第一話 「診察後、人生を賭けた一言――交際0日婚、申請します」
――そして、運命の“次の診察日”。
「はい、口開けてくださいね〜」
(来た……!!)
再びあの椅子。
再びあの距離。
そして――
再び、“彼女”。
(やっぱり近い……!)
前回と同じ、いやそれ以上の距離感。
器具を取るたびに、自然と近づく体。
誠の心拍数は、もはや通常運転を完全に放棄していた。
(落ち着け……落ち着け俺……)
だが――
ふわっ。
(無理ぃ!!!!)
思考停止。
⸻
「はい、ちょっと削りますね〜」
キュイイイイイイイイイイ
(音がでかい!!心の声がバレそう!!)
誠の中ではすでに別の戦いが始まっていた。
【ボス戦:理性】
HP:残りわずか
MP:ゼロ
(これは……詰んでる……)
⸻
数分後。
「はい、今日はここまでで大丈夫です」
診察終了。
椅子がゆっくり起き上がる。
(終わった……いや、違う)
誠はゆっくりと息を整える。
(ここからだろ)
今日の目的は――治療じゃない。
(“イベント回収”だ)
⸻
受付へ向かう。
彼女がパソコンを操作している。
「次の予約、どうされますか?」
その一言。
普通なら、ただの日常。
でも誠にとっては――
(最終選択肢だろこれ)
脳内に浮かぶ三択。
①普通に予約する
②名前を聞く
③プロポーズする
(いや待て③!?)
だが――
(いや、もうここまで来たら③だろ)
なぜか冷静に判断。
⸻
誠は一歩、カウンターに近づく。
声を落とす。
周りに聞こえないように。
「……あの」
「はい?」
彼女が顔を上げる。
その瞬間――
(あ、やばい)
綺麗すぎる。
思考が飛びかける。
だが、誠は踏みとどまった。
(ここで逃げたら、俺は一生後悔する)
深呼吸。
そして――
「……結婚、しませんか」
静かに、でもはっきりと。
⸻
――沈黙。
時間が止まる。
周囲の音が消える。
(言ったああああああああああああああああ!!!!)
心の中で絶叫。
だが表情は真顔。
なぜならもう後戻りできないからだ。
⸻
「……え?」
彼女が小さく声を漏らす。
当然の反応。
(そりゃそうだよな!!!!)
だが誠は止まらない。
ここまで来たら突き進むしかない。
「交際……0日でいいので」
「えっ」
「むしろ、0日がいいです」
(何言ってんだ俺!?)
⸻
彼女はしばらく固まっていた。
そして――
ふっと、小さく笑った。
「……面白い子だね」
(終わった!?)
いや、違う。
その目は――
少しだけ楽しそうだった。
⸻
「普通は、“付き合ってください”じゃないの?」
「それだと、遠回りかなって」
(よし、今のちょっとカッコよかったんじゃないか俺!?)
誠の中で謎の自信が芽生える。
⸻
彼女は腕を組んで、少し考える仕草をした。
そして――
「……条件、あるけどいい?」
(条件!?来た!!イベント分岐!!)
「はい、なんでも」
即答。
迷いゼロ。
⸻
「ちゃんと歯、全部治すこと」
「はい」
「サボったら即離婚」
「重っ!?」
思わず素でツッコむ。
彼女はクスッと笑った。
⸻
「あと」
少しだけ、声を落とす。
「……ここでは、普通の患者でいてね」
その言葉。
少しだけ距離が近づく。
(近い……また近い……)
だが今度は、違う意味でドキドキする。
⸻
「じゃあ――」
彼女はペンを取り、紙を一枚差し出した。
「次の予約と一緒に……役所、行く?」
(え)
(え??????)
⸻
誠の脳内に再び効果音。
♪テレレレッテレー
【クエストクリア】
『歯医者の助手と結婚する』
【報酬】
・妻
(報酬バグってる!!!!!!)
⸻
「……はい」
誠はゆっくり頷いた。
震える手で、予約票を受け取る。
そして――
人生で初めての“結婚の約束”を、
歯医者の受付で交わした。
⸻
こうして。
吉田誠、18歳。
名前も知らない女性と――
本当に“交際0日婚”をすることになった。
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