第五話 「初デート――歯に優しい夜ごはんと、距離が縮まる瞬間」
――その日の夜。
「……デート、だよなこれ」
吉田誠は駅前でそわそわしていた。
服装チェック、三回目。
スマホ確認、五回目。
(落ち着け俺……これは“初デート”だ)
しかも――
(相手は妻)
(いや意味分からん!!!)
⸻
「お待たせ」
その声で、思考が止まる。
振り向くと――
「……」
(やばい)
私服の真琴。
少しラフなニットに、ロングスカート。
仕事の時とは違う柔らかい雰囲気。
(可愛すぎるだろ……)
⸻
「どうしたの、固まって」
「いや……その……」
「うん?」
「……好きです」
「早い早い」
即ツッコミ。
だが真琴は、ちょっとだけ照れていた。
⸻
「じゃあ、行こっか」
「はい」
⸻
二人は並んで歩き出す。
少しだけ距離が近い。
でも――
(手……繋ぐ?)
(いや早い?でも夫婦だし?)
脳内会議が荒れる。
⸻
その時。
ふっ。
軽く手が触れる。
⸻
(来た!?)
だがそのまま離れる。
⸻
「……」
「……」
沈黙。
でも嫌じゃない。
⸻
「ねえ」
「はい」
「歯、大丈夫?」
「デートの第一声それ!?」
思わずツッコむ。
⸻
「だって大事でしょ?」
「まあそうですけど……」
「甘いもの禁止ね」
「えぇ!?」
⸻
「新婚早々、虫歯再発とか嫌だから」
「ちゃんとしてる……」
⸻
やがて店に到着。
少し落ち着いた雰囲気の和食屋。
⸻
「ここ、歯に優しいメニュー多いの」
「基準そこなんだ……」
⸻
席に座る。
向かい合う二人。
(これ……ちゃんとデートしてる)
今さら実感が湧く。
⸻
「何頼む?」
「えっと……柔らかそうなのにします」
「正解」
⸻
注文後。
少しだけ静かな時間。
⸻
「……改めてさ」
真琴が口を開く。
「うん」
「本当に結婚したんだね、私たち」
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(……)
その言葉。
昼とは違う重み。
⸻
「……はい」
誠も静かに頷く。
⸻
「後悔してない?」
「してないです」
即答。
迷いなし。
⸻
「なんで?」
⸻
(なんで……)
少し考える。
でも答えはすぐ出た。
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「楽しいからです」
⸻
一瞬、真琴が目を丸くする。
そして――
ふっと笑う。
⸻
「シンプルだね」
「ダメですか?」
「ううん、いいと思う」
⸻
料理が運ばれてくる。
優しい味の和食。
⸻
「……美味しい」
「でしょ?」
⸻
二人で食べるご飯。
それだけなのに――
(なんか、特別だな)
⸻
ふと、誠が顔を上げると。
真琴と目が合う。
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「……何?」
「いや……なんでもないです」
「怪しい」
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じっと見てくる。
少しだけ距離が近づく。
⸻
(近い……)
昼の診察とは違う。
これは――
(普通にドキドキするやつ)
⸻
「ねえ誠くん」
「はい」
「さっきの続き」
「さっき?」
「“好きです”ってやつ」
(うわああああああああああああ!!)
⸻
「……もう一回言って」
「ここで!?」
⸻
「小さい声でいいから」
少しだけ意地悪な笑み。
⸻
(これ……完全に試されてる)
誠は覚悟を決める。
少し前に身を乗り出して――
⸻
「……好きです」
小さく、でもはっきりと。
⸻
一瞬の沈黙。
そして――
⸻
「……合格」
⸻
真琴が微笑む。
ほんの少しだけ、頬が赤い。
⸻
「私も、嫌いじゃないよ」
(“好き”じゃないのかよ!)
心の中でツッコむ。
でも――
(十分すぎるだろこれ)
⸻
帰り道。
夜風が気持ちいい。
⸻
今度は――
自然に。
手が触れる。
⸻
そして。
今度は――離れなかった。
⸻
(……あ)
(繋いでる)
⸻
ぎこちない手。
でも、温かい。
⸻
「……夫婦っぽいね」
真琴がぽつりと言う。
⸻
「……ですね」
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少し照れながら、二人で歩く。
⸻
こうして。
交際0日で始まった結婚は――
少しずつ、ゆっくりと。
本当の“夫婦”に近づいていく。
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