20.暗殺者2
■20.暗殺者2■
翌日、シャドウ達は旅を続ける。 若干ガビーとシャドウの距離が離れ気味ではあったが。
「で、あいつは朝に窓からでてったと。」
「うん、あいつじゃなくて、ベリーね。 16歳か17歳ぐらいらしいよ。 ちなみに男性経験無しは本当みたいだね。 極度の男性恐怖症っぽいし。 それと、一応流れ者やってたみたいだけど、訳あって暗殺者になったんだって。 あと、依頼主は聞かされてないって。」
「ルルさん、あんたそれ全部聞き出したの? つうか、思ったより若いんだな。」
ルルがニッコリと頷く。 しかし、ガビーは仏頂面だった。
「まあ、もっと聞き出したけど、ちょっとシャドウには言えないかな。」
「ああ、別に聞きたくもないんで。 ってか、ベリーだっけ? あいつ、さっきからなんで後をついてくるの?」
シャドウが振り返ると、あからさまに後をついてきたベリーがさっと木の陰に隠れる。
「一応、シャドウさんの命を狙ってるから、じゃないですかね。」
はあ、とシャドウはため息をつく。
「まあ、いいじゃない。 一応なんだしさ。」
ルルがシャドウの肩を叩く。
「命狙うのに、一応とか訳わかんないんですけど。」
とりあえず、シャドウはベリーを気にするのを止めた。 いつの間にか、赤から緑に変わっていたベリーのマップ表示を見つめる。
シャドウが足を止める。
「どうかしましたか?」
ガビーがシャドウの顔を覗き込む。
「いや、多分盗賊かな? この先で待ち伏せしてるっぽい。」
ガビーとルルが周りを警戒する。 シャドウには盗賊達がマップの赤い点で表示されていた。
「やっぱ、向こうの道を行くべきだったかな。」
途中で道は二股に分かれていたのだが、ルルに加えベリーも付いてきている状況から、シャドウはなるべく人気のない道を選択していたのが裏目にでたようだ。
シャドウは振り向いて、ベリーを見る。 もはや身を隠すことすら諦めたようだった。 そして、ベリーのマップ表示は相変わらず緑である。
「あいつは大丈夫か。」
シャドウは、良し、と気合を入れると、道を進む。
しばらく進むと、マップの赤い点が動き、予想通り盗賊達が道へと躍り出てくる。
「おい、てめ……。」
シャドウは剣を抜くと同時に、盗賊達を目掛けてスラッシュを放っていた。
道を塞ぐように一塊になっていた盗賊達は、スラッシュ一撃で息絶えている。
シャドウは、念のためマップを確認して、ほかに赤い点がないことを確認した。
「この剣、そろそろダメかな。 おい、ベリーとやら。 ちょっと手伝え。」
あちこちヒビが目立ち始めた剣を収めながら、シャドウがベリーに声をかけると、ベリーが目を見開いて固まっていた。
「ちっ、使えねーな。」
シャドウはぶつぶつ言いながら、盗賊達の死体を片付け始める。
ようやく盗賊達の死体を片付けると、といっても道から離れたところに放置するだけだが、なにやらベリーがルルとガビーに話しかけている。
「あれはいったいなんなのだ。」
「まあ、死にたくなければ知らないほうがいいことも、世の中にはいっぱいあるのですよ。」
ガビーはベリーにそういうと、ため息をついてみせる。
「くっ、あんな化け物みたいなやつを殺せというのか……。」
ベリーはがっくりとうなだれる。
「なあ、話してるところ悪んだけど、あいつらの仲間が他にいるとめんどうだからさ、さっさと行っていいか?」
ガビーたち3人がうなずくと、シャドウはさっさと歩き始める。
時には、野宿になることもある。
「はい、お待たせしました。」
ガビーがシチューのようなものをシャドウとルルに配膳する。
「なあ、なんかあれの視線をめちゃくちゃ感じるんだが。」
シャドウが振り返ると、木の陰からそっと顔を出すベリーがいた。
突然、グゥーと大きな音が鳴り響く。 シャドウはルルとガビーの顔を見比べるが、二人とも必死に首をふる。
「なあ、お前か?」
シャドウがベリーのほうを見ると、ベリーは姿を隠していた。 ふぅとため息をつき、シャドウはバックからもうひとつ食器を出すとガビーに渡す。 ガビーも苦笑しながら、受け取った食器によそう。
「おい、うるせえから、こっち来て食え。」
ふと、ベリーが顔を出す。 ルルとガビーがすかさず手招きをすると、音もなくベリーが近づいてきた。
「くっ、もしやこの一杯と私の純潔……。」
「がたがた抜かすなら、食うな。 食うなら黙って食え。」
シャドウがベリーをにらみつける。 ベリーはしゅんとなりながらも、黙々と食べ続ける。
「なあ、お前飯とかどうしてんの?」
シャドウが思いついたようにベリーに尋ねる。
「そ、それは……。」
「やっぱ、なんか秘伝的な食い物とかあったりするわけ? 一粒で1日満腹みたいな。」
「そのようなものが存在するのか?」
ベリーが興味深そうにシャドウに尋ねる。
「なんだ、ないのかよ。」
シャドウはつまらなそうに再び食べ始める。
「僕も気になってるんだけど、ベリーひょっとしてお金もってないんじゃないか?」
ベリーの手が止まる。
「おいおい、金持ってない暗殺者とかありえないだろ。 大体、暗殺者って儲かるんじゃないのか? スイス銀行に口座もってたりさ。」
「スイス銀行? なんだそれは。 それに暗殺者は儲かるのか?」
ベリーが食いついてくる。
「おまえ、俺に聞くなよ。 暗殺者なんだから、お前のほうが詳しいだろ。」
「いや、まったく儲からないぞ? 報酬は成功しないともらえない上に、ほとんどが宿代とか食事代で消える。」
「ん? そういうのって、報酬とは別の経費なんじゃないのか?」
「経費?」
「あ、仕事をする上での必要なお金って感じかな。」
「そのようなものが存在するのか?」
「おまえのとこ、暗殺者って業種もブラックだけど、待遇とかももすっげえブラック企業だな。 以前の俺を思い出すわ。」
「業種? ブラック?」
「いや、気にするな。 まあ食え。 好きなだけ食え。」
シャドウはベリーを生暖かい目で見つめる。
「すみません、ルルさん。 さっきからシャドウさんの言ってることが、さっぱり理解できないのですが。」
「うん、僕もさっぱりわからないよ。 でも、なんかガビーとシャドウは気が合いそうな気はするけどね。」
シャドウは宿屋の窓から土砂降りの外を見ていた。
ふと、隣の部屋の扉があく音がする。 シャドウはもしやと扉をあけると、そこにはガビーがいた。
「ガビー法師、あいつのとこ行くの?」
ガビーが苦笑しながら、シャドウにうなずく。
「んじゃさ、これ渡してやって。」
シャドウはストレージから、自分の予備のマントを渡す。 ガビーは一瞬驚くが、マントを受け取ると廊下を走っていった。
しばらくすると、ガビーがシャドウの部屋に入ってくる。 どうやら、見つけられなかったらしく、マントだけ木に引っ掛けてきたらしい。
「ったく、面倒くせえヤツだな。」
シャドウはマントを羽織ると、外へと向かった。
ガビーがマントを引っ掛けたという木のあたりに行くが、すでにマントはなかった。 シャドウは周りを見渡すが、人影はない。 ふとマップを見ると、ぽつんと緑の点があった。 点の場所を探すと、凍えるようにうずくまった人が見える。
「おい、大丈夫か?」
シャドウは、雨に打たれながら丸くうずくまるベリーに声をかける。
しかし、ベリーは返事をしない。 シャドウのマントに顔をうずめ、肩が大きく上下していた。
「お前、なにやってんの?」
シャドウにようやく気がついたベリーが顔を上げる。 雨に打たれ寒さで体は震えていたものの、その顔には恍惚とした表情が浮かんでいた。
「き、貴様。 い、いつの間に。 こ、この私を不意打ちで……。」
「さっきから、声かけてんだけど? 不意打ちするなら、とっくにやってるっつうの。」
「くっ、しかし、なんだ。 これは貴様のマントであろう。 なぜ貴様の匂いがしないのだ? つまりあれか? 私をだましたのだな?」
「あのな、それ新品なんだけど? 顔うずめてねえで、使えよ。 待て、匂いってなんだよ? なんでお前が俺の匂いとか知ってるわけ? つうか、そもそも、匂いとか嗅ぐなよ。」
「そ、それは貴様が私のターゲットだからだ。 そ、そうだ、暗殺者がターゲットの匂いを知らなくてどうする。」
「お前は犬かっての。」
シャドウはあきれながら、ベリーの手をつかむ。
「き、貴様。 そ、その手を、は、放せ。 さ、さてはこの私の純……」
「うるせえ。 黙ってろ。」
シャドウはベリーを引きずるように宿へと連れて行く。
「あ、すみません、一人追加で。 部屋は相部屋でいいです。 それとまだお湯もらえます? あ、それも。 これ追加分です。」
シャドウはカウンターに金を置くと、ベリーをガビー達の部屋へと連れて行く。
「ごめん、こいつ拭いてやって。 あと金は払ってあるから、その辺に適当に寝かしてもらえるかな。 それとお湯も頼んだから
、それも適当に使って。 んじゃ、あとはよろしく。」
シャドウはまくし立てると、ベリーをおいたまま、自分の部屋へと帰っていく。
翌朝、雨はあがり青空がみえていた。
「んじゃ、いくか。」
シャドウ達は歩き出す。 そして、その中にはシャドウをちらちらと見るベリーもいた。 しかし、シャドウはベリーの視線も、その存在すら気にするそぶりを見せない。
「なあ、シャドウ殿。」
意を決したベリーがシャドウに話しかける。
「何だ?」
シャドウがベリーをじろりとにらむ。
「くっ、同行を許したように見せかけて、その実、突き放すという精神的な攻めでこの私を……。」
「いいから、さっさと用件を言えよ。」
「あの、マントなんだが。」
ベリーがきれいにたたんだマントをシャドウに差し出す。
「ああ、それはお前にやる。 そんなに身長変わらんから、着れるだろ?」
「そ、それは……。」
「うぜえ。 黙れ。」
「いや、いただけるのはありがたいのだが、できればそちらを。」
ベリーがシャドウが着ているマントを指差す。
「いや、そっちは新品だぞ?」
「だ、だからだ。 この私が新品をいただくいわれはない。 そうだ、私なんぞはお下がりで十分だ。」
「いやだ。 断る。 お前、また匂いを嗅ぐつもりだろ?」
「くっ、なぜそれ……。 いや、それは違う。 断じて違う。 なぜならだな、私はそんな変態みたいなことはしないからだ。」
「んじゃ、昨日やってたのは?」
ベリーは黙りこみ、ぼろのマントを脱ぐと、その新しいマントをうれしそうに羽織る。
ガビーとルルは、呆然とシャドウとベリーのやり取りを見守るだけであった。




