トルミ村④
「しゅーごーう⭐︎!!」
アンデラと名乗ったアンデッドがメガホンに向かって叫んだ瞬間、先ほどまでとは比べ物にならないほど大きな地響きが起こった。そしてまもなくトルミ村の住民とは違う、明らかに武装した兵士風のアンデッド集団が地面から現れた。
「みんなー!アンのライブに集まってくれてありがとー⭐︎!!」
「「「ウオオォォ……!!」」」
「今日もみんなを昇天させちゃうくらいの、さいっこうのライブにしちゃうからねぇ⭐︎!!ま、死なないんだけどー⭐︎」
「「「ウオオォォ……!!」」」
「じゃあ、いつも通りアンの歌に合わせて、踊っちゃってー⭐︎」
アンデラの掛け声と共に、兵士風アンデッド集団が戦闘態勢をとり、俺やフレンに今にも飛びかかろうとしている。
「1曲目いくよーー⭐︎『NEW UNDEAD WORLD!!』」
どこからともなくポップな音楽が鳴り始め、それと同時に兵士アンデッド達が一斉に、攻撃と言う名のダンスを始めた。
剣や槍、斧を持つ者は、トルミ村の住民アンデッドと同じように跳躍して襲いかかってくる。一方、後方のアンデッドは弓や投擲武器による攻撃を仕掛け、中には魔法を放とうとしている者もい
「くっ!!先ほどまでのアンデッドとは大違いだ!!」
これまでのアンデッドは、別のアンデッドを踏み台にしなければ俺たちの位置まで届かなかった。だが、兵士アンデッドは違う。どの個体も一度の跳躍で、悠々と俺たちのもとまで飛び込んでくる。それゆえに、一度に攻撃してくるアンデッドの数も増加している。フレンも逃げ惑うことで精一杯の様子だ。助けたいが、こちらも手一杯だ。
「あははっ⭐︎今日も楽しんでくれてて嬉しいよー⭐︎みんなの元気があたしを強くしてくれてるよー⭐︎」
曲の合間に、アンデラが手を振りながら叫ぶ。すると、「ウオオォォ…」と歓声が上がり、さらに兵士アンデッドの力が上がっているのか、兵士の切り掛かる力や、魔法の威力が鋭くなっていく。
アンデラが声を張り上げた直後、兵士アンデッドの動きがさらに鋭くなった。メガホンを通じて、広範囲に強化魔法をかけているのか!?しかも、この数のアンデッドに……!?
俺もフレンも兵士アンデッドを捌ききれず、少しずつダメージを受け始めている。俺は多少の傷なら自動回復で治るが、少しずつ魔力を消費するため、できるだけ攻撃を受けたくはない。フレンもヒールの魔法で回復しているようだが、それにも限度がある。
かくなる上は、
「レノン様!範囲魔法や極大魔法を使っても効果はありません!今は目の前の敵に集中してください!」
俺が先ほどと同じように範囲魔法を使おうとしたのを察したのか、フレンから制止の声が飛んできた。
理由は……考えたら分かる。トルミ村の住民アンデッドと戦っている時もそうだったが、アンデッドの数が減っていないのだ。だから例え俺が範囲魔法で一掃したとしても、また同じ数だけアンデッドが現れる。
俺たちが対処に困っていると、大音量で流れていた音楽が終わった。
「1曲目『NEW UNDEAD WORLD』でしたー⭐︎みんなも今日からアンデラワールドの住民だよー⭐︎」
「ウオオォォ……!!」
「じゃあ続いて2曲目いっくよー⭐︎『Re:born』⭐︎」
「ウオオォォ……!!」
新しい曲が始まると同時に、地面の中から頭や手が現れる。なるほど。死体をアンデッドとして生まれ変わらせる。曲のタイトルと一致しているのか。……冷静にこんなこと考えている場合ではないな。アンデラが使う強化魔法の媒介は、
「フレン!!アンデラのメガホンを破壊したい!!接近する方法はないか!?」
「1つだけあります!!魔王様私のところに来て、私を抱きしめてください!!」
「おま、この状況で何言ってんだ!!」
「魔王様!照れてくれるのは嬉しいですが、今は違います!!魔王様と私を包む空気の壁を作成します!以前マホとの模擬戦でしたように!」
フレンの言葉から、全てを察することができた。模擬戦でフレンがマホを空気の壁で押し潰そうとしたことがある。あれならば、アンデッドの強襲を避けながらアンデラまで近づける。
俺と接近しなければならない理由は、空気の壁を作る際に、自身を中心として広げなければ壁の中にアンデッドが入ってしまうからだ。だからフレンは抱きしめろと言ったのだろう。
接近するだけならば一瞬だ。俺はゲートを開き、フレンの近くまで移動する。ゲートを使ってアンデラ付近に転移するのは考えたが、周囲にどんな罠を仕掛けているか分からない以上、リスクが高いので、一旦見送った。俺は、目の前のフレンを背中から抱きしめた。
「いやん、情熱的な魔王様♡」
「言ってる場合か!!」
「はーい」
フレンはそう言って自身を中心とした空気の壁を作成した。アンデッドの侵入は許していない。さすがと言うべきか。
「ちなみにですが魔王様。この空気の壁はあまり長く保たないでしょう。理由は、これだけの大量のアンデッドの攻撃を一斉に受ければ壁を維持するのも容易ではありません。なのでチャンスは一度です。絶対成功させてくださいね!」
「もちろんだ!一気に行くぞ!!」
そう言って俺は、フレンを抱えたまま一気に突っ込んでいく。空気の壁はアンデッドを押し潰しながら前へ前へと進み、アンデラの目前まで迫ることに成功した。
「ちょ!!ちょっと歌ってる途中なんだけど!!って、ああ!曲が途切れちゃった……」
アンデラが驚いた顔で歌うのを中断すると、アンデッドから少し力が抜けた雰囲気を感じた。メガホンが口元から離れている。
「フレン!!やれ!!」
「はい!!エアーストライク!!」
フレンは空気の弾丸をメガホンに向けて放ち、見事命中させた。バキッという音と共に、メガホンが破壊された。
「ああーーーーー!!あたしの大切なメガホンがーーー!!」
アンデラがへたり込んだ隙に、俺は今が好機とばかりにアンデッド集団に向けてサンダースパイクを放った。強化魔法が切れているため、先ほどよりも簡単に広範囲を一掃することができた。
「フレン!アンデラを確保しろ!」
「りょーーかいです!!」
フレンはどこからともなく縄を取り出し、アンデラを縛り上げた。もちろん亀甲縛りで。いや、やってる場合か!
「アンを縛ったって意味なんてないよー⭐︎だってあたしは、ってあれ?なんで抜け出せないの!?」
「バカだね!やっぱり頭の中身は腐っているのかな?あなたが別のアンデッドに魂を移して逃げようとするのなんて想定してるに決まってるじゃん!だから、この縄には魔力封じを施しているんだよ!これなら抜け出せないよねー!」
「アンのことバカって言ったーー!許せなーい!!」
「許せなかったら何をするのさ?もう君は何もできないだろう?」
フレンはここぞとばかりにアンデラを挑発している。
「何もできない?そんなわけないじゃん⭐︎あたしの魔力を封じたところで、まだ手はいくらでもあるんだから⭐︎!新しい優秀な素材の提供があったから試験的に連れてきてて良かったよ⭐︎おいで!!」
アンデラが叫ぶと、何者かが勢いよく現れた。
その姿に俺は絶句した。なぜなら、その人物は俺のよく知る人間であったからだ。そう、目の色が赤くなったかつての友カリウスその人だったのだ。




