13.ある法師の旅立ち
2章開始
■13.ある法師の旅立ち■
ガビーは、ラモナへと向かう馬車に揺られながら空を見上げる。
ガビーは12歳のとき、ここファーレンの教会へとやってきた。 教会にはさまざまな者がいる。 たとえば、貴族の娘が行儀見習いとして、またそうではない娘達が巫女の見習いとして。
貴族の娘達は、数年ほど教会に行儀見習いとして勤めることで、箔をつけてそれぞれが嫁いでいくことは一般的なことである。
市民や非市民の子供たちは、あるものは自ら僧や巫女を目指し、またあるものは人減らしの救済として教会に勤める。
ガビーは地方のとある男爵家の長女として生まれ、行儀見習いとして教会にやってきた。 しかし、ガビーが14歳のとき、その男爵領で流行り病が発生し、男爵家の一族はガビーを残して帰らぬ人となるが、14歳のガビーが後を継ぐわけにも行かず、また、代わりの後継者に慣れる者も見つからなかったため、御家も取り潰しとなっていた。
当初は15歳で男爵領にもどり、他の貴族との結婚をする予定であったが、戻るべき家も無くなったガビーは、生きるすべとして巫女への道をえらんだのである。
通常、行儀見習いと巫女見習いは、その性質の違いから水と油のような関係ではあったが、ガビーは地方の男爵家という家柄と、もともとの貴族っぽくない性格のため、行儀見習いではあるが見込み習いとも良好な関係を築けていたのは幸いであった。
「で、ガビー様ちょっと聞いてくださいよ。」
巫女見習いの少女がガビーに愚痴るのを、ガビーは微笑みながら静かに聞き入る。
「それは大変ですね。 でも、人にはそれぞれ神に記された道があるのはご存知でしょう? 貴方とあの方に記された道が違うだけで、どちらかが正しく、どちらかが間違っているという事ではないと思います。」
ガビーは教科書通りの回答をするが、少女とてガビーに何かしらの解決を求めているわけではないことも重々承知していた。 単にガス抜きがしたかっただけであると。
案の定、見込見習いの少女は、すっきりした顔でガビーに礼を言うと去って行った。
「やあ、、ガビー。 君はどうするんだい?」
ガビーが振り向くと、知り合いの僧見習いの少年がいた。
「んー、やっぱり法師かな? あなたは?」
「当然法師だろ、そりゃ。 僕はゆくゆく大師になる男だからね。」
アース教では、男性は僧、女性は巫女と呼ばれる。 そして、僧、巫女は、それぞれ見習い、法師、小師、中師、大師という位に分かれており、僧や巫女の見習いは法師を目指すことが一般的であった。
「でも、ガビーはもともと行儀見習いだろ? 別に法師にならなくてもいいのでは?」
少年の言葉にガビーは首を振る。
「私には帰る家もないし、生きていくすべもないから。 ちょっと治癒ができる程度だしね。 なら法師を目指したほうがいいかなって。」
ガビーは笑って見せるが、その笑みには寂しさが付きまとっていた。
「じゃあ、次は法師として会えることを楽しみにしてるよ。 お互いに頑張ろう!」
そういうと僧見習いの少年は去っていった。
ガビーはため息をつく。 見習いが法師になるためには、試験がある。 基本的に見習いは数年を掛け法師として必要な知識などを学ぶのである。 そして、16歳から17歳にかけて、試験に合格するのが一般的である。 試験に落ちても法師を目指すことは可能だが、その場合、衣食住を保証された見習いとしてではなく、自立しながら目指すことなり、それなりの経済的なバックボーンが必要となる。 頼れるものが居ないガビーにとって、今回の試験は最終試験ともいえた。
ガビーは当初、行儀見習いであったため、法師になるためのカリキュラムは免除されていたために15歳からそれを受けており、周りの見習いからすれば、かなり不利な状況である。 それなりに頑張ってきたものの、受かる自信があるかと問われれば、首をかしげざるをえない状況である。
そんなガビーに、運が回ってくる。
リトラン大師の助手を法師、もしくは法師を目指すものから選抜する、というお触れがでた。
条件は、癒しの力をもつこと。 ガビーは癒しの力といわれる治癒には若干自信があった。 むしろ、ガビーの唯一の武器である。
そして、選抜に選ばれた場合、見習いの場合は自動的に法師となる。
そんなガビーの目論は、目の前の希望者の群れとともに、脆くもくずれていた。
ガビーのいる教会だけではなく、モルト国中の法師とその見習いも選抜試験に押しかけていた。
その数、100を優に超える。 しかも、各教会で選抜されてきた優秀な人材達であり、法師のほうが優位であることは言うまでもない。。
かくして、ガビーは失望を胸に、選抜試験へと望んでいた。
「それでは、諸君らの検討を祈る。 神の御心のままに。」
ファーレンのアース教教会で数名の若者達が合掌して頭をたれる。
彼らはこれから法師として修行の旅へとたっていくのだ。
「ガビー法師。」
中師に名前を呼ばれ、ガビーは直立不動で返事をした。
「クリイド大師がお呼びだ。 後ほど伺うように。」
周りの法師が一瞬ざわつくが、それぞれ己の旅の準備へと向かっていく。
「ガビー法師、まいりました。」
ガビーはクリイド大師の部屋をノックする。 「入りなさい」との返事のあと、ガビーは部屋へと入っていく。
「準備で忙しいところ、すまない。」
「いえ、さしたる準備もございませんので、問題ありません。」
ガビーは緊張の趣で答える。 ガビー法師。 17歳。 彼女は教会で修行僧として勤め、晴れて法師となったひとりである。 そして、今回の法師の中で唯一リトラン大師のサポート役として選ばれていた。
「さっそくだが、リトラン大師はラモナに居られる。 ラモナへと向かってもらおう。 ラモナへの馬車はこちらで手配させてもらう。」
「承知いたしました。」
ガビーは緊張した面持ちで答える。 クリイド大師はこのモルト国にいる数少ない大師の一人であり、モルト国におけるアース教の最高責任者、かつファーレンの教会長でもある。
「まあ、そう堅くなるな。 リトランはちょっと変わったやつだが、ガビー法師なら問題ないと判断している。 そうそう、リトラン大師だが、訳あって法師を名乗っておられる。 その点は注意していただこう。 では、神の御心のままに。」
「神の御心のままに。」
ラモナについたガビーは、一旦教会へと向かおうかと思ったが、指定された怪しげな酒場へと向かうことにした。
酒場には、流れ者達が日も高いうちから酒を飲んでいたが、その一角に雰囲気の違う集団がいた。
「リトラン大……、様でしょうか。」
「ええ、貴方がガビーさんですね。 お待ちしておりました。」
リトランの脇には、騎士のような身なりの男女が座っている。
「紹介しましょう。 こちらはガビー法師。 そちらの二人は公爵騎士団の指南役のトーマスさんと、騎士のサンドラさんです。」
トーマスとサンドラが軽くガビーに会釈する。
「こ、公爵騎士……。」
思わずガビーが後ずさる。
「あんま気にしなくていいわよ。 あたしら今でこそ騎士とかいってるけど、ついこの間までその辺の流れ者と一緒だから。」
サンドラがにやっと笑う。
「え? 流れ者が騎士?」
ガビーは道中での噂を思い出す。 公爵家のフランソワ様を流れ者が魔女から救い出したという話を。
「ひょっとして、スルメ団?」
「あっちゃー。 俺らも有名になったもんだ。」
トーマスががははと笑う。
「さて、長旅でお疲れでしょうから、本日は教会にてゆっくりお休みください。 明日から始めましょう。」
「承知いたしました。 明日から……。 なにが始まるのでしょうか?」
リトランがトーマスとサンドラをチラッと見る。
「このお二人に修行をつけていただくのです。」
翌日から、ガビーはトーマスやサンドラの暇をみて戦闘訓練を受けていた。 公爵にはリトランから了解を貰ってあった。
「んー、もうちょっと周りを見たほうがいいかな。 あとビビッて猫背になりすぎ。」
「はい!」
サンドラが的確に指摘していく。
「お前さんの剣筋、いや棒筋か、分かりやすすぎんな。 棒ってのは、両方でぶっ叩けんだろ?」
「はい!」
ガビーはなきそうになりながらも錫杖を振るう。
「いかがですかな?」
リトランがトーマスとサンドラに尋ねる。
「まあ、筋はわるくねえな。 とりたてて良くもねえが。」
「でも、頑張ってるしね。 その辺の流れ者だったら、負けないんじゃないかな? といっても、防御しまくって、隙をついて足をぶったたいたら速攻逃げる、ってのしか教えてないけど。」
サンドラにトーマスが頷く。 ガビーはちょっとうれしそうに微笑む。
「では、そろそろ大丈夫そうですね。」
リトランが頷く。
「でも、本当にその娘をシャドウに同行させるんですか?」
サンドラが心配そうにリトランに尋ねる。
「ええ、そうですが。 何か問題でも?」
「いえね、がびーって可愛いじゃないですか。 スタイルもいいし。 お姉さんちょっと心配かなって。」
「ばかか、てめえは。」
トーマスがサンドラにあきれる。 ガビーもびっくりしていた。
「ははは、そっちですか。 まあ、そこは男女の仲。 私どもがどうこう言う筋合いではないかと。」
「いや、教会の人たちってのは、神に使えるんでしょうよ。」
トーマスがリトランを見る。
「まあ、そうですが、別に婚姻を否定している訳ではないですよ。 実際、僧や巫女にも結婚して子を設けているものもおりますし。 それに……。」
「使徒だから、神とかわんねえ、とかいうんじゃねえでしょうね?」
トーマスが声を潜める。
「確かにそういう見解もありですね。」
ガビーは頭が真っ白になっていた。
「し……」
あわててサンドラがガビーの口を押さえる。
「それは内緒だから。 わかった?」
ガビーがこくこくと頷く。
「では、5日後に出発していただきましょうか。 シャドウ様もおそらく今頃はエンドウッドに到着されているでしょうし。」
「いや、してないんじゃないかなぁ? あいつ、多分歩って向かってるでしょ?」
「は?」
リトランがサンドラを見つめる。
「いえね、あいつ、歩って行ったんですよ。 乗合馬車の乗り場じゃなく、直接外に。 ひょっとしたら、乗合馬車の乗り方ってか、乗合馬車を知らないかもしんない。」
サンドラが苦笑する。
「おい、サンドラ。 そんくれえ教えとけよ!」
トーマスがサンドラを睨み、リトランはため息をついた。 ガビーはおろおろするばかりであった。
2章は途中まで書き終わってますが、なんか話があちこち食い違ってるので、修正、精査してからUP予定




