第十五話 「崩壊か、突破か――ついに選択の時」
――その日。
(今日が……分岐点だ)
吉田誠、歯医者の前で深呼吸。
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【最終ミッション】
『疑惑を完全に回避せよ』
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(もう逃げられない)
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ウィーン。
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「いらっしゃいませ〜」
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中に入ると――
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(来た)
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稲垣杏里沙。
水瀬梓。
白瀬雪音。
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全員、いる。
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しかも。
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(全員、こっち見てる)
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「こんにちは〜吉田さん♪」
杏里沙がニヤッと笑う。
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「こんにちは」
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「ちょっといいですか?」
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(来た!!!!)
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そのまま、三人に囲まれる形になる。
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「え、えっと……?」
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「ちょっとだけ質問いいですか?」
杏里沙。
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「……答えられる範囲で」
水瀬。
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「す、すみません……!」
雪音。
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(逃げ場なし)
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誠は一瞬、目を閉じる。
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(ここで決めるしかない)
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そして。
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「……いいですよ」
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三人が少し驚く。
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「え、いいんですか?」
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「はい」
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誠は、落ち着いて言う。
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「真琴さんとは――」
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(名前……)
(いや、ここはあえて――)
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「……僕の歯を治してくれる先生です」
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静かな声。
でも、はっきりと。
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一瞬の沈黙。
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「……それだけ?」
杏里沙。
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「はい」
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「特別な関係とかは?」
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「ないです」
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真っ直ぐ答える。
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(ごめん……)
心の中で、真琴に謝る。
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だが。
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(今は守るためだ)
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水瀬がじっと見つめる。
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「……」
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数秒。
沈黙。
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そして――
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「……そう」
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それだけ言って、視線を外す。
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(え)
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杏里沙も肩をすくめる。
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「まあ、そう言うなら……」
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「す、すみません……疑っちゃって……!」
雪音がぺこぺこする。
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「いえいえ」
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(通った……?)
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そのまま三人はそれぞれの持ち場へ戻る。
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(クリア……?)
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♪テレレレッテレー
【ミッションクリア】
『疑惑を回避した』
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(やった……)
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その時。
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「吉田さん、どうぞ」
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真琴の声。
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(行くか)
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診察室へ。
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椅子に座る。
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「……」
「……」
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少しの沈黙。
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「さっきの」
真琴が小さく言う。
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「……はい」
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「聞こえてたよ」
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(やっぱり)
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「……ごめんなさい」
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誠は正直に言う。
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「嘘、ついたんで」
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一瞬の沈黙。
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だが――
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「……いいよ」
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(え)
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「正解」
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(正解!?)
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「今のは満点」
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その声は、少しだけ嬉しそうで。
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治療が始まる。
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キュイイイイイイ……
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だが今日は違う。
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空気が軽い。
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(守れたから……か)
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数分後。
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「はい、終わりです」
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椅子が起きる。
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そのまま。
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「……ちょっと」
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真琴が小さく言う。
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診察室の一角。
少しだけ死角になる場所。
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(え)
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手を引かれる。
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(近い)
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「……よく頑張ったね」
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小さな声。
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そして――
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ぐっと引き寄せられる。
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(え)
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次の瞬間。
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唇が重なる。
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(……)
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今までより、少し長く。
しっかりとしたキス。
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(やばい……)
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でも、今度は――
拒否しない。
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そのまま、受け入れる。
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数秒後。
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ゆっくり離れる。
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「……合格」
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小さく囁く。
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(またそれ……)
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でも。
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その顔は――
少しだけ赤くて。
少しだけ嬉しそうだった。
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「……ご褒美」
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(破壊力!!!!)
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「……ありがとうございます」
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二人、小さく笑う。
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「外では普通」
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「はい」
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「でも」
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ほんの少しだけ近づいて。
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「帰ったら、ちゃんと続きね」
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(続き!?)
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誠、完全フリーズ。
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こうして。
最大の危機は――
“突破”された。
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だが。
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それは終わりではなく。
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むしろ――
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二人の関係が、さらに一歩進んだ瞬間だった。
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