19.暗殺者1
■19.暗殺者1■
シャドウ達は宿で寝転んでいた。
「いや、やっぱ一人部屋最強だな。」
シャドウはベットでごろごろと寝転んでいる。 ルルは頑なに拒んでいたが。
「でさ、そこの人。 そろそろ出てきたら?」
フードをかぶった影が、すっと窓から入ってくる。 シャドウにしてみれば、その存在はマップで把握済みだった。
「何の用?」
シャドウがおどけて見せる。 シャドウのレベルは20。 公爵領での一件依頼、シャドウのレベルは順調に上がっている。 しかも全身フル装備である。
「ほう、襲われることがわかっていたのか。 でも安心しろ、苦しまずに殺してやる。」
「ん? いや、殺されるのに安心しろとかおかしいだろ。」
シャドウはゆっくりとベットから起き上がると、手元の剣を抜く。
しかし、シャドウが剣を構えても、暗殺者は焦る様子すら見せない。
「ふっ、貴様は素人か。 その剣をこの部屋の中で振り回せると思うか?」
暗殺者は両手にもったショートソードを構える。
「え?」
シャドウの目が釘付けになる。
「この剣に怖気づいたか。」
「いや、お前女なの?」
鼻までマスクで覆っているため、顔はわからないが、暗殺者の声は女性のもので、そのマントの隙間から見える胸も、革鎧を着けていてもはっきり判るふくらみが見える。
「女だったら何だ?」
「いや、ちょっと気になっただけだ。」
暗殺者が動く。
シャドウは双剣を身のこなしだけであっさりかわす。
「ちょっとはやるようだな。」
暗殺者は、あちこち穴が開きくたびれたマントを脱ぎ去る。
「ダークエルフかよ。」
シャドウの目の前には、青い髪を一つにまとめたダークエルフがいた。
「そうだ。 それがどうかしたか。」
「いや、ちょっと驚いただけだ。 ダークエルフは初めて会ったしな。」
シャドウは、剣の動きを見るように見せかけて、その胸をチラチラと見ていた。 どうやら賢者モードがゆるくなってきたらしい。
ダークエルフが踏み込む。 マントという抵抗がなくなったその動きは、シャドウを追い込む。
「くそっ。」
ダークエルフが言うように、シャドウの剣は部屋の中で使うには長すぎた。 片方を剣で弾き、もう一方からの攻撃をみのこなしでかわすものの、シャドウは一方的に防戦に追い込まれる。 反撃しようとすると、その剣の長さがあだになっている。
盾を取ろうと目で探すが、あいにく盾はダークエルフの向こう側に立てかけてあった。
「往生際が悪いな。」
ダークエルフが、一瞬離れる。 その隙をついて、シャドウは突きを放った。
しかし、その突きはダークエルフにかわされ、首筋を掠めるだけだった。
「ほう、まだそれだけの余力があるか。」
シャドウの突きを見たダークエルフは、距離をとるのは危険と判断し、さらに間合いをつめる。
さらなる双剣の連撃がシャドウを襲う。 しかし、シャドウは防御に徹してそれをひたすら耐え続けた。
その時、均衡が崩れた。
屈みこんで攻撃をかわしたシャドウの目の前で、ダークエルフの胸が革鎧ごと揺れる。
思わずシャドウはそれを凝視してしまい、もう一方の剣がシャドウの頬を掠めた。
「あぶね。」
思わすシャドウが後ろに飛び、体制を整える。 しかし、目が離せない。 その胸から……。
「き、貴様……。」
ダークエルフはシャドウの視線に気がつき、片手で胸を隠す。
しかし、ダークエルフの顔には、羞恥と怒りが浮かび上がっていた。
ダークエルフがシャドウに攻撃を仕掛けるが、片腕で胸を隠すような体制は、シャドウからすれば隙だらけだった。
シャドウの手がダークエルフの腹へと伸び、そのままバッシュを叩き込む。
ダークエルフは、バッシュが直撃した腹を抑えてうずくまる。 シャドウはその隙を逃さない。 ダークエルフから剣を奪うと、ストレージから出した縄でダークエルフを縛り上げる。
ようやくほっとしたところで、ドアがノックされる。
「シャドウさん、ちょっとうるさいんですけど。」
シャドウが返事をする前に、ガビーとルルが部屋へと入ってきた。
「ちょっと、何女の人連れ込んでるんですか。 ひょっとして、それが一人部屋の目的? プライベートとかってそれのこと?!」
「うん、君に女性を縛り上げる性癖があったとはね。 ちょっと僕も驚いたよ。」
ガビーは立ちすくみ、ルルはにやにやしていた。
「いや、連れ込んでねーから。 こいつが勝手に入ってきただけだから。 あと、俺なんでか知らんけど、命狙われてたから。 大低、SMかっつーの。 そんな趣味ねえよ。」
シャドウがまくし立てる。
「で、誰に頼まれたの?」
シャドウがダークエルフの首筋に剣を当てて聞く。 しかし、ダークエルフは何も答えない。
「まあ、想定通りっちゃ想定通りだな。」
「君さ、僕を助けてくれた人だよね。」
ルルがダークエルフに尋ねる。
「ああ、そういえばそんなこともあったな。」
ダークエルフが、ルルを見あげる。
「え? そうなの?」
ルルがシャドウに頷く。 絡まれたルルを助けたのは、目の前のダークエルフだったようだ。
「なんでまた。 お前暗殺者だろ?」
「暗殺者が助けてはいかんのか?」
ダークエルフがシャドウを睨みつける。
「いや、そんな事はないけどさ。 つうか、そのマスク取れよ。」
シャドウがダークエルフに手を伸ばす。
「き、貴様、触るな!」
ダークエルフの強い拒絶に、思わすシャドウの手が止まる。
「あ、わりい。 ガビー法師、それとってくんない?」
ガビーが手を伸ばすと、ダークエルフはそれを素直に受け入れる。 しかし、マスクを取られると、ダークエルフはうつむいたままだ。
「この方、どうされるおつもりですか?」
ガビーがマスクにしていた布を綺麗にたたみながら、シャドウに尋ねる。
「どうすっかね?」
シャドウが腕組みして考える。 と。
「さては貴様、私をこのように縛り上げて、抵抗できない私の純潔を奪うつもりだろう。 先程の目つき、きっとそう考えているに違いない。 くそ、そのような辱めをうけるぐらいなら、さっさと殺せ!」
突然顔をあげ、叫んだダークエルフは涙ぐんでいた。
「なんだそれ?」
一方、シャドウは、ぽかんとしている。
「あのさ、シャドウさ。 一応この人は僕を助けてくれたから、純潔どうこうはともかく、殺すのはちょっと止めてほしいかな。」
「いや、別に殺すつもりないし、そもそも純潔どうこうとかって、まったく考えてなかったし、ガビー法師はその目を止めてほしいんだけど。」
ガビーはシャドウを睨んでいた。
シャドウは思わずガビーから目を逸らすと、ダークエルフの髪に埃が着いているのに気がつき、それを取ってやろうと手を伸ばす。
「さ、触るな。 そのつもりが無いとかいっておいて、安心させて襲うつもりか。 ひ、卑劣な。 くっ、そのような辱めをうけるぐらいなら、さっさと殺せ。」
ダークエルフは、うつむくとシクシクと泣き出していた。
「いや、髪に埃がついて……。 ほんとだって。 ガビー法師、代わりにとってやってよ。」
シャドウが髪の埃を指差すと、ガビーはシャドウを睨みながらも、その埃を取る。
「ねえ、ルルさん。 そこで一人でにやにやしてないで、なんとか言ってよ。 この人、ルルさんを助けてくれた人でしょ?」
シャドウがルルを睨みつける。
「そうだね。 ここに置いておくと、この獣が何するか分からないし、一旦僕らの部屋に移そうか。」
「やはり、貴様は獣なのか。 先程の目つきといい、そうではないかと思っていたが、やはりそうか。 くっ。」
「シャ、シャドウさんって、獣だったんですか……。」
「さっさとそいつ、連れってってくれませんかね? つうか、お前ら全員とっとと出てけや!」
シャドウは頭を抱えていた。




