16.エルフ
■16.エルフ■
「はい、吸って。 大きく吐く。」
シャドウは小師から身体強化を教わっていた。 二人の法師は、バッシュのコツを掴んだらしく、大慌てで旅へと戻っていく。ちなみにこの二人の法師が発勁を編み出すのは後の話である。
そして、ようやく、といっても通常の人よりははるかに早くシャドウは身体強化を身に付けた。 身体強化はきっかけさえ掴めば、常にパッシブスキルとして有効になっていた。
そして、それをきっかけとするかのように、シャドウを取り巻く環境が動きだす。
シャドウがもはや日常と化した玄関の掃除をしていると、なにやら騒がしい声が聞こえてくる。
気になったシャドウが声のするほうへといくと、少年が3人の20台半ばほどの男達に暴行を受けていた。
「おいおい、なにやってんだよ。」
シャドウが思わず男達を止めにはいる。
「ああ?! 邪魔すんじゃねえよ。 こいつモドキだぜ?」
「へ?」
シャドウが少年を見ると、その耳が長い。
「ちょ、エルフじゃんか。」
「エルフとか呼ぶ奴いねーよ。 そいつらはモ・ド・キ。」
男の一人があざけるように言う。
「はあ? モドキ? なんじゃそりゃ。 そもそも、なんでぼこってんだよ。 こいつがなんかしたの?」
シャドウはいらっとしていた。
「はあ? モドキだぞ?」
「いや、モドキってのはぼこっていいのかよ?」
「いいに決まってんだろ?」
さらにシャドウがイラつく。 ふとエルフの少年をみると、ピクリとも動かず、その顔色が悪い。
「やばっ、これ、かなりやばくね?」
シャドウは男達を無視してエルフの少年を抱きかかえる。 身体強化が有効になっているシャドウは、エルフを抱えてもその動きが変わらない。
「てめえ、なにしてやがんだよ。」
男の一人がシャドウに食って掛かるが、シャドウは通称やくざキックの要領で男を蹴り飛ばす。 蹴り飛ばされた男は数メートルほど吹っ飛び、うずくまったままうなっていた。
「この野郎!」
さらに二人がシャドウに掴みかかろうとするが、シャドウはすばやく二人にローキックをかますと、一目散に駆け出していた。
しばらく走って後ろを見ると、男達がうずくまっている様子が見え、追ってこれる状況ではないようだ。
後先を考えていなかったシャドウだったが、とりあえず教会にそのエルフを連れて行く。
「あら、その子は?」
「その先で絡まれてたんで。」
レリザ小師がそのエルフの顔色を伺う。
「あら、ルルじゃない。」
「このエルフ知ってるんですか?」
「ええ、とりあえず命の別状はなさそうね。 気を失ってるだけみたい。 とりあえず、あっちに寝かせてもらえるかしら。 あとガビー法師を呼んで。」
シャドウは来客用の部屋へとエルフを運ぶと、ガビーを呼びにいくが、丁度ガビーも物音を聞きつけてすぐに見つかる。
「ガビー法師、頭とおなかに癒しをお願いできるかしら。」
ガビーはレリザに頷くと、頭に手をかざして目をつぶる。 すると、エルフの表情が落ち着いていく。
「それって。」
「癒しの力ですね。 ガビー法師は放出系ですので。」
「放出系?」
「ええ、法力には放出系と循環系があります。 放出系は癒しの技が得意で、私のような循環系は身体を強化する技ですね。」
「なるほど。」
続いてガビーはエルフの服をめくろうとするが、ふとシャドウを振り返る。
「シャドウさん、何やってるんですか?」
「え? 見てるだけだけど。」
「それは分かります。 あのちょっと外いってもらえますか?」
「あ、はい。」
シャドウはわけが分からず、とりあえず部屋からでて待つことにした。
しばらくすると、レリザとガビーがやってくる。
「大丈夫そうですか?」
「ええ、打ち身とか打撲だけみたい。 落ち着いてるから、大丈夫ね。」
レリザがシャドウに答える。
「あの男の子、エルフですよね?」
「え?」
「ん? エルフって言わないんですか?」
「いえ、エルフですが……、ルルは女性ですよ?」
「は?」
レリザの衝撃発言に、シャドウが固まる。 しかもルルは25歳ぐらいだという。 どうみても中学生ぐらいにしか見えず、そしてその体型はまさに男なのだが。
「つまり、エルフは貧……。」
「ああ、レリザ小師。 助けてくれたんだ。 ありがとう。」
ルルがレリザに頭を下げる。 ルルの目がシャドウで留まる。
「君は?」
「俺はシャドウ。」
「そう、僕はルル。 君が助けてくれたのかい?」
「僕って……。 僕っ子かよ。」
シャドウが思わず口に出すが、ほかの3人は首をかしげていた。
「助けてくれてありがとう。 そうだ、ちょっとお祈りさせてもらっていいかな。」
ルルは立ち上がると礼拝堂へ行き、神に祈りをささげる。
「あの子はたまにこうして教会にお祈りくるのですが、村の乱暴な若者達に絡まれることがあって。」
「やっぱここかよ。」
バタンという音と共に、礼拝堂の扉が開かれる。 そこには先どの3人を含めた男達が立っていた。
「あいつら。」
シャドウが男達に向かおうとすると、ガビーがそれを止める。
「私がいきます。」
ガビーは錫杖を手に取ると、男達へと向かっていく。
「神聖な教会で何事ですか。」
ガビーが男達に言い放つ。
「なんだよ、この女。 やんのかよ。」
男達はガビーを見ながらニヤニヤしている。 突然ガビーが一人の足を錫杖で払う。
「この野郎。」
4人の男達が、一斉にガビーに襲い掛かる。
しかし、ガビーは冷静に正面の男の腹を突くと、しゃがみこみながら錫杖で男達の足をなぎ払う。
一瞬の出来事であった。 男達は腹や足を抱えながら、うめき声を上げていた。
男達は正座していた。 もともとエンドウッドとその周辺にある集落の出身であったが、流れ者として名を上げるべく数年前に村をでた。 しかし、現実をみせつけられて戻っては来たのだが、その鬱憤をたまに教会に来るルルにぶつけていたようだ。
「貴方達、次はありません。 次はその腕の一本もないものと知りなさい。」
ガビーが男達に雷を落とす。
「つうかよ、流れ者じゃなくても法師でもいいんじゃね?」
その言葉に、ほかの男もうんうん頷く。
「あのね……。 法師にそんな簡単になれるわけ無いじゃないですか。 だいたい法師を目指すなら幼い頃から教会で勉強しないといけないんですよ。 それにそういう子は、大体が人減らしで教会に来るんです。 だいたい、全員が法師になれるわけでもないですし。」
男達の態度が硬直する。 エンドウッドとその周辺は村としては比較的裕福な部類に入る。 しかし、ここよりも貧しい村があり、人減らしが存在することは見聞きしているようだ。
「まあ、流れ者も死ぬときはあっさり死ぬしね。」
シャドウがしみじみと言う。 実際、シャドウも何人かの流れ者の死を見てきていた。
「でもよぅ、スルメ団とかかっこいいじゃねえか。」
「あのな……、あの人達化け物だから。」
「そうだね、シャルも頭はいいけど、ネジがいくつか跳んでるよね。」
ルルも頷く。
「確かにシャルさんも、ってシャルさん知ってんですか?」
「うん、友達だから。 でも君も結構詳しいね。」
「ああ、俺も一応はスルメ団だったんで。」
男たちに動揺が走り、その目はシャドウとルルを行ったりきたりしている。
「とにかく! 今後は絶対にやらないように。 判ったら行ってよし!」
ようやくガビーに開放された男達は、シャドウとルルを尊敬のまなざしで見つめながら帰っていく。
「ねえ、ルル。」
「なに? レリザ小師。」
「あなた、あの話を受けるなら、今なら力になれると思うわよ。」
「そう、ありがとう。 もう少し考えてみる。」
「判ったわ。 ところでルルを里まで送ってもらえないかしら。」
レリザがシャドウとガビーに微笑みかける。
エルフ達の里は、エンドウッドから2時間ほど歩いた森のなかにあり、数十人のエルフ達が暮らしている。
森の中という以外は周辺の集落とさほど変わらないのだが、そこは里と呼ばれていた。
そして、ルル達が住む里以外にも、いくつかのエルフの里が森の中には存在している。
ルルの里は、エルフ特有の耳を除くと、美男美女というわけでもなく、男女および老人から子供まで殆ど差はない。
また、長命の種族かと思いきや、人間と変わらず、ルルがたまたま幼く見えているだけのようだ。
エルフの生活は、いくつかの小さな畑は見受けられるものの、主に森から取れるものや小動物などを狩ってくらしていた。
そして、女性達ははっきりと女性とわかるものの、みな貧……。
薄暗い部屋の中。
一人の老婆が椅子にもたれかかっていた。 その部屋に一人の男が入ってくる。
「教祖様、呪い姫の呪いを解いたものがわかりました。」
「なにやつじゃ?」
「シャドウとかいうものだそうです。」
「何奴じゃ?」」
「流れ者のようですが、フラッと現れたようで、その正体は今だ不明です。」
「流れ者風情が、あの呪いを解いたというのか。」
「いや、背後には教会のリトランが絡んでいる模様。」
「うむ。」
老婆は腕組みをすると、しばらく考え込む。
「放ってはおけんな。 リトランはともかく、そのシャドウとやら、あやつらに始末させよ。 くそっ、あの若さを取り戻さねば。」
男は老婆に一つ頷く。
フランソワにかけられた呪いは、フランソワの若さを邪神教団の教祖である老婆に若さをもたらす呪いだったようだ。




