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13


 それから3日後。私とエドは、今日も元気に大自然を闊歩していた。

 時々、自然ならではの足場の悪い場所もあったけれど、何だかんだ乗り越えていって、随分奥深くへやって来たような気がする。


 ちなみに、私の読みは当たっていて、夜は魔法で組み立てた、もうこれ普通の家だよね?という……家?で寝て、朝は神殿所属の料理長に作ってもらったというご飯を食べ(保存魔法のかけられた容器に入っている)、もはや神殿にいる時とあまり変わらない住処と食を手に入れていた。

 なんと定期的におやつまで出てきて、エドを選んだ私は正解だったとしみじみと思った。


「……ところで、シュアの種ってどこにあるのかな?」

「さあな。俺は場所を教えられていないから」


 エドいわく、どうやら、種の在処を事前に神殿から教えられている神官と、教えられていない神官がいるらしい。

 それって結構な不公平では?と思ったけれど、運を掴みとる力も、一種の才能でその人の力だと言われると、それもそうかと何となく納得した。

 もっとも、場所を教えられているとはいえ、転移先はランダムなことは一緒なので、辿り着けるかはその人次第らしいが。


「シュアの種を探すことが試練だと事前に言われていれば調べていたが、知らされたのは当日だったからな。一般的に知られている内容しか俺も知らない」


 エドはそう言うが、私はシュアの種自体に聞き覚えがないので、知っているだけ大したものだと思う。

 それからしばらくテクテク歩いていると、


「ーーーアウローラ」


 静かな声で名前が呼ばれた。

 うん?とエドを見ると、真剣な表情がそこにあった。


「声が聞こえないか?」

「うん?怪奇現象ってこと?」

「誰もそんなことは言っていない」


 素早く否定された。

 どうやら的外れな返しをしてしまったらしい。

 それはどうもすみませんね、と思いながら耳を澄ますと、確かに、どこからか人の話し声らしき音が微かに聞こえてくる。


「……うん、聞こえているね。地元の人かな?」

「こんな森の奥深くに?いくら地元といえども、こんな場所に人が来るなんてことあるのか?」

「でもほら、私たちだっているわけだし。そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」

「……それとこれを一緒にしていいのか……?」


 激しく疑問を覚えているらしい顔で、エドは首を傾げる。

 ふむ、一緒にしたら駄目だったのか。そうか、そうだったのか。


 見解の不一致というものだなと頷いていると、その声が聞こえていた方角に、巨大な水柱が立った。うわあ、大きい。


「あれは放っておいたら駄目だろ……」

「そうかな?でも、エドだって似たようなことできるでしょう?」

「できるが、そういう問題じゃないんだ」


 きっぱりと言い切る姿に、はあ、と頷いておく。


「まあ、放っておきたくても、どうやら向こうから近づいてきてくれるみたいだけど」


 ドドド、と地響きを立てて、ついでに定期的に水柱を発生させながら、誰かが近づいてくる。「凄い勢いだな」とエドが何とも言い難い雰囲気で呟いた。


 逃げてもいいが、まあいいかと待ち構えていると、こちらへ寄ってくる人物のーーーあれは早過ぎて残像っぽいなーーー姿が見え始めた。

 1人、2人……んん?なんか、何かに追われているかのように必死な表情をーーーって、うわあ。


「逃げるぞアウローラ!」


 エドが私の腕を引いて駆け出す。抵抗することなくそれに従いながら、ちらちらと後ろを振り返る。


 竜だ。間違いなくあれは竜だ。

 しかも2体。出会うことすら珍しい生き物なはずなのに、何をどうしたらあんな状況になるんだ。


 近くの岩陰にたどり着くと、私を座らせ、エドは「おい!こっちだ早くっ」と身を乗り出して大声を出す。


 こちらに近づく足音は着実に大きくなっていき、一段と巨大な水音がした後、ズシャッと滑り込むように2人組が岩陰にやって来た。

 およそ人間の限界に迫るような呼吸音をしばらくさせてから、片方の人物がバッと顔を上げると、


「おい、ちょ…っ…おま、助けろよぉ…っ!!」

「自分で何とかできるだろ」

「できねぇよ!竜だぞふざけんな」

「それはこっちの台詞だ。どうしたら竜を連れてくるんだふざけるな」

「それはその、ちょっと竜の巣にこんにちはしちゃったというか」

「何言っているんだ馬鹿なのか」


 ポンポンと口を挟む間もなく、ある意味テンポよく交わされる会話。

 それに、エドの言葉選びが初対面相手にするのとは違う。もしかして、知り合いだろうか。


「頼むよ、エドアルドなら何とかできるだろ?」

「お前一人で何とかしろ」

「頼むって。…………ところで、そこの美少女は?」


 ひょこりとこちらへ顔を覗かせながら彼がエドに尋ねる。美少女って言われちゃった。どうも、美少女です。てへ。


「俺の同行人だ。以上」

「いや、短い。説明が短過ぎる」


 彼の不満をものともせず無視すると、エドもまた、彼の横へと目を向ける。


「お前こそ、なぜここにいる。水の教会の任務絡みか?」

「まあな。ちなみに、こいつはルーシェ。うちの6級神官だ。……で、ルーシェ。こっちはエドアルド。光の教会の3級神官だ」


 ルーシェさんがエドに対し頭を下げ、エドもまたそれに返す。


「それと、俺はロイド。水の教会の4級神官だ。……お嬢さんのお名前を伺っても?」


 一応、答える前にエドの顔をちらりと見るも、止める気はない様子。自分から説明する気はないが、私の判断で名乗ることまで止める気はないらしい。


「アウローラだよ」

「アウローラか。神官ではないよな?」


 そうだね、一人だけ神官服を着てないからね。

 ちなみに、神官服の基本デザインは各教会で違いはない。白を基調としているのは同じで、所々に施された色付きの装飾だけが各教会で異なる。光の教会は黄色、水の教会は水色といったように。


「こいつは神官ではない。……それより、問題はあの竜だ」


 エドがじろりとロイドを睨む。

 頑張れ。エドの追及は細かいぞ!


 心の中でエールを送りながら、私はこそこそとエドの背後から抜け出し、ルーシェさんへと近づく。

 そんな私の様子に気がついたのだろう、彼女もまた、こちらへと近づいてきてくれた。……まあ、岩陰だから元々そんなに距離はないけれど。


「ねえ、どうして竜の巣に入ったの?」


 小さな声で尋ねると、「ええと、」とルーシェさんは気まずそうに前置きをしてから口を開いた。


「わたしたちは元々、この森にある水玉への魔力供給のために来たのです」

「へえ。ここに水玉があるんだ?」

「はい。それで、供給自体は無事に終わったのですが、転移陣を刻んだ神具を間違って投げてしまって」


 間違って投げた……?


「虫が飛んできて、驚いてしまったのです。神殿には、虫が飛ばされたことでしょう」


 突っ込みどころが度々あるけれど、見るからに真面目そうな彼女は、自分のしたことを深く反省しているらしい。下手に突っ込むと、泣き出しそうな雰囲気だ。さすがの私も、それくらいの配慮はできる。


「森を彷徨い歩いているうちに、体力も限界に近づいてきたので、少し休もうという話になりまして。ちょうど近くにあった洞窟に入ったところ……何かを蹴ってしまったのです」

「ほう、何か」

「はい。慌てて下を見たら、それは卵でーーーあの竜は、卵の父母だと思うのです」

「なるほど。ちなみに、その卵っていうのはどうなったんです?」

「割れてないです。多分。あの竜たちが即座に咆哮を上げて追ってきたので、詳細な確認はできていませんが」


 まあ、自分の大切な子を、その卵を蹴飛ばされたら、竜が怒り狂うのも当然だろう。

 私の立場からすれば不幸な事故に聞こえるけれど、そんなこと、竜たちには関係ない。だって、卵が蹴飛ばされた事実は変わらないのだから。


 とはいえ、このまま竜に追いかけられ続けるわけにはいかない。4級神官と6級神官であればこそ、ここまで逃げてくることも可能であったが、ずっと逃げるには魔力も体力も足りないはずだ。


 理由を聞いて多少の同情も抱いたことだし、とエドたちの方を見ると、ロイドが地面に頭を付けて助力を頼み込んでいた。わお。


「わ、わたしも……っ」

「あ、いや。しなくていいと思う」


 ルーシェが同じことをしようがしまいが、エドの選択にそこまでの影響を与えないだろう。だったら、するだけ無駄だ。

 はあーっと盛大なため息を吐いた後、エドが物凄く嫌そうに口を開いた。


「手を貸してやる。ただし、これが終わったら、こちらを手伝うと約束しろ」

「ありがとう任せろ!……念のため聞くけど、内容は?」

「シュアの種を探す手伝いだ」

「……シュアの種?」


 内容を聞いた途端、ゴソゴソ、とロイドが服の中を漁る。神官服というのは、意外と収納場所がたくさんあるのだ。なぜかは知らないが。


 それより、シュアの種と聞いて動き出したロイドに、私とエドの視線が集まる。……え、嘘。まさか。

 数秒後、ピタッと動きを止めたロイドが、「あったー!!」と大声で叫びながら手を掲げる。


「あったぞ、ほら!シュアの種!!さっき拾ったんだよなー」


 そう言って、シュアの種をエドに渡す。


 なんてことだ。まさかの展開である。

 こんな手に入れ方は考えていなかったが、人から貰ってはいけないというルールがあった訳でもないので、試練的には問題ないだろう。

 ……そう。試練的には、問題ない。


 ガタガタと、後ろでルーシェが震えている。

 うん。そうだね。やっちゃったね。

 そんなルーシェの姿を見て、どうしたのだとロイドが後ろを振り向いて、ーーー固まった。


 そう、そこには、ロイドの声に反応した竜がいる。

 エドがシュアの種を素早く懐に仕舞うと、真っ直ぐ前を見据えた。


「アウローラ。防御魔法」

「うん、分かってる」

「ロイド。追撃しろ」

「わ、分かった。……悪い」

「ルーシェは、ロイドの援護を頼む」

「は、はい!」


 私もエドと同じ方向へと目を動かす。

 勘違いとは言えないくらいに重なってしまった瞳に、えへ、ととりあえず笑ってみせる。こうして見ると、竜って爬虫類っぽいよね!


 ふう、と小さく深呼吸をして気合いを入れる。


 久しぶりに、ちょっと本気にならないと。

 ーーー主に、森の保全のために!


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