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水の都の乙女  作者: 姫青
第2章
22/22

第21話:ただ、マドレーヌが食べたかっただけなんんです…ハイ。


「やっと起きたか」


シュゼがゆっくりとした足取りで部屋に入ってきたヴィクに声をかける。



「おはよう、ヴィク」


ヴィクは周りを見ることなく目の前を通り過ぎる。



「おはようございます、ヴィクリアス様」


そして、ちーちゃんの言葉にも反応を示さなかった。




な ん だ と !?



ちーちゃんからのおはようをシカトするとはいい度胸ですね。文面からは分からないだろうけど、ちーちゃんのあのスマイル!周囲にカントリーな風景が広がったよ!ほんわかオーラばら撒いてたよ!なのに、シカトですか。



「ヴィク、いくら朝が苦手だからってそんな態度は失礼じゃないかな。ヴィクがこの時間に呼んだのに全然起きてこないで、ちーちゃんにばっかり働かして―――」

「あ゛ぁ?」

「………ごめんなさぃ」



こ、こえぇぇえ!何、今の。誰?どうやったらあのさっぱりした少年顔が『なんか文句あんのかゴラァ!』な方のお顔になられるのでしょうか。

錯覚?錯覚ですよね!


「…あ、すみません。その……まだ目が覚めてなくて…おはようございます」


はっとした表情をうかべたヴィクはすっきりとした顔で申し訳なさそうに言った。

いえ、こちらこそお休みのところお邪魔してごめんなさい。そしてちーちゃんごめん、私は何も言えない小心者でした。



「チシャエラ、お前いつも大変なんだな」

「いえ…………まぁ」



あ、ちーちゃん認めた。



「じゃあ、早速ですが始めましょう。こっちに来てください計測をします」

二人の会話が聞こえたのか少し気まずそうにヴィクが向かった先には私の胸の高さくらいある石碑が建っていた。


「なんですか、これ?」


ふはははは、人がゴミのよーだ!!とでも言えと?私、飛行石もってないんで支給してもらえるとうれしいです。


「簡単にいうと魔力測定機です。」

私のふざけた思考とは比べ物にはならない真面目な答え、いただきました。


「魔力測定機?」

「昨日、キシャーラさんの気をみたとき、今までにない不思議な気をもってらしゃったので気になって。今日お呼びたてしたのは、それを調べるためです」



ほほう。これは、主人公が何らかの力をもっているとかいうご都合設定じゃあございません!?

いやったね!これで、すくなくとも異世界死亡フラグはへしおられるんじゃ?初日から暗殺者とかに会っちゃったから、どうしたもんだと思ってたけど、案外大丈夫かもね。


内心、よっしゃ!と思いつつ、事前にちーちゃんから聞いていたとおりその石碑っぽい機械の上に手をかざした。

ちーちゃん、ヴィク、シュゼが私から5メートルほど距離をとる。



「キシャーラさん、何か最近強く印象に残ったことを思い出してください。できれば、日常的にある事よりも喜怒哀楽に繋がるようなものだとありがたいです。」


喜怒哀楽ねぇ……驚ならたくさんあったけど、そうだなぁ…と記憶を探ってあの事を思い出した瞬間ぞくりと背筋を悪寒が走った。殺気を感じたあの時のように。



「うっ……」

体の奥から上がってきた吐き気に手を口元へと持っていった。



「アゼイルっ!!」

シュゼのあげた声を最後に辺りがすさまじい轟音に包まれた。つづく耳鳴りに頭がキンキンする。



(な、に……これ?)



目の前を魔力測定機の破片が飛び去った。

その向こうではヴィクが懐から拳銃を取り出し、銃口を真っ直ぐ私に向けた。



(ヴィク………?)



それが、最後の記憶。









* * *








「魔法発生装置!?」




突如として知らされた設定に首をかしげる。



私の目の前には気絶する数十分前私に向けられたヴィクの拳銃が置かれていた。

よくみれば、なかなか凝ったデザインでかわいい……じゃなくて!


「何ですか、それ?」


「えっとですね、私たち第二部隊は魔力がある研究者の集まりなんです。キシャーラさんの祖国ではどのようにしているのか分かりませんが、魔力を体内から外に出すとき放出口が必要ですよね。そのとき、口から出すわけにもいかないですからその代わりが作られたんです。それがこれです」



「ま、魔方陣とか書くんだと思ってた」

長い杖で地面にぐるぐるーって。漫画とかでよくあるやつ。


「古い文献にはそういうのも書かれていた気がしますけど、今はそんな方法で力を使う人はいません。アクセサリーやステッキなどの持ち運びやすい小型のものを使いっています」




「じゃあ、この銃には銃弾が入ってないの?」

「銃弾?」

はて、というようにヴィクが聞き返す。



「銃弾だよ。バンって標的を撃ったり、争いごとでは人をも殺したりする」

「…キシャーラさんの国ではこれは武器なのですか」

少し低くなったヴィクの声音に寝起きのヴィクを思い出し、話題を変えた。




「あ、ほら。えっと……ゼラ!ゼラはそういうの使ってなかったよ?」

地雷を避けるため、ヴィクの好きなゼラ話にもっていってみる。確かゼラは手のひらからドーンだっ

た気がするんだよね。


「ゼラさんは強いんです。普通、体内の気を魔力に変換するだけで大変な作業なのに、それを一箇所に集めるんですから、そこには莫大な負荷がかかっているはずなんです。それに耐えられるだけの意志の強さと力がゼラさんにはある」



真面目な顔つきで淡々と話すヴィク。





……うん、ごめん。さっぱりだ。




気とか変換とか、この世界の人にとっては常用語かも知れないけど、ワタシコノ国ノ人チガウネってことですよ。とりあえず分かったのは、ヴィクが拳銃を出したのは爆発した測定機から私を守るため、魔法をつかったってことぐらいかな。ありがたや、ありがたや。さっきはもうアウトだと思ったもんね。



「はぁー……そうなんですか」

けどもちろん、やっぱり分かったふりです。



「ヴィクリアス様!B-1000WECも壊れてます。団長に報告に行かなくちゃいけませんよ」



第二部隊の隊員とともに爆発した測定機の後始末に追われているらしいちーちゃんが下からヴィクの執務室に向かって声を張り上げた。

それを聞いたヴィクが首をまわす。


「シュゼさん」

うぉ!そんなところにいたよシュゼ。影うっす。


「嫌だ。行かない」


しかも不機嫌。団長さんのところにいくのが嫌って。あなたは副隊長じゃないんですか?


「平気ですよ。騎士舎の中しか行かないんですから」

「甘いぞ。場所は関係ないんだよ。問題は時間なんだな」

頑として動かないシュゼ。己は子供かっ!と思わずつっこみたくなるね、この人。


「なら、行きましょうか?」


私が、と席を立つ。するとさっきまでの強情さはどこ吹く風。すくっとシュゼが立ち上がり、迎えに来ると一言私に言い残し、部屋を出て行った。


「シュゼ、どうしたの?」

「相変わらず、人気者なんですねぇ」

ヴィクがくすくすと笑う。なんのこっちゃ。



「ちょっと、散歩にでも行ってくるね」

片付けの邪魔しちゃ悪いし、と付け加えるとあっさり了承してくれた。

本当は、測定機壊したの私かもしれない!って思ってたから弁償とかってなる前に逃げ出したかったんだけど。というか、私が片付け手伝えよって話だけど……カタヅケってきっと一定のスキルがないとできないんだよ。(遠い目)





この世界の季節がいつなのかは分からないけど、今は5月のような気候だ。

暑くもなく、寒くもない気温はちょうどいい。11月だった日本から来たからなんか時間が戻ったって感じでいいね。……ん?じゃあ、誕生日ってどうなるんだろ。12月に誕生日だけど、この世界が5月なら延期するべきかな。プレゼントはスマホだったんだけどなぁ。惜しいことをした。って言ってもどうすることもできないんだけどさ。

おっこの花綺麗・・・

と思って伸ばした手をひっこめる。

……うん、触らない。いや、だって昨日からロクな事にあってないし……一応警戒ね、一応。

多分団長さん達のおかげで経験値が30は上がったよね。





しっかし……ここどこさ。



いやね、シュゼを追っかけて来たんだけど、ちょっと遅かったみたいで第二部隊の外に出たときにはもういなかったんだよね。

だから、ちょうど外に用があったらしい第二部隊の研究者らしき少年と舗装された白いタイルの道をてこてこ歩いてきたわけだ。運いいね私。きっと今日は天秤座が一位だよ。


で、その子とも別れてふらふらーっと歩いてきてみたけど・・・お城の敷地広すぎるでしょ!30分くらい歩いたよ?んで目の前お城だよ?だけど着かないよ?この辺りはプラス20分くらい歩き回ったよ?同じところを7回ほどぐーるぐる…………

あれぇー?




迷路っすか!!何ソレー、いらん設定だよー!誰かーヘルップ!!シュゼどこさ…




見渡す限り、木、木、木!!緑、緑、緑!!目に優しいけど!!

なんでぇー…

お城に森ってあるの??知らんよ、そんなの!!

いつのまにか、白タイルの道じゃなくなってるし・・・


きっとアレが原因だ。ずっと同じ方向は変に思われないかな?とか思って少年と別れたときだ。少年変な顔してたもんなー。おそらく、アレは『え?そっち行くの?…まぁ聞かないけど。知らない人だし』って顔だったんだ。

人脈ないって損だよ…



今度第二部隊いったときはとりあえず全員に挨拶だけはしておこう。




お腹もすいてきたし…お菓子が食べたい…。

あまーい焼き菓子とか最高だよね。

マドレーヌとかアップルパイとか……

ぬはぁ…なんかいい匂いしてきたよ?ついに嗅覚までおかしくなったか私。

ほら、目つぶってみれば目の前にマドレーヌがっ……!!


あだっ!!


一歩二歩三歩さがって……あ、穴があったら入りたいっ!!

馬鹿だ私。目つぶって歩いてて木にぶつかった…。

しかもマドレーヌ♪とか思って…

でも「おいしい焼き菓子ですね」って、もう!それは妄想だって!!

くそぅ、腹のムシめっ!帰ったらその声が出せないくらいに食べまくってやる!!




…あれ?



幻聴か?幻聴なのか!?

あまりにもマドレーヌ食べたいからってそんな事がある?



「お口にあってよかった」

「手作りとは思えませんよ」

「ふふふ、ありがとうございます」



幻聴ではないっぽい…どっからだろ。

よろり、と声のしたほうへ足を進める。


こっちじゃない…あっちか…

ん!?匂いが薄れた…じゃあ反対側か…



半ばゾンビのようにうろうろしていたら、やっと白いタイルの敷かれたまともな道に出ることができた。

せ、生還!!ワタクシようやく生きてあの迷路の森を抜けることができました!!

バンザーイっとな。

さぁて、次の目標はこのいい香りを漂わせている誰かさん(きっと超一流パティシエ)のマドレーヌだぁぁあああああ!!



えっと、この香りはこっちからしてるから、ここを曲がって、それから…あぁ、もう!!

なにこの垣根!!背高いから向こう側が見えないし。

でも絶対マドレーヌはこの向こう!!声がするもん。

どこの誰のお茶会かは知らないけど、こっちは王子様のお友達だぁ!!

強制参加させてもらおうじゃないですか。



垣根と垣根の僅かな隙間に身をねじこみカニ歩きで進む。

よいっしょ、よいしょ、っと。

…あれ?

進んでない?



足は進んでいるのに、目の前の葉に変化が見られない。

なんで?つっかかってんのかな私。…どこが?ま、まさか…

うぇ、ちょっ腹ぁ!!ひっこんで!頼むから!!この後たんまりお菓子をあげるからぁ!!






「……キシャーラ、何してんだ?」

「ひっ!?」




不意にかけられた声はシュゼからのものだった。



「あ・・・これは……マドレーヌが…」

「マドレーヌ?」

「木に……やっとでれて・・・それで…」

「それで?俺、第二部隊に迎えに行くっつたよな?」

「……え?…あぁ、でもちょっと…ま、マドレーヌが…」



夜中に姉のケーキ食べてるところを兄に見られるという、なんともいえないきまづさに、うまく言いたいことが言えなかったときの事が思い出された。

ちょ、怒らないでよ、シュゼさん。今説明するから!えっと…



「くっくっくっ……」

「へ?」

「あははははは」

「………」



何 故 笑 う


こっちは真剣なんだってば!!

それよか怒ってたんじゃないの?ねぇ!



「いやー…何してんだ?マドレーヌって…食べたいの?」

「あ…うん」

「じゃ、帰るか」

「うん」


こっちに伸ばされた手をつかむとずぼっと垣根から引っこ抜かれた。ちょっと枝でほっぺたすれて痛かった。



「で、結局どこ行ってたんだ?」

「えっと……マドレーヌで…その…森?」

「そりゃいいな」



どこ、と言われても答えようがないので適当に言えばまたくっくっと笑われた。

本当だしぃ。マドレーヌ探して森の中だったんだから。

てか手痛いです。笑ってるからかな、力はいりすぎだよ。



そのことを伝えれば、「あ」と今手をつないでいる事に気付いたようにぽいっと放された。

そっちから握ったのに、なんとまぁ。



その時、後方からキャーっという黄色い声が聞こえたような聞こえなかったような…。



「あー…気にするな。いつもの事だ」

ちょっと立ち止まれば、シュゼにそう言われた。




え……?



いつもの事ってなにが?




幻聴?幻聴っすか!?

やっぱこの場所ってそういうのが聞こえる!!とかっていう設定なのかな。

異世界、わからないことが多くて困っちゃうよ。

でも、マドレーヌが共通語でよかった。あとでシュゼに貰おうっと。






* * *






シュゼと希が帰路に着いたころ――――





希が捜し求めてたマドレーヌでお茶を飲んでいた二人がいた。

四方をバラの垣根で囲われた広い庭には主が招いた人物しか入れないような術がかかっていた。




カップをソーサーに置いた女がぴくりと反応する。

「今、声がしませんでした?」

「え?…あぁ、きっとシュゼだよ。人気者だからね」

「…シュゼ・ハクス・アーベル様…?」

「知ってるの?」

「…えぇ、もちろん」



どこか遠くを見つめるようにレオから視線をはずした彼女のきらめく銀髪を柔らかな風がそっと揺らした。




謎の女登場です。

希ちゃんが垣根を進めなかったのは魔法ですよー

太ってなくてよかったねw

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