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結論から言うと、神官が悪かったため、教会に連絡して後処理を任せて終わった。
結論はこの通りだが、もう少し時系列に沿って振り返ることにすると。
教会に着いた後、まず、エドはリックに神官に話しかけるように言った。リックの言葉が真実か確かめるためだろう。
リックはそれに多少の文句を言いながらも素直に従ってくれ、教会にいた神官に話しかけた……が、それは火の教会の神官である。惜しい、光の神官はその隣だ。
けれどまあ、神官は神官だ。どう対応するかな、と見ていたら、見事に2人とも無視をした。火の神官も、光の神官も、まるで何も聞こえていないかのように無視をする。
ムッとしたリックがその服に触れようとすると、バチッと魔力を走らせて直前で手を止めさせた。驚いたが、間一髪で手を引っ込めたことで、怪我はしなかったようである。少しホッとした。
でも、そうか。間違いなく存在は気づいている、と。
戻って来たリックに、エドが怪我はないかを尋ねると、「いつものことだし平気だ」と答えられた。ふーむ。
ちなみに、なぜ火の神官と光の神官がいたかといえば、この教会は合同教会だからだろう。それなりに規模の大きい町にある教会は大体これだ。
王都とかになると各教会ごとに建てられているけれど、それなりの規模の町にまで、各教会がそれぞれに教会を建てるのも非効率だ。属性によって分かれているだけで、別に教会ごとに対立しているわけでもない。
教会としては神玉ーーー光の教会でいう光玉ーーーを安全な場所に置ければそれでいいし、民からしても、合同だろうが単独だろうが教会があって各教会の神玉及び神官がいればそれでいい。
さすがに教会の総本山である神殿が一つの場所に集まるのは、色々な事情から良くないらしいので、それぞれ違う国に建てられているけれど。
ついでに一応断っておくと、なぜ良くないかは忘れた。聞いたことはあるような気がするけれど、具体的には覚えていない。まあ、忘れたものはいまさらどうしようもないし仕方ないよね!
そんなことをつらつら考えていると、いつの間にかエドが神官たちに近づいて話しかけていた。
距離をとって、こそこそ隠れながら見ているため、何を話しているかは聞こえないが、2人の神官がぺこぺこと頭を下げ始めたのは分かった。
あれは、エドが上位神官だと分かったからこその態度だろう。偉そうな人を目の前にしたら、とりあえずぺこぺこ頭を下げることが大事らしいと私は知っている。
もっとも、教会の神官たちは、身内以外は、王族貴族にさえほとんど頭を下げないし、たとえ下げたとしてもあんまり深くは下げないので、実際に見たことはほとんどないけれど。
……それにしても、本当に何を言ってるのか分からない。ちょっと近づいてみようかな。姿を隠すのは闇魔法なので、多少苦手だけれど、できない訳ではない。
リックたちにこの場所で待っておくように伝えて、私はこそこそ魔法で隠れながら近づいていった。
なになに。なんて言ってる?
「あんな、我々と異なり金も能力も何もない人間など、どうなっても構わないでしょう」
「……へえ。なるほど」
ーーーあ、まずい。
エドの声色が変わった。本当に微かな違いなので、目の前の神官たちには伝わっていないだろう。
けれど、私には分かる。あれは、相当頭にきている声だ。
その辺でやめときなよ。どんな言葉を重ねてきたのかは知らないけれど、それ以上言っても火に油を注ぐだけで、良いことなんて何もないよ。
私だったら今頃、即時撤退を決断して既に走り出している頃だ。
だが、そんな緊急事態になり始めているのに全く気づかない神官たちは、言葉を続ける。
ーーーそして。
「いっそ、この町からいなくなればいいんですよ。力ない者など、いるだけ無駄なんですから」
あ、終わった。
「つまり、君たちは『力』を重視しているということでいいか?」
「そうですね。力の種類に違いはあっても、人間を測るのは結局それになるので」
「そうか。ところで、君たちの得意魔法はなんだ?」
にこりと現実味がないほど綺麗に笑って、エドが問いかける。
それに十数秒見惚れた後、「あ、えっと、」と何度も無駄な前置きをしてから、1人は光魔法、もう1人は水魔法が得意だと答えた。
そうか、ともう一度頷いてから、
「丁度良いな。こう見えて俺は、闇魔法が得意なんだ」
何が丁度良いのかはさっぱり分からない。というか絶対に何も丁度良くない。
私にすら分かるのだから、神官たちにもさすがに分かって……ない、だと……!?
まずい、顔の良さが不穏感と違和感に勝っている。こんなことって……今までもあったなそういえば。
でもよく見てほしい。というか、君たちが本当に見るべきなのは顔ではなく、それ以外だ。
「教会にいる他の神官たちも、君たちと同じ考えなのか?」
「それはそうですよ」
「そうか。……では」
端的に言うと、爆発した。
教会が、爆発した。
いや、この言い方は語弊がある。
教会は無事だ。私が教会の建物自体には防御魔法をかけたので、無事だ。
ちなみに神玉は忘れていたので無事ではないはずだったが、そこはエドが忘れていなかったので何も問題ない。
だが、中にいた神官たちは無事ではない。とはいえ、身体的な損害は、髪がちょっとチリチリパーマというやつになっただけだ。どう見てもオシャレでしたとは思えない、純粋に事故っぽい感じのチリチリになっただけだ。
私でもさすがにあれは嫌だなと思うレベルではあるけれど、音と衝撃と光が派手だった割には無事な方だろう。
ところで、防御魔法が得意と言っていた神官が一番被害が大きいところが、なんか残念だ。おそらく、光の教会の神官であったのに加え、得意だと言っていたからエドも気合いを入れてしまったが、エドの想定よりも得意ではなかったのだろう。
世の中そういうこともあるよね、うん。元気出しなよ。鏡見たら元気なくなるだろうけど、よくよく見たら愛嬌も……特にないな。
えーと、とりあえず神官たちのしていたことは最低なので、これを機に反省する心を持つといいと思う。もっとも、私が偉そうに言えた義理ではないけれど!
あと、なぜ彼らは頭を抱えて絶叫しているのだろう。それから、奥からも同じく絶叫する声が聞こえてきた。
疑問に思った私は、すすす、とエドに近づいていって、
「ねえ、なんで絶叫しているの?」
「幻影魔法だ」
「……うわあ」
幻影魔法といえば、光と闇の複合魔法だ。1人にかけるだけでも大量の魔力を使う上に、非常に難しい……という噂だ。
ちなみに、昔、エドの練習台として使われた時は、最初は花畑にいたはずが、いつの間にかベッドに寝転がりながら周囲にあるお菓子を物色していた。どうやら、無意識にエドの魔法に干渉してしまっていたらしい。
嘘だろ?と唖然とした顔を向けられたが、まあ、私のお菓子愛の方が強かったってことで。
「で、この後どうするの?」
「残りは神殿に連絡して任せる。……これ以上、君の試練を放っておくことはできない」
「その割には爆発させてたね」
「うるさい」
ツン、とあらぬ方向に顔を向ける。照れているのだろうか?でも、やってみせたことは、照れるなんて可愛いらしい内容でもないよね?
まあ、こう見えてエドは正義感が強いからな。それに、エドもまだ若い……って痛い痛い。アウローラちゃんの頬はつまんで遊ぶものではないんだぞ!
「リックのお姉さんはどうするの?」
多少違和感の残る頬を撫でながら問いかける。
「彼の姉だけを特別扱いにはできない。だが、彼はこの問題を告発した功労者でもある」
だから、とエドは続ける。
「ーーー彼が出した金銭の分だけは、教会が責任を持って治癒魔法をかける」
「そう。いいんじゃない?」
記録が残っていなければ、リックが出した金額は分からない。だから、たとえありもしない額だとしても、言われたらそれに応える。エドが言っていることは、つまり、そういうことだろう。
教会は、誰かを特別扱いにはしない、平等を重んじるところだ。
けれど、今回のような功労者に対してさえも何もしないのは、ある意味で特別扱いになるし、平等といえない。
だから、エドの判断は神官として間違ったものではない。
「……ところで、誰に連絡するの?」
「フェルチだ」
「わお」
ある意味で今回の件にびったりな神官だ。
フェルチは20代後半の4級神官で、見た目は穏やかそうで優しそうな感じの男性である。
話すのも上手だし、聞くのも上手なので、4級神官という、比較的上位の神官の中では一見話しかけやすい人物のように見える。事実、よく話しかけられている姿を目にすることは多い。
だが、なんというか……彼の持つ情報量は恐ろしいというか……お腹の中は穏やかでもないというか、まあ、そんな感じである。
簡単にいえば、神殿の情報屋といったところだろうか。
彼の前では、みんなペロッと大事なことを話してしまうし、そうでなくとも、彼いわく「何気ない会話も繋ぎ合わせれば大変興味深いものになるのですよ」らしい。なんかちょっと怖い。
もっとも、彼の持つ、あるいは彼が入手した情報によって、何かよく分からないけど良くない感じの人たちから神殿を守っているらしく、「彼は稀有な才能の持ち主だ」と父が語っていた。
ちなみに、私の情報で何か良い感じのものはないかと昔聞いたら、「そんな無駄な情報は覚えません」と返された。なんか酷い。
まあ、要するに。今回も、ここの神官たちから色んな情報を引き出し、彼らの行ったことを正確に把握して、言い逃れのできない報告書を作成してくれるのだろう。神官たちのしたことは処罰されて当然のことなので、同情はしないけれど。
しばらく待っていると、どこからか足音が近づいてきた。
「フェルチ」
エドが片手を上げて、ここだと合図する。
「エドアルド。アウローラ」
にこやかに歩いてくる姿に、どことなく違和感を覚える。
何せ、ここは今、神官たちの……阿鼻叫喚?が相応しいだろうか。そんな感じの場なのだ。
そんなところで今まで話していた我々も我々だが、それはエドアルドが防音魔法を使ってくれていたからであって、魔法を解いてしまった今は、流石に神官たちの声が気になる。
それなのに、フェルチは全く聞こえていないとでも言うように、いつもと何ら変わらない顔をしているのだ。穏やかで優しそうな雰囲気とは、恐ろしいほど周囲の雰囲気が合っていない。
「ここに転がっているのが、教会の名を落とす愚か者でしょうか」
「そうだ。今は幻影魔法で逃げられないようにしている」
「そうですか。エドアルドの幻影魔法は……私もあまり体験したくありませんからね。彼らのような愚か者が耐えられないのも無理ないでしょう」
一度頷いた後、「さて」とフェルチが私たち2人を見る。
「あなた方は、聖人試練の最中でしょう。あとは私に任せて、速やかに試練に戻るように。これは、神官長からの言葉でもあります」
なるほど。真面目な神官長らしい言葉だ。
「この愚か者の被害を受けた者たちのことも任せなさい。繰り返しになりますが、あなた方は、試練に集中するように」
はあい、と頷くと、よろしいと頭を撫でられた。
そうですアウローラちゃんは褒めて育ててくださいね!
むふーと満足気にしていると、エドがそんな私をじっと見ていた。……なに?エドも撫でてほしいって?
期待に応えてあげようと手を伸ばすと、何とも微妙な表情でそれを受け入れていた。なに、違ったの?
じゃああの表情は何だったのか、と思っていると、今度はエドに頭を撫でられる。私の頭を片手間に撫でながら、エドはフェルチといくつか言葉を交わした後、満足したのか私の頭から手を離した。
「そろそろ行くか」
「はあい」
「表は人が集まっているかもしれません。裏からで出ていきなさい」
「派手な爆発音がしていたもんね」
「うるさいな」
教会の建物を壊す勢いで爆発させていたのだ。結果的に壊れていないとはいえ、音だけはとんでもなく大きかったので、住民たちが集まってきていてもおかしくない。
フェルチの助言にしたがって、私とエドは裏側にあった穴からこそこそと教会の敷地を出た。
それなりの大きさの教会になると、絶対に周りにバレないように魔法が施された抜け穴があるのだ。
ちなみに、もちろん神殿にもあり、何を隠そう聖人の試練初日に使った穴がそれである。
「よし、これからどうする?」
「……とりあえず、北に行くか」
どうやら、私が北門だと言ったことを覚えていたらしい。別に適当に選んだからどっちでも良かったんだけどな。
そう思いつつ、とりあえずエドについて歩いていく。途中、エドをツンツンと突いて怒られるのは、まあ、我々にとって様式美みたいなものである。
え?そんなこと聞いたことない?それはそうだよ。だって言ったことないもん。
そんな適当なやり取りを交わしているうちに、どうやらエドが何かやってくれて、北門から出ることになったらしい。
開かれた門から一歩外に出ると、ーーーいやうん、まあ、なるほど。
目の前に広がる広大な大地と、少し奥に見える山に、全身で自然を感じた。
こう見えて、私は生粋の都会っ子である。リュースフォルト王国は、周辺国よりも栄えている国で、そこの王都生まれ王都育ちといえば、都会っ子と言っても過言ではないはずだ。
だが、そうなると隣にいるエドも同様である。つまり、ここにいるのは都会っ子同士。大自然には慣れていない同士である。
「……ねえ、エド」
「なんだ」
「私、王都から出るの、これで2回目だよ」
「そうか。俺は15回目だ」
へえ、と頷きそうになって止まる。
「え?15回?そんなに出たことあるの?」
「転移陣を使っているからな。それに、用件が終わるとすぐに戻るから、滞在時間としては長くない」
「ふぅん。お気に入りの町とかあるの?」
「基本、町中を歩くことはないからな……。でも、そうだな。フィヨルの町は良かった」
「フィヨル?」
「ああ。色とりどりの家が並ぶ海沿いの町で、少し離れたところから見下ろすと、町並みが水面に映し出されるんだ。あれは美しかった」
記憶をなぞるような声とともに、微かに笑みを浮かべるエドの姿に、そうか、と思う。
同じ王都に生まれ、神殿で同じように育ってきた私たちだけれど、見てきたものも同じではないのだ。
確かにエドは神官で、王子で、私と同じというわけではない。
それは分かっていた。分かっていたのに、私の知らない町の話をするエドは、私とは違う、どこか遠いところに行ってしまったような心地がして、思わずぎゅっと握る手に力を入れてしまった。
エドが驚いたように私を見るのが分かって、私も顔を上げてエドの瞳を見る。
瞳と瞳が合わさって、目の前の瞳に自分が映る姿をじっと見つめていると、やがて柔らかに目が細められた。
「アウローラも、今度一緒に行こう」
「ーーーうん」
小さく返事をすると、ははっと軽やかな笑い声が返ってくる。
「なに?」
「いや、なんでもない。ただ、珍しいものを見たなと思っただけだ」
「珍しいものって何よ」
ぶす、と不満気に呟くが、自分でも珍しいと理解しているからこそ、強くは反論できない。本当に珍しい。今まで、こんな感情を抱いたことなんてほとんどなかったのに。
あやすように優しく揺らされる手に、どこか安心感を覚えてしまうことに、私は私を不思議に思った。




