招集
フレンに連れられ、メリザは自室へと戻っていった。
適正の弱いものが魔族になったあとは、体力の消耗からしばらくの間眠りにつくことになるとフレンが言っていた。
フレン曰く、俺の適正の高さは異常だそうだ。凄まじい速さで適合し、さらに魔王が代々受け継いできた力をすぐさま自分の力へと変換するのは予想外だったとのことだ。
魔王の力の源が怨恨であり、勇者になってからアリステル王国で、虐げられ、こき使われ、挙句最も大切な妹をあれだけ痛めつけられた俺が力を引き出せるだけの恨みを持っていることは不思議ではないと今では思う。
さて、魔族領を取り戻すための指針を決めようではないか。そう思い地図を取り出し、机の上に広げる。
グランデア大陸の最北端にポツンとある現魔族領。
本来であれば、早急に元魔王領の配分について各国を集めた協議が行われるところではあったのだろうが、魔王を倒した功績を持つアリステル王国がその功績を盾に大半を手にしようとしているようだ。
偵察からの報告では、領土境近辺には、アリステル王国による防衛ラインがひかれてはいるものの、兵数はさほど多くないとのこと。
正直なところ元魔王領までならば、容易く取り返すことはできると踏んでいる。しかし油断はできない。
他国の軍勢が隙を見て攻めてくるかもしれない。その中には、俺と互角に渡り合える実力を持ったやつ出てくるやもしれない。そう、あの大陸最強を決める戦いに出ていた彼らが…。
もし、奴らがいるのであれば、十二翼の連中が出向かなければ勝ち目はないだろう。……いや、今の十二翼でも勝てるかどうか……
それだけレベルが高い奴らがいる。人間の中にも。
国境を元に戻したとしても、厳しい戦いが待っていることは間違いない。
いくら十二翼が強かろうと、まだ先代魔王消滅から日が浅い魔族軍は兵力というものが足りない。ガラテ平原でも必要なことだったとはいえ、少し殺しすぎた。
人間領侵略を始めれば、9つの国は共闘し、最大限の抵抗、そして反撃を見せるだろう。
電撃的な奇襲を仕掛けたところで、消耗した現在の魔王軍では、兵数で押し返されるのが目に浮かぶ。
アリステル王国から去る時に使った人をゴブリンに変え、数を補うのは……以前ゴブルからマナー違反であると言われたばかりなのでこれはなしだ。
ふむ……
やはり一人で考えを巡らせても纏まるものではないか。
奴らを集めるか。
メリザを自室に送り届け戻ってきたフレンに招集をかけるように伝えた。
◇◆◇◆
「なぁ、今日招集がかかったってことは」
「ああ、間違いなくそうであろうな」
いち早く魔王の間を訪れたサラーデとオルデは緊張していた。
ガラテ平原での戦いから数日、後処理で奔走していた彼らであったが、その間も一つのことばかりが気になり、気が気でなかった。
それは十二翼に残ることができるかどうか。
まがいなりにも彼らは元十二翼。強さに自信を持っている。
しかしガラテ平原での戦いでは、その強さを発揮できていない。それどころかワンズに一方的にやられ、あっけなく降伏を選んだ。
他の者も変わらない状況だったとは聞いたが、自分達が1番あっけなくやられたのではないかという不安を抱えている。
それだけではない。スラメやキツケ、フレンのように元十二翼ではないが、最初から現魔王に味方した奴らがいる。平原での活躍ぶりも聞いた。
新たな候補と己の状況に葛藤し続けた。
徐々に十二翼が集まりつつある。顔つきを見ればわかる。サラーデ、オルデと同じことを考えているのだと。
「あっれー、皆んなどうしたの?表情かったいねー!もしかして、自分が十二翼に残れるかどうか気になってる感じかな?」
扉を開き、入ってきたフレンが彼らを煽る。
(……くそっ、こっちの気も知らないで)
その場にいた全員がそう思ったが、誰も口にしない。しかしその時、
「……フレンよ、それは当然皆が気にしていることだ。そして皆不安なのだ。だからそのようなことで煽るものではない」
そう言いながら、重たい扉を開けながらギーラが入ってくる。
「この我でさえも、皆と同じ思いなのだからな」
(((いや、ギーラとは確実に違うんだけど……!!)))
再び全員がそう思った。
フレンはつまらなさそうな顔をして、魔王の座の傍へと向かった。
それからしばらくは沈黙が流れた。しかしスラメとキツケが入ってきた時は、空気の重さは一層に増した。フレン含め3人が招集されていると言うことは、確実に十二翼から外れるやつがいるということ。
「ま、まぁボクは自分が十二翼から外れるなんてこれっぽっちも思ってないけどね」
その沈黙を破ったのはキャラットだった。元からの沈黙を苦手とするキャラットはこの空気に耐えられなくなったのだろう。
「……慢心はよくないなキャラット。その油断が仇とならなければ良いがな」
そう返したのはサラーデ。
一番最初からこの部屋にいたこともあり、いつもなら無視するような言葉に返答してしまった。
「慢心?違うよ、だってボクはあの平原ではちゃんと戦ったし、サラーデみたいに戦う前から降伏してないもん」
「ほう、つまりお前は十二翼から外れるのは俺だと言うんだな?」
「別にそうは言ってないよ。でもそう思うってことは、自分でもそう思ってるんじゃないの?」
「貴様……この俺を愚弄するかっ!よかろう、俺とお前どっちが強いかはっきりさせてやる!そうすれば外れるのは誰かはっきりするだろう!どうせ貴様ら三重奏は3人いなければ所詮大した強さを持たまい!」
「……サラーデ、今のは聞き捨てならんな」
サラーデの言葉に、そう言ったのはハンラ。
「我らは各々が強いから3人で戦っても強い。これは前魔王様も認めていらしたこと。それを一人では大したことないなどと……」
「許さない……」
キプロスもその意見に頷く。
「おい、お前らその辺でやめときな。ここは魔王様の部屋だ。暴れるんなら外に出な」
ズボンのポケットに手を突っ込み、ワンズがそう言った。
「ワンズ、お前は最初から新魔王様の味方についていたから余裕だな。そもそも十二翼の中では序列が低かったお前が力を与えられただけで上位気取りか」
苛立ちを隠せないハンラがワンズに向かっていった。
「……あん?序列なんてなかっただろうが」
「なくともわかるだろう。種族としての力、その主たる族長の強さ、実績。どれを取ってもお前は十二翼の中では序列下位だと言うことがね」
「…まぁそれはそうだとしてもだ、時勢を読んで力を手に入れてる俺とお前じゃあ何かの出来が違うということだよ」
「いやいやワンズ、あなたは別に時勢を読んで従った訳ではないでしょう。なに頭の出来が違うとか言ってるんですか?」
嘲笑うようにキツケが言う。
「黙れキツケ、もう一度滅ぼすぞ」
「滅ぼされた覚えはありませんが?むしろ滅しますよ?」
「いやぁ、遅くなってすまない。我の領地はここから少し離れている所以、時間がかかってしまった。……なんだお前たち、またくだらない争いをしているのか?全く困った奴らだな」
一髪触発の空気の中で、相変わらずタイミングの悪いドゴラが笑いながら部屋に入ってきてそんなことを言うもんだから
「「「殺されてぇかてめー(貴様)!!!」」」
「な、なんなのだお前たち。怒りをこちらに向けるでない」
ギーラは目を瞑り、フレンはニヤニヤし、マホはボーッと傍観し、スラメはアワアワとしている。
つまり誰も止めるつもりもない。
もう収集がつかないと思われたその時、
「……なんだ貴様ら、また喧嘩してやがんのかよ。しかも俺の部屋で……消すぞ」
そこに現れたレノンの威圧により、その場は一瞬にして落ち着き、全員が蛇に睨まれたネズミが如く小さくなってしまった。
「さすがです!レノン様!!」




