対魔族防衛部隊
少し短めです
「………まさかここまであっけないとはな」
自室のデスクに座りうなだれるレノンに、
「ほんとですね。まさか一月も経たずにとりかえしちゃうなんてね。みんなどんだけ張り切ってんだよって感じですよね」
フレンはそう言った。
俺の想定では二月はかかることを想定していた。
侵攻が開始されれば、流石に各国が国境の維持のために兵を派遣してくると予想していた。
その予想は大きく外れたのだが。
まさか国境警備をしていた兵との戦いが終わればそれ以降はほとんど戦いもなくどうぞ取り返してくださいと言わんがばかりに兵を元の国境ラインまで退いていってしまったのだ。
各部隊から続々と完了の報告が続々と届く。
「しかしこれは少し問題があるではないか、魔王様よ」
「ああ……だから困っている」
当初の策であれば、抵抗する兵士を殺し、アンデッドとする予定だった。しかし、人間側が早急に兵を引いたことでその補充が3割程度しかできていない。その分こちらの元の兵力は消費されていないことはよかったのだが。
「領地を取り返したことによって3つの大国と国境を接することとなった。つまり今後の戦いには各国の本隊が出てくる。しかも対魔族の部隊を用意してある。それが厄介なんだ」
「……前魔王様のとき、人間領に侵攻を行ったが、国境を越えることすら出来なかった。そして不思議なことに奴らはこちらが敗走し撤退を開始しても、追撃を行わないのだ」
その話は聞いたことがある。俺が魔族領へ侵攻する前に、4度魔族領からの侵攻があった。中央ラインからの南下が2度、東側、西側からそれぞれ1度の計4回。そのどれもが国境で跳ね返された。そしてそれを行ったのが三国によって結ばれた対魔族防衛部隊だと。
「対魔族防衛部隊ってなんですか?」
「ああ、9大国のうち魔族領近辺のカナエル、ナグリア、コンシーの3国で結成されている部隊だ。カナエルの莫大な財力と、ナグリアの圧倒的な暴力、そしてコンシーの奇跡を生むと言われる信仰力が合わさった部隊のことだ」
スラメとギーラは、よく分からないと言った顔をしている。
「あまり理解ができませんな。それだけで我らを押し返せるだけの力を発揮できる理由が」
「まぁ簡単に言うとだな、最も強いものが国を治める国の兵士と、魔族を悪とし、それを退ける神を信仰し、魔族を殺すためなら己の死すら恐れない民兵どもに、莫大な財力によって揃えられた最新鋭の武器や防具を与えてある部隊といったところだ。命令には絶対遵守、死ねと言われれば死ぬ気で特攻してくる奴らだからこそ魔王軍も圧倒されたのだろう」
そう説明すると、ギーラは納得したように頷き
「合点がいった。確かにあの侵攻から戻ったものの一部に人間の狂気を感じたと述べるものがいたのを記憶している。まさにその自爆とも言える攻撃を食らったのだろうな」
「おそらくそうだろうな。しかしそこまでの狂気を持った人間を作成するのは時間がかかるゆえ、侵攻は全力で防ぐが人間側からの侵攻はしないのだろう」
「だから対魔族防衛部隊っていうんですね」
奴らを倒して侵攻することは容易ではない。
国境を元の位置まで戻した今、おそらく部隊はいつでも出兵できる体制に整えてあると考えるのが妥当であろう。
こちらの各部隊には国境から少し離れた場所に陣を築き、待機命令を出している。手出しをしなければ、相手から攻撃を仕掛けてくることはまずあるまい。
どこかに打開点でもあれば……いや、あるではないか。
「フレン、出立の準備をせよ。ギーラ、スラメ。俺の留守の間城の守り、戦況の把握は任せるぞ。何か動きがあればすぐに連絡してくれ」
「はっ!……しかし魔王様は何処へ向かわれるのですか?」
「もちろん人間領。西側にあるコンシーの最北端トルミ村だ」
「な、なぜそのようなところに?」
「秘策を思いついたのでな。なにたいして時間はかけんよ」
あの村では世話になっていた時に、あれを仕込んでいたんだった。本来であれば対魔族用としてだったが、人間にも十分有効だ。あれを使って国境防衛部隊の一部を壊滅させ、そこから一気になだれ込めば……いけるはず。
俺の中で指針は決めた。
フレンの準備が整ったとの報告を受け、俺はトルミ村の直近まで瞬時に移動した。
◇◆◇◆
「なに!!奪った魔王領を取り返されただと!?」
アリステル王国の愚王は、その情報に驚愕していた。
レノンによって壊滅させられた魔王軍がこんなにも早く立て直し侵攻してくるとは考えてもいなかったからだ。
そのためゴブリンによって減らされた兵の補充するよりも先に、国の再建ばかりに力を使ってきた。
ザイスもそれが一番だと言っていた。
「カリウス!!境界付近の守備は貴様に任せていたはずだ!!どうなっている!?」
勇者召喚の一件があった以降、王からの信頼をなくしたカリウスは、国境の守備というあってないような役を与えられていた。
「……お言葉ですが、国境周辺は我らが無理矢理領地にしたので、他国の顰蹙を買い、協力を得るどころか他国から通行税を要求されることになったため、派兵が難しいのです。さらに本国の復興ばかりに力を入れ、国境の警備を疎かにしたのは国王の指示です。お忘れになったのですか?」
「貴様!!我を愚弄するか!!」
「愚弄?違いますな。私はただ事実を述べただけです」
王は顔を真っ赤にし、
「ザイス!!即刻こいつを処刑せよ!!この我を愚弄した罪許してなるものか!!」
そう命令したのだ。
しかしザイスは
「国王陛下、この男を処刑にするのは少しお待ちを」
とまさかの処刑に反対をしたのだ。
カリウスは少し驚いた。
「なぜだ、ザイス!!理由を述べよ」
「もちろんですとも。この男は確かに国王陛下を愚弄するという大罪を犯しました。処刑されるのも当然かと。しかし彼がこの国内で私の次点ではありますが優秀なのも事実であります。今我が国は、大罪人レノンによる被害で完全なる復旧が完了しておりません。このことからも現状彼を失うことは我々にとってはマイナスになるかと思われます」
カリウスは唖然とした。
ザイスが気持ちが悪いほどに正論を述べたのだ。
「ふむ……確かにそうであるが、この男をただで無罪放免にするつもりはないぞ?」
「もちろんでございます。私もそのつもりはありません。そこで提案です。この男を奴のところに送り込みましょう。そうすれば、国王陛下に従順な僕になることは間違い無いでしょう」
カリウスはザイスの発言で頭が真っ白になった。
今のザイスの発言はこの国の暗部を知っているものであればそれだけで恐怖を覚える言葉なのだ。
「ほお!それは良い案だ!ザイス早速実行に移るのだ」
その言葉以降のカリウスは自分がとった行動を思い出せない。しかしこうして地面に押さえつけられている以上、何かしらの反抗を起こし取り押さえられたのは間違いない。
ザイスの連れて行けとの言葉が聞こえて、手足を拘束されたカリウスは数名の兵士に運ばれる。
(ああ、レノン。あの時なぜ俺も一緒に……)
そう思ったそこから先はもう何も分からない。
カリウスはもう目覚めることはない。
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