17.3人旅
■17.3人旅■
「じゃあ、いくのね。」
ルルはレリザ小師に頷く。
「貴方達、お願いがあるのだけど。 いえ、シャドウさんは流れ者ですから依頼ですね。」
レリザは二人に向き合う。
「ルルをファーレンに送り届けていただけないかしら。 この子はどうしてもファーレンにいく必要があるの。でも、この子はエルフでしょう。 一人で向かったら、先日のようなことが起こりえますので。」
ここ、エンドウッドでは先日の若者達のような一部のものを除き、エルフのようなモドキを迫害することはないのだが、都市部に近づくほどモドキを迫害するケースが多くなるらしい。
「ええ、俺は別にかまわないですよ。」
シャドウがガビーを見る。
「私もシャドウさんのお供をするよう仰せつかってますので、シャドウさんがそう言うのでしたら。」
「え? マジで一緒にくるの?」
シャドウが驚く。
「はい、そうですが。 嫌なんですか?」
「いや、嫌じゃなくて、別にいいけど。 その、なんていうか、俺男だし。」
しかし、シャドウはどうやらシャドウの身体になってから、なぜか賢者モードが発動していたのだが。
「そこは承知の上です。 いえ、全部承知しているわけではなく、なんといいますか。」
ガビーが真っ赤になって、しどろもどろの回答を返す。
「あのさ、二人で盛り上がってるところ悪いんだけどさ、僕も一緒なんだけど?」
ルルが覚めた目で二人を見る。
3人は乗り合い馬車で移動していた。 ルルはマントのフードをかぶり、エルフの外見を隠している。
「シャドウさん、報酬もらわなくてよかったんですか?」
「ん? いや、さっきも言ったけど、あとでリトランさんに請求するし。 そもそも、エンドウッド行けっていったのリトランさんだし。 あの人、これを想定してたんじゃないかなって。」
「リトラン様に……、請求……。」
ガビーは固まっていた。
馬車は隣の町へと着く。
乗合馬車は便利な移動手段ではあるが、全ての経路が整備されているわけではなく、エンドウッドからファーレンに向かう場合には、大回りしながら乗り継ぐか、比較的直線距離で途中を徒歩で歩くかする必要がある。
シャドウ達は、ルルのこともあるため、比較的目立たない徒歩を選択する。
町で必要なものを買い込むと、シャドウ達は出発した。 もちろん、がさばる荷物はシャドウのストレージの中である。
「シャドウさん、その魔法カバン凄いですね。 何が入ってるんですか?」
休憩中に、ガビーが興味津々でシャドウに聞いてくる。
「たいした物はいってないけど。 水だろ、塩だろ、天幕だろ、縄だろ、スペアの剣だろ、マントだろ。」
「本当にたいした物はいってないんですね。 伝説の武器とか、秘薬とかないんですか? そんな凄いものなのに。」
「あるわけねーだろ、そもそもんなモン持ってない。」
「君たち、本当に面白いね。 見てて飽きないよ。」
ルルがケタケタと笑い出す。
「外見詐欺のあんたには言われたくねーわ。」
「なにちょっと。 僕に喧嘩売ってるわけ?」
ルルが立ち上がるが、シャドウもそれに応じるように立ち上がる。 しかしルルはシャドウの胸ほどしか身長がないので、シャドウを見上げるように睨み、シャドウは勝ち誇ったかのようにルルを見下ろす。
「ちっ、今日のところはこれぐらいで勘弁してあげるよ。」
ルルは座り込むと、周りの草をぶちぶちちぎり始めた。
「ふふふ、今あの娘、シャドウといったな。 ついに見つけたぞ。 というか思うのだが、依頼してくるなら、もうちょっとまともな情報をよこせと言いたい。 おそらくエンドウッド周辺にいるはず、とか見つかったのが奇跡だぞ?」
フードをかぶった影が、腰の剣を撫でる。
それから数日、3人は特にトラブルもなく旅を進めていた。 徒歩の旅をするものは乗合馬車を利用するものと比べると少ないが、それなりには多いため、要所要所にはそういった人を目的にした村や町があり、宿屋なども困ることはない。 当然、稀に野宿になるケースもあるのだが、幸いにも襲われることはなかった。 もっともシャドウとガビーの二人がいる時点で、大抵のものは問題にはならないのだが。
「なあ、ガビー法師よ。 ちょっと聞きたいんだけど、なんでエルフはモドキって言われてるわけ?」
宿屋の一室で、シャドウがガビーに尋ねる。 ルルは手紙を出してくるといって、外出していた。 商人に渡すと、商人達の流通経路で手紙も送ってもらえるのだという。
通常は2つ部屋を取るのだが、あいにく空いていなかったため、今日は3人で同じ部屋に泊まっていた。。
「エルフとかドワーフは、人間から作られたといわれてますから、人間に似て異なるもの、というところからですね。」
「え? 人間から作ったの? どうやって? つうか、ドワーフもいるの?」
ゲームでは、エルフ、ドワーフ、獣人などがいるのだが、この世界にもいるようだ。
「流石にどやってつくられたのかは知りません。 教会でも教わりませんでしたから。 そもそも作られたと言われていますが、本当にそうなのかはわかりませんよ。 あとドワーフもいますよ。 でも、ドワーフは道具を作る技術に長けてますので、エルフとかほどは迫害されてませんね。 なので、ドワーフをモドキという人はあまりいないと思います。」
「うわ、会ってみてー。」
シャドウは期待に胸を躍らせる。
「シャドウさん、私も一つ伺ってよろしいですか?」
「なに?」
「どうして、わざわざ2つ部屋をとるのでしょうか。 今回のように一つでよくないですか?」
「いや、二人とも夜中までぺちゃくちゃしゃべってるでしょ。 あれ地味にうるさくて寝れないし。」
「ではおしゃべりを止めれば、一つでいいと?」
「却下。 プライベートな時間もほしい。」
「じゃあ、スルメ団の時も、部屋を?」
「いや、スルメ団のときは4人でザコ寝だね。 サンドラさんとか、シャルさんのことは女と思ってなかったし。 つうか、サンドラさん寝相悪いから、なるべく離れてたけど。 一撃くらうと結構ダメージでかいし。」
「ん? 私は女性として認められてる?」
「ん? ルルさんはともかく、ガビー法師は女性だろ? ひょっとして違うの? まさか、ガビー法師って女装男子とかってやつ?」
「何言い出すんですか、 いえ、生まれたときから正真正銘の女です。 ちゃんと子供も産めます。 当たり前じゃないですか。」
「ちょっと、まるで僕が子供産めないみたいな言い方はしないでほしいね。 それに僕は僕は紛れも無く女だよ。」
いつの間にか扉の前にルルがいた。しかし、マントは泥まみれであちこち破れている。
「いえ、そういう話ではなく、って、どうしたんですか、そのマント!」
「ちょっと絡まれてね。 通りすがりのダークエルフに助けてもらった。」
一瞬ダークエルフもいるんかい!と言いかけたシャドウだった。
「ルルさん、怪我は? ガビー法師、癒し、癒し。」
「大丈夫。 ちょっとすりむいた程度だから。 こんなのは怪我に入らない。」
ルルがくるっと回って、ちょっと笑ってみせる。
「なあ、エルフって力は弱いけど、法力に長けてるんだろ? そしたらさ、身体強化できないのか?」
「ん、僕達エルフは放出系だからね。」
「んじゃ、自分で癒せるってこと?」
「いや、癒しは無理じゃないかな。 すくなくとも里にはいなかったね。」
「つかぬ事を聞きますけど、何ができんの?」
ルルはにやっと笑うと、人差し指を立てると、なにやら唱えてその指先に5cmほどの火を出現させる。
「うおっ! すげっ!」
ゲームでは、ファイアはLv5、ウォータがLv8で魔法使いが使えるようになる。 シャドウはすでにLv20近くであったが、剣や盾のようにちゃんばらなどでイメージと実体験が伴うものはともかく、魔法は実体験がまったくなく、理屈もさっぱりわかっていないためか、発動する気配が無かった。
「私だって一応できますよ。」
そういうとガビーも指先に1cmほどの火を出してみせる。 その炎はゆらゆらと揺れながら燃え続けていた。
「ほう、人間にしては優秀なほうだね。」
「それ、どうやんですか?」
「シャドウ、君は循環系みたいだから難しいと思うけど、集中して『火よ燃え上がれ』と唱えるんだ。」
シャドウは人差し指を立て、じっとその指先を見つめる。
「火よ……、あっちーーーい。」
突然、シャドウの手が炎に包まれる。 そして、シャドウの服の袖へと燃え移った。
「やべえ、燃えてるって。 水、水」
「おい、落ち着け。 『水よ沸きでよ』」
ルルが唱えると、ルルの指先から水があふれ出て、シャドウの服の火を消し止める。
「あー、びびった。 ルルさん、ありがと。」
シャドウはほっとしていた。 しかし、ルルはほっとしたのもつかの間、その手が震えている。
「ルルさん?」
「バカにするのもいい加減にしろ、なんだそれは。」
ルルが突然怒りだし、そっぽを向く。
「え? なにこれ? 俺なんか悪いことやった? とりあえず、ごめんなさい。」
シャドウがルルに頭を下げると、それを見たルルの動きがさらに強張る。
「ちょっと、なに怒ってるんすか。 ちゃんと謝ったでしょ? 土下座でもしろと? ああ、やってやるよ。」
そういうと、シャドウはどかっと座り込むと、ルルに土下座をしてみせる。
「あ、あの、シャドウさん? そういう意味じゃないかと……。」
ガビーはおどおどしていた。 そして、意を決すると、ルルを部屋の外へと引っ張っていく。
しばらくして、二人が部屋に戻ると、ルルの顔からは怒りが消え、代わりにあきれた表情になっていた。
「シャドウ、まったく君ってやつは。」
ルルがシャドウをたたせる。
「いいさ、説明しよう。 まず、法力っていうのは、法力と術式がマッチして、はじめて発動するのさ。 しかし、僕は放出系ではあるけど、癒しの術式をどれだけ正確に唱えても、せいぜい針でつついた傷を癒すのが精一杯さ。 これはよくわかってないんだけど、法力には属性みないなものがあるんじゃないかと考えてる。 さっきガビーが優秀だって言ったよね。 彼女は放出系で癒しの技を使える。 でも、大きさはともかく、あの火をあれだけ安定して出せるというのは、これは結構すごいことなんだ。」
シャドウがうなずく。
「そして、まず、最初はどれだけ才能があっても、かならず発動しない。 すくなくとも、さっきまで僕はみたことがない。 でもね、君は暴走したとはいえ、発動させているんだ。 しかも正確な詠唱なしでね。 それに、暴走というのは、発動させられるものが、コントロールに失敗して始めて起こるんだ。 さらに君は循環系だったね。」
シャドウの表情がこわばっていく。
「そして、君は見ず知らずの僕を助けてくれたね。 それだけなら、ただの親切な人で説明がつくかもしれない。 でも、レリザ小師の依頼とはいえ、エルフの僕をファーレンまで送り届けてくれるとかいうじゃないか。 そして、さらには自分が悪くもないのにこのエルフの僕に土下座までしてみせるって。」
シャドウはあっけにとられていたが、頭をぽりぽりかき始める。
「んー、なんつうか、自分でもよくわかんないけど、相手を怒らせたら謝っとけみたいな? 法力がどうこうってのは、もっとわかんないけど。」
ルルはプッと噴出す。
「シャドウ、君は面白すぎる。 おそらく君と出会えたことは、神に感謝すべきことなのだろう。 いや、神の思し召しということだろうか。」
「あー、それはあるかもしんないですけど、どっちかって言うとリトランさんの差し金ってほうが合ってるかも。」
シャドウとルルはお互いを見合うと、大笑いし始めた。 そして、ガビーはそんな二人を見つめ続けることしかできなかった。




