登校
「ユウ、お前何かいいことあった?」
月曜日の朝、いつものように向かえに来てくれたカズは開口一番そう言った。
『おはよう』もとばしていきなり何だ?
いい事?なんかあったっけ?
「おいおい、親友の俺にも秘密なのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ」
ただ本当にわかんないだよなぁ。
週末にあった事といえばオタ先輩の誕生日パーティーぐらいしか…
…あれか?
「まぁいいや。
ユウがそんな顔してんの久しぶりだしさ」
つん。
カズが俺の右頬をつつく。
そんな顔ってどんな顔だよ。
んな事言われたってわかんないっつの。
もちろん自分の顔なんか見えないし、鏡なんて持ってるわけじゃないしさ。
俺がそんな鏡なんて持ってたらすごいわ。
カズにからかわれ、知らないうちに割れてるのがオチだし。
「そんなってどんな?」
「そういう顔だって」
カズは笑いながら歩きだす。
うーん。本当にそんな顔してるのかな?
まぁ、いいけどさ。
「そういや、今日テストあるよな〜勉強した?」
…テスト?
あれ?俺達入学したばっかりだよな?
木、金の二日間はいろいろ説明とか身体測定とかで潰れたけどさ、まだ三日目だよ?
なのにテスト?
「俺勉強やってなくてさ。やばいかも」
そう言いながらもカズは笑っている。
おい、そんなの聞いてねぇよ。
いや、吉河(担任)が言ってたような気が…しないな。
言ったとしても俺聞いてないし。
「…何のテスト?」
「え、課題テストに決まってんじゃん」
…やっぱり知らん。
そもそも課題って何の課題?
俺達の課題なんてテキストが何冊かあったぐらいだし…あれか!
気付くの遅いな、俺…
でも、課題って人によって別々だったはず。どうやんのかな?
ここでちょっと学校の紹介をしとこうかな。
総合学科って呼ばれる形をとってて、いくつかの系列から自分の好きな系列を選ぶ。
一つの系列にもたくさんの科目があるから、その中から自分が好きなものを選ぶって感じ。
系列は進学(理数、文系)、パソコン、美術、商業、音楽、料理、福祉の7系列。
進学系列なんか毎年有名校に生徒を送り出してるらしい。
なんか総合学科というより、進学校と専門を足した感じに近いかな。
それぞれ入試の問題とか内容は別だし、学力も全然違う。
でも、共通テストってのを全員やらされてて、その結果でクラスが分けられたっぽい。
しかも、成績順じゃなくて成績が大体同じになるようになってるらしい。
最初に聞いた時はなんだそりゃ。って思った。
とにかく、系列がごちゃごちゃなクラスで過ごさなきゃいけないわけだ。
で、俺は文系クラス。
おい、今意外〜とかほんのちょっとでも思った奴!覚えとけよ…
これでも文系はちょっとは自身あるんだからな。ちょっとだけ。
で、俺の課題は国語と英語のテキストだったから、あれから出るのか…
妙に分厚くて半泣きになりながら終わらせた例のテキスト。あんま解けなかったな…
自信ね〜
どうしよ…
「勉強してないんだけど…」
「やっぱり?だと思った〜」
入学してすぐに悪い点数はとりたくないけどなぁ。
「でもなんとかなるだろ。範囲だって中学のだし、入学出来るくらいの学力あるんだから大丈夫だって」
…そっか。
言われてみればそうだよな。
苦手なとことかもあるけど、考えてみればそんなにたいしたことないじゃん。
もっと早くに気付けばよかった。そしたら無駄な心配しなくてすんだのに。
「そこをもうちょっと早く言って欲しかったな」
「自分で気付けよ」
びしっとデコピンを食らわせてくる。
全く、なんだよ。しかも微妙に痛いし。
「デコピンとはまた地味な攻撃してくるな」
「ん?もっと過激な攻撃がいいのか?」
「それは嫌」
特に蹴りとかは御勘弁。
サッカー部の元エース(あ、高校でも狙ってるから元って言うと失礼か)の蹴りなんて食らったら…痛っ。想像しただけで痛い。
「じゃあいいじゃん。デコピンなんて可愛らしい攻撃くらい気にすんな」
はぁ…
これでまぁいっか。とか思っちゃうんだよな。
「それよりさ、この前新しいカラオケ出来たじゃん。今度行かない?」
いきなりカラオケの事を思い出してカズを誘うと、もちろんカズは乗ってきた。
さっきまでの会話はオール無視。つか流れたって感じかな。
俺達にはよくある事だ。
「コンビニの近くのだろ?もちろん行く行く」
「じゃあさ…」
そんな会話を繰り広げながら通学路を歩く。
先月までとは違う通学路、学校が近所と言えば近所だから特に変化は無いような気がする。
中学と高校は方向が逆だから本当は変化は結構あるんだけどね。
でも新学期のウキウキは同じ。
そのせいで学校生活三日目と言えど、なんとなくテンションは高い。
だから気付かなかったのかもしれない。
大事な大事な物を忘れてしまった事に。




