第九話 「歯医者で危機――まさかのバレそう展開」
――数日後。
(また来てしまった……)
吉田誠、歯医者の前。
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【ミッション】
『夫婦関係を隠しつつ診察を受けろ(再)』
難易度:★★★★★+
(絶対前より難しくなってる!!)
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ウィーン。
「いらっしゃいませ〜」
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中に入ると――
(あれ)
(人、増えてない?)
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受付には、真琴以外にもスタッフが数人。
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その中の一人がこちらに気づく。
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「……あ」
ショートカットで元気そうな女性。
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ペコッ。
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「こんにちは」
軽くお辞儀。
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「こんにちは!」
誠も反射で返す。
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さらにもう一人。
落ち着いた雰囲気の女性。
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スッ。
丁寧なお辞儀。
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「こんにちは」
「こんにちは」
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そしてもう一人。
少しおどおどした雰囲気の少女。
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「こ、こんにちは……!」
ぺこり。
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「こんにちは」
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(全員、面識あるな……)
前の診察で見かけていたスタッフたち。
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(なんか今日、やけに挨拶されるな……)
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その様子を――
受付の真琴が、じーっと見ていた。
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(あ、これまずいか?)
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「吉田さん、どうぞ〜」
いつも通りの声。
でも――
(ちょっと圧を感じるのは気のせいか?)
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診察室へ。
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「今日は賑やかだね」
誠が小声で言う。
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「うん」
真琴も小声で返す。
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「同僚の――」
ほんの一瞬だけ視線を動かす。
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「あのショートの子が、稲垣杏里沙」
「元気そうな……」
「うん、めちゃくちゃ喋る」
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「あの落ち着いてる人が、水瀬梓先輩」
「ベテラン感すごいですね」
「めちゃくちゃ怖いよ」
(怖いの!?)
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「で、あの子が白瀬雪音」
「一番若そうな……」
「後輩。めっちゃ純粋」
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(キャラ濃いなこの職場……)
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「はい、口開けてくださいね〜」
通常モードに戻る真琴。
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(来た……)
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椅子が倒れる。
距離、ゼロ距離。
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(今日は周りに人いるんだぞ……!?)
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キュイイイイイイイイ
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治療開始。
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だが今日は――
違う。
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(視線……感じる)
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横から、誰かの気配。
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「小野寺さん、次これ使います?」
稲垣杏里沙の声。
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「ありがとう」
普通に会話。
普通に仕事。
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(完全に職場だ……)
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だがその中で――
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ふっ。
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(え)
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真琴の指が、軽く誠の手に触れる。
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(何してんのこの人!?)
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しかも――
さりげなく、指を絡めてくる。
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(恋人繋ぎ!?ここで!?)
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誠の脳内が爆発する。
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(いやいやいやいや!!バレる!!)
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だが顔は動かせない。
口は開けたまま。
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(拷問!?)
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「大丈夫ですか〜?」
水瀬梓の声。
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(見られてる!?)
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「大丈夫です」
真琴が冷静に答える。
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(お前が一番大丈夫じゃないだろ!!)
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その時。
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真琴が、ほんの少しだけ顔を近づける。
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(え)
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(ちょっと待て)
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(距離……近くないか?)
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治療のふり。
でも――
違う。
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視線が合う。
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ほんの一瞬。
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そして――
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ちゅっ。
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(!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?)
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唇に、軽いキス。
一瞬。
本当に一瞬。
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だが――
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(今の!?!?!?!?!?!?)
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誠、完全フリーズ。
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心拍数、限界突破。
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だが外から見れば――
ただの治療中。
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「……」
誰も気づいていない。
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(いや嘘だろ!?)
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(バレてないの!?)
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真琴は何事もなかったかのように作業を続ける。
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そして、小さな声で。
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「……静かにね、旦那さん」
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(無理!!!!!!)
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数分後。
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「はい、今日はここまでです」
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椅子が起きる。
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誠、放心状態。
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(今の何……)
(夢……?)
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「お疲れ様です」
真琴は普通の顔。
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(演技力どうなってんの!?)
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その時。
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「吉田さん、大丈夫でした?」
稲垣杏里沙が話しかけてくる。
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「え、あ、はい!」
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「今日ちょっと緊張してました?」
ニヤニヤしている。
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(バレてる!?)
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「い、いや全然!」
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「ふーん?」
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その横で。
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「患者さんをあまりからかわないで」
水瀬梓がピシッと注意。
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「すみません」
杏里沙、素直に引く。
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(この人強いな……)
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「だ、大丈夫です……」
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さらに。
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「お、お疲れ様でした……!」
白瀬雪音がぺこり。
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「ありがとうございます」
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(なんかいい子だな……)
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受付へ。
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会計を済ませる。
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その間――
真琴は一切こちらを見ない。
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(さっきのは何だったんだ……)
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外に出る。
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そして――
スマホが震える。
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メッセージ。
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『びっくりした?』
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(当たり前だろ!!!!)
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続けて。
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『我慢できなかった』
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(理性どこ行った!?)
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さらに。
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『今度はゆっくりね』
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(次もあるの!?)
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誠はその場でしゃがみ込んだ。
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「無理……」
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顔、真っ赤。
思考、崩壊。
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その頃。
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歯医者の中。
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「小野寺さん」
水瀬梓が声をかける。
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「はい?」
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「……楽しそうね、最近」
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一瞬の沈黙。
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真琴は、少しだけ笑って。
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「……そうですか?」
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何も言わない。
でも――
ほんの少しだけ、頬が赤かった。
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こうして。
“バレそうでバレない”危険な夫婦関係は――
さらにスリルと甘さを増していくのだった。
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