第二話 「婚姻届、提出RTA――役所でまさかの展開」
――翌日。
「……マジで来た」
吉田誠は、役所の前で立ち尽くしていた。
手には一枚の紙。
それは――
婚姻届。
(いやいやいやいや)
(昨日の今日だぞ!?)
普通ならあり得ない展開。
だが――
(俺、約束したよな)
歯医者の受付で。
あの人と。
⸻
「お待たせ」
後ろから声。
振り向くと――
そこにいた。
私服の彼女。
(……え)
一瞬、言葉を失う。
白いブラウスに、シンプルなスカート。
歯医者の制服とは全然違うのに――
(やっぱり綺麗だ……)
⸻
「どうしたの?」
「い、いや……本当に来たんだなって」
「来るって言ったでしょ?」
あっさり。
軽い調子。
でもその目は――
ちゃんと本気だった。
⸻
「じゃあ、行こっか」
「……はい」
(え、こんなサクサク進む!?)
誠の中ではすでにタイマーが鳴っていた。
【婚姻届提出RTA開始】
(いやRTAってなんだよ!?)
⸻
役所の中。
平日の昼間で、人はそこそこいる。
その中で――
18歳の男と、年上女性。
手には婚姻届。
(めっちゃ目立ってない!?)
誠は内心で焦る。
だが彼女は平然としていた。
⸻
「すみません、婚姻届の提出で」
カウンターで、彼女が普通に言う。
(普通に言うな!!!!)
職員が少し驚いた顔をする。
そして誠を見る。
「お二人とも……初婚ですか?」
「はい」
「はい」
即答。
(息ぴったり!?)
⸻
「年齢確認させていただきますね」
身分証を出す。
誠、18歳。
彼女――
(……あ、そういえば)
(年齢すらちゃんと知らない)
昨日の会話でなんとなく“大人”とは分かっていたが――
提示された免許証。
(……32歳)
(え、マジで!?)
思ってたより大人だった。
でも――
(……いい)
むしろ。
(めちゃくちゃいい)
⸻
「書類に不備はありませんね」
職員が淡々と確認する。
ペラ、ペラと紙をめくる音。
その数秒が――
異様に長く感じる。
⸻
「では、こちらで受理いたします」
その一言。
そして――
カタン。
スタンプが押される音。
⸻
(……え)
(終わった?)
(いや違う)
(始まった!?)
⸻
♪テレレレッテレー
【ステータス更新】
吉田誠(18)
→既婚者
(バグだろこれ!!!!!!)
⸻
役所を出る。
空はやけに青い。
現実感が薄い。
⸻
「……これで、夫婦だね」
彼女がそう言う。
少しだけ笑って。
⸻
(夫婦……)
言葉の重みが、今さら襲ってくる。
(昨日まで他人だったのに)
(名前もちゃんと知らないのに)
それでも――
不思議と嫌じゃない。
むしろ。
(……嬉しい)
⸻
「ねえ」
「はい?」
「まだ名乗ってなかったよね」
(来た)
(最重要イベント)
⸻
彼女は少しだけ姿勢を正して――
「私、小野寺真琴」
そう名乗った。
⸻
(同じ“まこと”……!?)
衝撃。
まさかの名前被り。
⸻
「あなたは?」
「吉田誠です」
一瞬の沈黙。
そして――
「……運命じゃん」
「それ、俺も思いました」
⸻
二人は顔を見合わせて、同時に笑った。
⸻
こうして。
名前も知らなかった二人は――
同じ名前を持つ夫婦になった。
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