第三話 「初めて知る妻のこと――年齢差と、ちょっとした冒険」
――婚姻届を出した、その帰り道。
「……」
「……」
二人は並んで歩いていた。
さっきまで“他人”。
でも今は――
(夫婦)
(いや、まだ慣れないなこれ……)
誠はちらっと隣を見る。
小野寺真琴。
32歳。歯科助手。
そして――自分の妻。
(情報量が多い!!)
⸻
「ねえ」
「はい!?」
急に話しかけられて、声が裏返る。
「そんな緊張する?」
「いや、その……するに決まってるというか……」
「ふふ、そっか」
楽しそうに笑う真琴。
(余裕ありすぎだろ……)
⸻
「誠くんってさ」
「くん!?」
「だって18歳でしょ?」
「……はい」
(くん付け……なんか新鮮だな)
⸻
「じゃあ改めて、自己紹介しよっか」
「今!?」
「うん、夫婦だし」
(夫婦って便利な言葉だな……)
⸻
真琴は軽く手を後ろで組んで、少しだけ前を歩く。
まるで“案内役”みたいに。
「私は小野寺真琴。32歳、歯科助手。ゲーム好き」
「ゲーム!?」
思わず食いつく。
⸻
「うん、RPGとか結構やるよ」
「マジですか!?」
誠のテンションが一気に上がる。
(共通点来た!!神イベント!!)
⸻
「昨日の誠くん、完全にRPG脳だったよね」
「バレてた!?」
「“イベント回収”とか思ってたでしょ?」
「……思ってました」
「正直だね」
⸻
くすっと笑う真琴。
その横顔が、やけに自然で。
(ああ……)
(この人、いいな)
誠は改めて思った。
⸻
「誠くんは?」
「え、あ、俺ですか?」
「うん、夫の情報ほしい」
(夫……)
またその言葉で心臓が跳ねる。
⸻
「えっと……ゲーム好きです。あと……」
少し考える。
でも――
(俺、何話せばいいんだ?)
18年間の人生。
急に“妻”に説明するとなると、難しい。
⸻
「……普通です」
「雑っ」
即ツッコミ。
思わず二人で笑う。
⸻
「でも、それでいいと思うよ」
「え?」
「普通の人と結婚したかったし」
「……それ、褒めてます?」
「褒めてる」
⸻
真琴は少しだけ振り返って言う。
「変に大人ぶらない人、好き」
(……やばい)
(普通に嬉しい)
⸻
しばらく歩くと、小さな公園が見えてきた。
ベンチが一つ。
木陰になっている。
「ちょっと休もっか」
「はい」
二人で座る。
⸻
「ねえ誠くん」
「はい」
「結婚した実感ある?」
「……正直、あんまり」
「だよね」
即答だった。
⸻
「私も、ちょっと不思議」
真琴は空を見上げる。
「でもね」
少しだけ、声が柔らかくなる。
「嫌じゃないよ」
⸻
(……)
その一言。
それだけで、誠の中の何かが変わる。
⸻
「俺も……です」
自然に言葉が出た。
「なんか……楽しいです」
⸻
「そっか」
真琴は微笑む。
「じゃあ、このまま“楽しい夫婦”でいこっか」
「はい」
⸻
その瞬間。
誠の頭の中で、またあの音が鳴る。
♪テレレレッテレー
【新クエスト発生】
『楽しい夫婦生活を送れ』
(今度はまともだな……)
⸻
「ねえ、最初の冒険どうする?」
「え?」
「夫婦としての初クエスト」
真琴は楽しそうに言う。
⸻
(冒険……)
考える。
ゲーム脳が動き出す。
⸻
「……とりあえず」
「うん」
「スーパー行きません?」
「生活感!!」
真琴が笑い出す。
⸻
「いいね、それ」
「え、いいんですか!?」
「うん、リアルRPGはまず“装備集め”でしょ?」
「確かに!!」
⸻
こうして二人は立ち上がる。
夫婦としての“初冒険”。
その内容は――
日用品と夕飯の買い出し。
⸻
だけど。
それが妙に楽しくて。
特別で。
少しだけ、胸が温かかった。
⸻
こうして。
交際0日で結婚した二人の生活は――
“冒険みたいな日常”として、静かに始まっていく。
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