トルミ村⑤
「カリウス…….!なぜお前がここに…!?」
俺の言葉に、カリウスは反応を示さない。ただ虚ろな目でじっとこちらを見ている。
「アンデラ貴様!!カリウスに何をした!?」
「何って、あたしはただ提供された素材を使ってアンデッドを作っただけですけどー?てか、この人がカリウスって名前も初めて知りましたー」
アンデラの不貞腐れた態度から察するに、彼女の言葉は事実なのだろう。ただ提供された……一体誰に?カリウスにそのようなことをする人物。思い浮かぶのはただ一人だが、奴の恨みを買うようなことをカリウスがするのか?
「アンデラ、一つ質問に答えろ。なぜ貴様が、アリステル王国の官僚であるカリウスをアンデッドにした?カリウスは、どこかの戦線に送られていたのか?」
「えー、なんであたしが答えないといけないのー?めんどくさいなぁ…。あ、なら答えてあげるけど、この縄解いてくんない?交換条件ってやつー⭐︎」
「レノン様!奴の口車に乗せられてはいけません!解いたところでやつが答えるとも限りません!」
フレンの言うことはもっともだ。しかし、俺は理由を聞かなければならない。
「フレン、縄を解け。」
俺は理由を聞かなければならない。例えアンデラが答えないとしても、俺は何も知らないまま、彼と、友人と戦うことはできない。
フレンが俺の指示に従って縄を解くと、アンデラは肩を回しながら、カリウスの横に立った。
「まおうさまはほんとーにお人好しだね⭐︎あたしが話すなんて保証もないのに⭐︎まぁ、すぐに解く判断をしてくれたことに免じて今回は話してあげるよ⭐︎おーい、誰でもいいから机と椅子になってよー⭐︎」
アンデラがそう言うと、兵士アンデッドの数人が、四つん這いになり、机と椅子の代わりになった。別のアンデッドがティーカップを用意している。
「まぁ、座りなよ⭐︎立ったままじゃ話しにくいでしょ?」
「いや……遠慮しとこう」
アンデッドとはいえ、元人間。その上に座るのは気が引ける。
「ふーん、ま、いいけど。じゃあ、何から話そうかな⭐︎まずはアンがどういう立場なのかはっきりさせておいた方が話は早いかな⭐︎まおうさまは元アリステル王国の人間だよね?」
「ああ、そうだ。それがどうした?」
「なら、アリステル王国最悪の呪術師の話は聞いたことがあるんじゃないかな⭐︎」
国最悪の呪術師。もちろん知っている。アリステル王国の子どもであれば誰でも知っているだろう。
幼少期に悪いことをすると、親から「悪い子はこわーい魔法使いの所に連れて行って、動物になる呪いをかけてもらうぞ」と言って怒られる。
「しかし、あれは子どもを脅かすだけの戯言だろう?実際にいるなんて聞いたことはないぞ」
「それはそうでしょ?だって国最悪の呪術師が本当にいることを知っているのは、国王とその周囲の官僚たちだけなんだから⭐︎で、今までの話から察しはついてると思うけど、その国最悪の呪術師っていうのは、このアンデラ様だよ⭐︎」
実在していたことにも驚きを隠せなかったが、アリステル王国にアンデッドが入り込んでいたことには、それ以上に驚いた。
「いいね⭐︎その驚いた顔!最高だね⭐︎」
アンデラが腹を抱えて笑っている。しかし、その態度に苛立ちを覚えないほどの衝撃を受けている。
「国の中枢にいる人物しか、お前の存在を知らないとなると、やはりカリウスをお前に売ったのは」
「そうだね⭐︎国王と宰相のザイスだよ⭐︎」
やはりあのくそ野郎だったか。予想はついていたが、なぜカリウスが…いや、なんとなく分かる気がする。カリウスは頭がいい。俺が破壊した王城付近の復興を優先した国王に対し、異を唱えたが受け入れられず、政策に逆らって、別の地域への支援活動を行った。その結果、国王の怒りを買い、アンデラの元へ連れて行かれたというのが事の顛末だろう。
「しかしもう一つ疑問がある。アンデラ、お前はなぜアリステル王国にいるんだ?国最悪の呪術師の話がこれだけ根付いているのだから、かなり長い間潜り込んでいるんじゃないのか?」
「そうだね⭐︎あたしを含めて、アンデッド族の優秀な個体は魂を他のアンデッドに移し替えることができるんだよ⭐︎だから、死ぬ事はないし、見た目も自由に変えることができるから潜入にはもってこいの種族なんだー⭐︎いつから潜り込んでるかはもう忘れちゃったけど、かなり長い間だよ⭐︎それこそ、前魔王のグラウス様よりも前の魔王様のころからね⭐︎」
アンデラの言葉に俺よりもフレンの方が驚いていた。それもそのはず。過去にハンラが言っていた「アンデッドという種族はあってないようなもの」というのは、魔族全体がそう思っているのだ。だからこそ、アンデッド族にそれほど優秀な個体が存在し、さらに人間領への潜入任務まで担っていたという事実は、信じ難いものなのだろう。
「フレンちゃんはさ、十二翼について疑問に思った事はない?十二翼といいながら、その一翼の種族を誰も知らないことに⭐︎」
「それは……確かに思っていたけど」
「だよね⭐︎もしその一翼がずっとアンデッド族だって言ったら信じてくれるかな⭐︎?」
「なっ……!!」
フレンが今までに見たことがないような驚いた表情を浮かべた。しかし、アンデラが言うことが事実なら、ガラデ平原での戦いでどちらの陣営にも最後の一翼が存在しなかったのも、それなら納得ができる。
「正直十二翼の地位なんて興味ないからどうでもいいんだけど、外されたのは少しムッとするよね⭐︎」
ガラデ平原の戦いに参加していなかったことから、アンデラを十二翼から外したのは俺だ。
「それはすまん」
「別にいいんだよ⭐︎あたしたちは基本自由に活動させてもらってるし⭐︎あたしたちの仕事は、定期的に人間領の情報を魔王様に報告すること。だからアンは、呪術師兼アイドルとして活動してるんだよ⭐︎でも、グラウス様が死んでから誰に報告していいか分からずにいたんだ⭐︎」
アンデラは饒舌に続ける。
「そうしていると、新しい魔王が誕生したって聞いたから、あたしはその実力を測ることにしたんだ⭐︎」
「その理由は?」
「あたしたちが仕えるに値するか確認するってのもあるかな⭐︎」
「トルミ村を襲撃したのは?」
「アリステル王国に潜入していたあたしは、新しい魔王が元勇者だと聞いて、いつかここに来るだろうと予測してたんだ⭐︎それまでに村人を全員殺してアンデッドにすれば、本気で怒ってあたしを殺しにくるだろうと思ってね⭐︎思ったよりも、早く来たからびっくりしたけど、間に合っててよかったよ⭐︎」
……つまり、トルミ村の村人が全員死んだのは俺のせいということか。カリウスの話で少し落ち着いていた怒りが再び沸々と湧き始める。
「俺の実力を測るなら、別に他の方法でも良かっただろう。なぜ、殺した!?」
「だから、そうしたら本気で怒ってあたしを殺しにくるからって言ってるじゃん⭐︎同じことを何回も言わせないでよ⭐︎」
ブチンっと何かが切れるような音が聞こえた気がした。俺の怒りが頂点に達したのだろう。
「アンデラ、死ぬ覚悟をしろ。お前だけはここで必ず殺す!」
俺の言葉に、アンデラはニヤッと笑い、
「いいね⭐︎全力でかかっておいでよ⭐︎アンは死なないけど…ねっ!⭐︎」
俺はアンデラに向けて剣を構えた。




