トルミ村①
トルミ村のすぐ近くまで転移した俺とフレンは早速村の門へと向かった。
そこには警備兵が2人ぼーっと立っている。
今ここに魔王軍が接近しているなど想像もしていないのだろう。
警備兵の近くに行くと、虚な目でこちらを見て
「トルミ村に何か用ですか?」
と一応背筋を伸ばしそう聞いてきた。
少しおかしいとは思ったが、門番なんて新人の仕事だ。
もしかしたら俺がトルミ村で過ごした時期にいなかったのだろうか。見たことはない2人だ。知らないのも仕方がないか。
「この村で以前世話になったレノンというものだ。村長にお目通り願いたい」
もし俺が指名手配でもされていれば、レノンという名前を出しただけで、兵士たちがすぐにでも仲間を呼びそうなものだ。
しかしこの2人が全く表情を変えず、そうですかと言った態度なのは甚だ疑問に思うところだ。
2人で顔を合わせしばらくこそこそと話した後、
「村長に確認を取る。しばらく待ってくれ」
そう言って1人が村の中へと走っていった。
門番と微妙な沈黙が続く。
しかしその沈黙はすぐに破られた。
「……もしかして勇者レノン様でありますか??」
門番がいきなりそう聞いてきた。
勇者に憧れる兵士ならば目を輝かしてそう聞いてきそうなところではあるが相変わらずその目に力は感じられない。
「確かに俺はそのレノンだが、勇者はやめてくれ……少しむず痒い」
今まで散々ワンズたちに勇者レノンだと言ってきたが、それは魔族相手だから言えることで人間にそう言われるのはあいも変わらずむず痒いのだ。
「何をおっしゃいますかレノン様。あなたは魔王を討伐した人間領の勇者ではありませんか。あなた以外この大陸おいて勇者を名乗れるものなどおりましょうか」
……少し引っかかるな。
なぜこいつは魔王が討伐されたことは知っているのに俺がアリステル王国を滅ぼしかけたことは伝わってないのだろうか。
そう考えていると村の門が開かれ、そこには懐かしい顔のじいさんと走っていった門番が立っていた。
「おお……レノン殿……戻られたのか。ついに魔王討伐の悲願を成し遂げてくださったのか……ありがたや……レノン殿にコンリー神のご加護があらんことを」
彼はこの村の村長であり、勇者時代に俺たちに色々と支援をしてくれた恩人だ。
そしてやはり村長も俺に対する態度が変わっていない。
そこから導かれるのは、おそらく俺が魔王化してアリステル王国を滅ぼしかけた話は伝わっていないのだろう。
先ほどの兵から感じた違和感は気のせいだったのだろう。
「ああ、帰ってきたぜ村長。時間はかかっちまったが、魔王を倒してきたぞ」
村長は俺の手を取り、虚な目で涙を流してありがとうありがとうと繰り返した。
何か久しぶりに人間の温かみに触れ、ふと俺も涙を流しそうになった。
……ろくな人生ではなかったからな。
こんな風に感謝をされたことなんて経験がない。
その後村長はぜひお礼がしたいとのことで自分の家へ来てくれと言い俺たちを村の中へと入れてくれた。
村長の家へ行く道中、トルミ村の懐かしい顔が俺の顔を見るなり、集まってきていろんなものをくれたり、感謝の言葉をかけてくれた。
そして村長の家に着くころには俺とフレンは両手に抱え切れないほどの感謝の品を受け取ったいた。
「さぁ中に入ってくれ。大したもてなしはできんがお茶でも出そう」
家の中に入り、お茶を飲みながら魔王討伐の道中の話を村長に聞かせた。
しばらく話した後、
「村長、俺がこの村に来たのは魔王討伐の挨拶回りというわけではない。驚かないで聞いて欲しいのだが、今トルミ村に元魔王軍の軍団が向かっている」
そう切り出した。すると村長は表情は変わらないが驚いたように立ち上がり、
「なんじゃと。しかし魔王はレノン殿が倒したばかりであろうに、何故こんなにはやく……まさかすでに新しい魔王が誕生したのか」
「ああ、おそらくその通りだ。そして進軍速度から到達は3日後程度と予想される。間違いなくこの辺りが戦場となるだろう」
「3日後……なれば早々に準備を始めなければなるまい。コンリー教徒の力を見せつけねばな」
村長は自ら戦いに参戦する意志をみせ、剣を振るそぶりをみせる。さすがはコンリー教徒。魔族との戦いには年寄りだろうと命をとして戦おうとする。
「村長、意気込むのもいいが無理をするのは良くない。コンリー教の教えは確かに大事だが、ここに俺がいることを忘れないでほしい。それにあれがあるじゃないか」
俺がそういうと、村長は不思議そうな顔をし、
「……あれ……とはなんのことだレノン殿」
と、聞き返してきた。
「おいおい、忘れたのか?以前俺がここから魔族領に向かう際に、対魔族用に設置した兵器のことだよ。各門の側に設置したじゃないか」
「ああ、あれのことじゃったか。いや、すまない。咄嗟になんのことだか出てこなんだ。わしも歳なもんだな。最近すぐに思い出せんこともあるのだよ」
そう言ってホッホと笑った。
あの大掛かりな兵器を忘れたというのは、いささかおかしいとも思うが、俺のあれという言い方もよくなかったのも事実。思い出してくれたようで何よりだ。
「きちんと手入れも行っておりますゆえ、すぐにでも使用可能でしょう。状態の確認に向かいますかな?」
「いや、魔族がくるまでまだ時間はある。それは明日するとしよう。それより、今日は久しぶりに戻ってきたのだ。このような時であるが、皆と先ずは話をしたい。その時にトルミ村の防衛についても話し合おう」
「レノン殿がそう望まれるのであれば、そういたしましょう。魔王軍が近づいていようとレノン様とあの兵器、そして我らコンリー教の信徒がいれば問題ありませんからな。大したもてなしはできんが、ゆっくりして行ってくだされ。わしは村の連中に声をかけてくる。レノン殿はこちらでしばらく休まれるといい」
そう言って村長は、家を出て行った。
「レノン様、少しトルミ村の雰囲気が変わったように思うのは私だけですかね?」
俺とフレンだけが残った室内で、その言葉に俺は頷いた。
「なんか明るくなったというよりもそう言った風を装っている感じがしますね。村人たちも明るくは接してくれていますが、どこか感情が失われたような乾いた笑い方というか……うーん、うまく表現できませんが……」
「言いたいことはよくわかるぞフレン。俺も似たような意見だ。俺が魔族領に出てから何かあった……ってのは間違いないだろう。しかしまだそれが何かまでは分からない。なので俺は引き続き勇者レノンを演じる。フレンは極力目立たないようにしながら奴らの行動を注視してくれ」
「わかりました。あと、付近まで来ているワンズたちへの指示はどうしますか?」
現在ワンズ他3部隊には攻めず国境から少し離れた位置で待機を命じている。報告によれば進軍に気づいた三国の兵士たちが慌ただしく動きを見せているとのことだ。
俺が村長に3日後と言ったのはおそらく防衛部隊の集結までにそのくらいかかると予想してのことだ。別に各部隊との衝突を目的としての集結待ちではない。目的は他にある。
「とりあえず待機は継続で、3日後の大号令にて一期果敢に侵攻を開始と伝えてくれ」
フレンは頷くと、通信魔法を展開し各部隊への連絡を取り始めた。
それからしばらくして、いい加減ここにいるのも退屈になってきたころ村長が戻り、ささやかながら宴を用意したのでこちらへと村の中央広場に案内された。
その場にいた懐かしい顔ぶれと宴を楽しみ、お開きとなった後村長が用意してくれた宿へと向かった。
とても落ち着く雰囲気のトルミ村だが、やはり何かがつっかえて気持ちが悪い感覚を感じつつその日は眠りにいた。




