慌ただしい朝
「…あれ?」
学校に着いて一限目の支度をしようと思った俺はある事に気が付いた。
え?何かって?
ヒント!部活に必要な物。
わかったかな?
え、わからない?
じゃあ次のヒント!この高校にはあまり親しみがない物。
これでわかったでしょ!
正解は…
「おっはよ〜佑」
この、なんとも言えないバカらしい声。
そして、俺をそんな風に呼ぶのはこのクラスに一人しかいない。
あからさまに嫌な顔をして声のした方を見ると、そこには笑顔のバカ一号…じゃない、ナルシスト…じゃなくてナルシがいた。
「…ナルシ」
朝っぱらからコイツの顔は見たくないな。うん。
普通さ、人の笑顔って見ると幸せな気持ちになったり、こっちも笑っちゃったりするもんじゃん。
なのにコイツの笑顔はなんかムカつく。
なんというか…たらしっぽい。
それにいかにも俺はモテてますって感じのオーラも醸し出してるし。
悔しいけど顔はいい方だし、実際モテるんだろうけどさ。
ということで、同じ男としては何とも嫌なヤツだ。
「どうしたの?テンション低いじゃん。
まだ学校始まって三日目だよ?
普通はもうちょっと明るくさ〜
…はっ!もしかして佑ってば人見知りとかするタイプ?
新しい環境に馴染めずに一人アンニュイな気分に浸ってたとか?
そうか!そうなんだね!
ごめんよ。
そんな君の気持ちに気付いてあげられなくて。
親友失格だね…」
…どこからツッコムべきだろうか、このバカのマシンガントークに。
まず、三日目なのにテンション低いと言われても俺のテンションなんだから口出しをしないで欲しい。
いや、確かにさっきまでテンションは高かったさ。
三日目と言えど新しい環境だし、微妙浮かれもするさ。
だけどそれもさっきまで、忘れ物を知るまでの事だ。
そうだ!忘れ物!
どうしようかな。
取りに戻ると遅刻だし、もう家に人は居ないし…
かと言って私服で出たらまた何かやらされるかもしれない。
それだけは避けたい。
でもどうしよう。
「でも!これからは君の気持ちに気付いてあげられるように頑張るから!
そのためにはまず、お互いの事を知らないと」
あー、まだバカがなんかほざいてる。
思うんだけど、コイツの発言って(俺は親友って思ってないけど)親友に向けた言葉じゃない気がする。
普通に女の子に言う言葉だよな…
俺ってコイツの中で女の子の分類とか?
流石にそれはないか。
「俺達親友だし、お互いの事をあまり知らないのは良くないと思うんだ。
そうだ!お互いをよく知るためにも今日俺の家にこない?
学校のすぐ近くだし、お菓子とかもあるよ」
何が悲しくてお前の家になんか行かなきゃならんのだ。
そもそも部活があるっての。
「無理」
「何、その即答!酷くない?」
「別に」
お前相手なら全然酷くないし、むしろ酷いのはお前という存在だ。
「もしかして気付いてあげられなかった事に対して怒っているのかい?
それはさっきも言ったとおり、お互いをよく知らないために起こってしまった事であって…」
もう駄目だコイツ。救えねぇ。
まぁ救おうなんて最初から思ってないから全然いいんだけどさ。
「ユウ」
廊下の方から俺を呼ぶ声がする。
この声は…オタ先輩?
廊下を見るとそこには何故か三年生のオタ先輩が。
周りの人達はスリッパの色が違う人が何故かいるため、少し戸惑ったような視線を向けている。
あ、この学校はスリッパの色で学年を判断する。(みんな私服着てるからそれしか判断材料がないってだけなんだけど)
一年が青、二年が赤、三年が緑。
色はもち上がりで、来年の一年は緑って感じでぐるぐる回るらしい。
だからちょっぴり先輩は目立つ。
それに先輩ってさ、学校ではあれだからさ。
なんか本当にオタクみたいな…ってそれは失礼か。
まぁそんなわけで先輩は目立ってるわけだけど、当の本人は気にしてない様子。
流石先輩。あのくらぶに入ってるのは伊達じゃない。
「先輩どうしたんですか?」
俺はとりあえず廊下に向かう。
もちろん周りの視線+ナルシはほっといて。
「ちょっとお礼を…って思ってな」
…以外。じゃなくて意外。
先輩ってそんなタイプには見えないのに。
いや、人を見かけで判断しちゃいけない。
「土曜はありがとな」
「あの…俺当日知ったし、準備とか出来なかったし、時間も遅くなっちゃったし…」
そのせいで片付けは全部俺がやらされた。
あれは大変だったなぁ。
「まぁでもありがと」
多分今笑ってる…よな。
ほとんど何も出来なかったけど、そう言ってもらうとうれしい。
よかったなぁってすごく思う。
「いえ、俺も楽しかったですから」
「そっか」
強引な感じで行ったパーティだけど、楽しかった。
俺が楽しんでも仕方ないんだけどさ。
「…そういえば忘れてたけど、月曜と水曜はくらぶ無いからな」
…はい?
今この人なんて言った?
月曜と水曜はくらぶが無い。
月曜=今日くらぶが無い?
「今日くらぶが無い!?」
周囲の目なんか気にせずに叫んだ。
下手したら一組まで聞こえるような大声で。
「え、ちょ、聞いてないですよ!」
俺は先輩の肩をガシッと掴む。
休みの事とか誰もそんな事言ってないから毎日あるのかと思ってた。
いつもいつも何で先輩達はそういう事を教えてくれないんだよ!
「だから忘れてたって言ってるだろ」
「確かにそうですけど、何で忘れるんですか!」
「これには深い事情があったり無かったり無かったりするんだよ」
無いのかよ!
嘘でもそこはあるって言っとこうよ!
そこで嘘付かれても何とも言えないとこだけど!
「俺の苦労は…」
あの十分ぐらい慌てたのは無駄って事か。
超慌てたのに、バカみたい…
「なんか苦労してたらしいけど、まぁ意味無かったな」
悲しいくらいに自覚してるんで言わないで下さい。
先輩の肩を掴んでいた腕は力無く落ちる。
「それよりテストの勉強しなくていいのか?
一年って今日だって聞いたけど、違った?」
…何でまたテスト?
「今日らしいですけど、でも課題テストですよね?」
「最初のテストは難いぞ〜なんたって入試の倍近くのレベルで出すからな」
「嘘ー!」
あれだってかなり難かったのに…
俺は進学コースだから仕方ないんだけどさ。
「ちなみに課題テストは別にやるからな」
「え!」
何それ最悪…
何でそんなにテストばっかり。
「当たり前だろ?系列違えば課題違うし」
そんなの聞いてない…
ちょっと先生伝え忘れ多くない?大丈夫?
まだ三十いってないはずなのになんか心配だよ。
「それよりお前平気なのか?」
「え?」
「勉強」
「あ…」
時計を見るともう二十五分。SHRまであと五分だ。
やばい!やらなきゃ!
解の公式があれで、三角形の定義と定理が…
頑張って公式を思い浮かべる。合ってるかわかんないけど。
「精々頑張れよ」
ひらひらと手を振りながら先輩は去って行く。
ちょっ、ま!…ってもらってもどうしようもないのか。
とりあえず、なんか勉強しなきゃ!
俺は慌てて教室へと戻る。
何かまだ視線を感じるのは気のせいだろうか。いや、気のせいではない。
これが古典の反語って呼ばれるもので、文中では『や』または『か』で出てくる。
係り結びのとこで出てきたやつ、だったかな。
『ぞなむやかこそ』って呪文のように覚えたなぁ。
それより勉強勉強!
そんなわけで、俺は五分間だけど勉強を始めた。




