぇさんが「どうして怒っていた」のかを知ったのも
「どうしてそんな事になってしまった」のかをも知ったのも
意味を理解したのも・・・最近の事だけどね』
大人が知らず知らずの内に犯した罪は傷んで腐敗して
『僕が、この世に生まれてこなければ良かったんだ
そうすれば、父さんも夏おねぇさんの大切な人も・・・
死なずに済んだかもしれないのに』
子供の中に不必要な罪悪感を植え付けていた。
『そんな事無いよ・・・史樹君は何も悪くないんだよ
悪いのは全て誘惑に勝てなかった大人なんだから・・・
今も昔も・・・ごめんね史樹君、君に罪はないのに』
晴季さんの泣き出しそうな声に胸が痛くなる
エスタシオンと晴季さんは、現代社会に巣食った闇に
食べられ傷付いた被害者でしかなかった・・・
明人と透矢は、エスタシオンと晴季さんに声をかける事も
その会話に参加する事もできなかった
それ程までに痛々しい空気がそこに渦巻いていた。
・・・何処からともなく悲鳴が響く・・・
ヘッドギアの音声と画面にノイズが走る
画面の中、グリースの周りにだけ異常が起きていた
青褪めた顔で・・・
その場に座り込んだグリースが、色彩を失い透けていく
目を見開いた彼女は表情を失い
身動ぎする様子もなく、すぅ~っと消えていった。
消えゆく姿に気付いたエスタシオンが『悠流!』と叫び・・・
グリースの元に駆け寄るが、グリースをすり抜け
エスタシオンはその場に転倒してしまった。
『ここから出られない筈なのに、モルスさんがそう言ったのに
ねえ・・・悠流をグリースを探すの手伝って』
取り乱し、消え去ったグリースを探すエスタシオン
画面の前の3人は、何が起こったのか理解できないまま
「エスタシオンが管理する」星の中、グリースを探し歩く
皆、散らばり星の中を駆け巡る。
「月捲りカレンダー」の様に木の種類を変える
星の上に1本しかない大木の掛けられた「伝言板」の前
明人のビアンコは、グリースが消えた場所まで戻って来ていた
そこには、いつの間にか宝箱が1個配置されている
『宝箱見付けた!皆、「伝言板」前まで集合!』
明人は皆に声をかけ、宝箱の周囲をビアンコに歩かせ
宝箱の位置をアピールしながら全員が揃うのを待つが
皆から返事があった筈なのに・・・誰も帰ってこない
明人は気が抜け暇を持て余し、宝箱の上に登り大木を見上げる
今月の木は「林檎」で、真っ赤な果実があちこちに生っている
眺めてたら・・・林檎が食べたくなった。
明人の家には基本、保存食しか置いていない為に林檎は無い
『後で、コンビニに行こう』思いは声になって零れる
『あ、俺も行く』と、透矢の声
だが、声はすれども・・・透矢のインヴェルノの姿は無かった
スカイプは、繋がってさえいれば近くにいなくても
会話ができるのでこんな事は当たり前の様に起きてしまう。
『透矢・・・インヴェルノは今どの辺?』
『農園で立ち往生中・・・』
どうやら、ゲーム内の御遊び防犯システムに捕まったらしい
このゲームでは・・・「触る」と言う「悪戯」をすると
低い確率ではあるが時々、アイテムが貰える
但し、「悪戯をする」と・・・
家畜が驚き、体力が削られて出来上がるアイテムが減ったり
作物や花が傷付いたりして
出来上がるアイテム数が減る設定になっている為
「自分の管理する星」以外の「花壇」をクリックしたり
自分の管理していない「農園や農場」に入ると・・・
高い確率で、星の管理者が飼っている「ペット」に
追掛けられたり・・・捕まえられたりする設定となっているのだ
そして、一回捕まると・・・
ジャンケンで勝つまで、絶対に自由にしては貰えない
そして、『ごめん・・・私は農場で・・・』
遅いと思ったら、晴季さんも捕まっていたらしい
2人の元へ行って、自分が捕まったら後の祭りなので
明人は大人しく待つ事にした。
透矢と晴季さんが大木の前に現れたのは・・・
PM23時半近くなった頃だった、エスタシオンは戻ってこない
ここで宝箱を開けられるのは、管理人であるエスタシオンだけな為
エスタシオンの行方も捜さねばいけなくなってしまった。
子供が「幼稚園や学校」に行き出してから・・・
仕事や家庭の事情で「子供の行事を欠席」したり
「ランチに行く」ってのを断ったり
「主婦の習い事を一緒に」ってのを断ったりしただけで
「協調性がない・何処かおかしいんじゃないか?」と
本人の姿が見えないと大声で喋りまくるのには、本気で驚かされた。
それが、会員でないと観れないとは言え・・・
ネット上に落ちてた「学校行事の動画」の雑音として
存在している事に気付いた時の「残念感」は半端無かったです。




