現れる闇と妹
第二章開始です。
夜の村にどさっと倒れる音が2つ、3つと響く。
小さな田舎の村には街灯はない。
村人が寝静まる夜になると、月明かり以外に外を照らすものはなく、そんな夜道を歩くものなど余程の理由がない限り1人としていない。
それなのに、不気味な物音はアリステル王国の魔王事件の知らせが届いた数日後から急に始まった。
しかし村に異変があったという話は一切聞くことはない。
ただいつものように朝を迎え、皆それぞれ仕事につく。終われば帰宅し、家族との団欒を満喫し、眠りにつく。
何も変わらない。なのになぜ……
ドッ
今日響いたその音は私の家のすぐそばで聞こえたように思う。
ベッドから起き上がりつい興味本位で窓の外を見た。
そしてそこで見たのは、
地面に倒れた隣の家の主人ステルクスの姿。
そして傍に立つ、黒い影。
私はすぐに外を見るのをやめ、布団に潜り、目を閉じた。
しかし瞼に焼き付いていたのは、白眼を剥いて倒れていたステルクスの姿。
その姿を見るのが嫌で、パッと瞼を開くと、
目の前には
先ほどの黒い影……いや、黒い人影がいる。
「…………!!!!!」
驚きのあまり叫び声を上げた。
しかしまるで真空にでもいるかのように音は響かない。
そして気づく。
体が硬直し、その黒い影に一点だけある白い部分が近づいてきていることに……
夜の薄暗い室内にまた一つドサという音が響いた。
その光景を少し離れたところから見つめる影が呟いた。
「………フフフッ。楽しみだなぁ……魔王レノン」
◇◆◇◆
「……兄さん、今大丈夫かな?」
カデナ平原での戦いから数日が経った昼時、そう言って部屋の入り口から顔を出したのは絶世の美少女……もとい俺の妹メリザだった。
あれからスラメの懸命な治療の結果、歩けるくらいにまでは回復した。
まだ食事は軽いものしか食べていないようなので骨が浮き出るくらい細身ではあるが、少しずつ元のメリザに戻りつつあるようだ。
「ああ、大丈夫だ。何かあったのかい?」
「うん、少し相談があって」
メリザは俯き加減にそういった。
その様子はこれからとても言いにくいことを言いますよと訴えているかのようで俺をとても不安にさせる。
そして俺の中で一つの答えが思い浮かんだ。
「もしかして誰かにいじめられたのかい?誰だそいつは?名前を言ってごらん。すぐ退治してきてあげるから」
我が妹をいじめる輩がいようとは。
この世に生まれたことを後悔させてから殺してやる。
そう言った俺にメリザは困った顔を浮かべ、
「え?違うよ……ここのみんなは私が人間だって分かってるのにとっても優しくしてくれるよ。……そうじゃなくて私の相談っていうのは……」
どうやら俺の早とちりだったみたいだ。
しかしそれ以外だとなんか相談だろうか……
「……ねぇ、兄さん。私も兄さんと……いや、皆んなと同じ魔族になりたいの」
メリザの言葉に俺は驚きの表情を浮かべるだけで何も言えなかった。
妹が急に魔族にしてほしいなんていうもんだから。
「私もね、ここにいる以上みんなと同じ魔族になりたいの。人間を辞めることにはなっちゃうけど……でももう私と兄さんは人間領に戻る事はないから……だから私を魔族にして欲しい」
メリザの言う事はもっともだ。
魔王領で暮らす以上ずっと人間の姿では何かと不便だろう。
人間というだけで不快感を持つ奴らもいるようだし。
もしメリザが魔族になったならば城内も堂々と歩けるようになるだろう。
しかし、兄として妹には人間のままでいて欲しいという気持ちもある。
俺は怨恨からこの姿になってしまったが、メリザは別にそう言ったものではなく、ただみんなと同じになりたいというだけで本当にこの美少女を魔族に変えてしまっても良いのだろうか……
……いや、魔族に変えたところで美少女なのは変わらないのだろうが。
「ダメかな……兄さん?」
ぐるぐると思考を巡らせる俺に対して、少し上目遣いでそう訴えてくる。
しかし、簡単に答えを出せるものではない。兄としてメリザが最も幸せになれる答えを探さなければ……
などと考えていると、
「してあげればいいんじゃないですか魔王様。彼女がなりたいと言っているんだから彼女の意思を尊重してあげましょうよ」
いつの間にか部屋の中にいたフレンがそう言った。
「しかし簡単に言うがなフレン……」
フレンの言うことにも一理はあるのだが、
「あ、そうだ!!」
まだ腕組みの状態から答えを出さない俺を差し置いてフレンは何かを思いついたのかにそう言った。
「魔王様がしてあげないなら私がしてあげますよ!!」
はっ?と口を開けた俺を無視して、フレンは続けて
「種族はサキュバスになっちゃうけどそれでもいい?」
と、俺の思考をすっ飛ばすようなことを言った。
エ、メリザサキュバスニナルノ?
「魔族になれるのならばサキュバスでも構いませんよ。お願いしますフレンさん」
「了解了解!!じゃあちょっと待ってね!ええっと、確かこのあたりに……あ、あったあった。じゃじゃあーん!!サキュバスになれる秘薬〜!これを飲めばメリザちゃんもあっという間にサキュバスに「ちょっと待つのはお前だフレン!!!」って!!」
気づけば俺は座っていた椅子から立ち上がりフレンに拳骨を入れていた。
「ちょっとー、何するんですか!?痛いじゃないですかー!!ほらー、タンコブできたじゃないですか!!」
「何するんですかーじゃないわ!!俺の可愛い妹をサキュバスにするなど絶対に許さん!!万が一にもメリザがサキュバス街で働くようになってしまったらどうしてくれるんだ!!ああん!?」
そんなの絶対に許せるはずがない。
そうメリザに触れていい男は俺だけだ。
俺以外の男が触れようものならば地獄の苦しみを味わせながらこの世に生まれたことを後悔させてやる。
「……本当に後悔しないのかいメリザ?」
俺がそういうと頷いた。
後悔はしないと。
その頷きは、弱々しい体にはとても似合わない強い意志を孕んでいた。
そしてそこまでの覚悟を決めているのであれば答えるのが兄としての務めだろう。
「仕方ない……じゃあ……」
俺はメリザを中心に魔法陣を出現させ、力を込める。
「メリザ、これから身体が魔族に変わっていくけど、どうしても痛みが走ってしまうから我慢するんだよ?」
「うん、大丈夫。痛いのにはもう慣れたから」
「……じゃあ始めるよ」
俺が手をあげたと同時に魔法陣が起動した。
するとメリザの体を黒い闇がおおい始める。
「う……いたっ……」
メリザの痛がる声が聞こえる。
身体が魔族に変わるこの感覚は叩かれる痛みや斬られる痛みとはまた違うもので、いくらそれに慣れていようと痛みを感じてしまう。
しばらくするとメリザの着ていた服が破れ、背中に黒い蝙蝠のような翼が生え、頭から角がはえた。
白く透き通るような肌は少しだけ褐色になり、瞳の色が赤色へと変わる。
そしてものの数分でメリザの身体は俺と同じような魔族の姿へと変貌を遂げたのだった。
「大丈夫だったかい、メリザ?」
少し目元に涙を浮かべたメリザに、自分の着ていた上着をかぶせる。
「うん……大丈夫。えへへ、これで兄さんとおんなじになれたよ」
そう言ってにかっと笑ったその顔を俺は一生忘れないだろう。
メリザをすっと抱きしめ、俺は誓った。
メリザの笑顔は俺が守ると。
そしてこの笑顔を曇らせたあいつらに裁きを与えると。
これから更新ペースですが3、4日に1話上げれるように頑張りますので生暖かく見守ってくださいませ。評価、感想、ご指摘お待ちしております。
追伸:現在更新している二章の内容を大幅に変更する予定です。R04/3/24




