Mole
定義の揺らぎ
「で、何かしら。急いでいるんでしょ?」
八雲紫は幽々子に言う。幽々子は扇子をパタパタと扇ぎ涼んでいる。八雲紫はただ幽々子を鋭く見ていた。
「私には見えないけれど、どうやら上空に鳥が旋回しているらしいの、それを撃ち墜としてくださる?」
幽々子は八雲紫に言った。そして持ってきたカンテラに火をつけた。暗闇が晴れ、向こう側から八雲紫が現れる。だが足、手、顔に札が貼り付けられてある。下に一枚札が落ちている、恐らくそれは口を封じたものだろう、顔にも札は貼り付けられているが口だけは貼り付けられていない。
「分かったわ、さあ早く封印を解いて下さる?肩が凝るのよ」
八雲紫はそう言う。幽々子はそれに答えず地面に座り込む。そして左手を力強く握りしめる。左手からは血が流れ落ちる。八雲紫は退屈そうにそれを見降ろす。血が地面に滴り落ち、地面に紋様が浮かび上がる。
「陽の主よ我が血を酬に封印を祓い陰の主を解き放ち給え」
幽々子は目を瞑り詠唱する、詠唱が終わる。すると八雲紫に纏わりついた札たちが剥がれ落ちていく。そして八雲紫の全身が露わになる。
「さあ、始めましょう」
八雲紫がニヤリと笑う。そして歩みを進める。
「邪仙もたいしたことなしですね〜」
小悪魔が笑って眼前の青娥に言う。青娥が小悪魔を睨む。小悪魔はそれを見てまた笑みを浮かべる。
「動けない気分はどうです?」
小悪魔は笑う。青娥は小悪魔の表情に耐えられなくなったのか俯いてしまった。
「幻術 王道蜉蝣」
青娥の声が聞こえた。目の前の青娥がふわりと霧のように消える。小悪魔は変わらずそこを見続けていた。
そして目的を思い出す、人里の徹底的な破壊。その瞬間小悪魔に怒りが湧いてくる。頭に血が昇るのが分かる。
「あの人妻ゴミ女ァ!人の時間を勝手に使いやがって糞が!」
小悪魔は怒り、地面をぶっ叩いた。地面が崩落していった。だがそれでも怒りは消えない。小悪魔は地団駄を踏む。息も荒くなる。
「あの人妻ぶっ殺す」
小悪魔はそれだけ言って人里の方に向かって飛んでいった。
「ギルガーナ、結界の調子はどうだ」
はるか上空にてステアはギルガーナに尋ねる。ギルガーナは最初に霊夢を襲った勾玉である、その形は歪で勾玉の両脇から翼、下に足がついている。
ステアはその異形の上に腰掛けている。
「ギギ、ギギ」
ギルガーナはステアに返した。ステアはその意を理解した。順調、それは分かった。その瞬間ギルガーナの動きが止まる。何故かは分からないが眼を見開いたまま動かない。ステアはそれを見逃さず、後ろとギルガーナを同時に見る。目玉を別々に動かすことなど簡単である。あそこか、八雲亭に二人の女性がすw...ん?右の女、あれ八雲紫じゃないか?急いでステアはそれを見る。確かに八雲紫だ。だが、奴はウィズダムが封じた筈...僅かに八雲紫の後ろの弩弓が軋んだ。ステアは急いで”ミスト”を濃くする。
壱符「千重結界」
八雲紫がそう詠唱する。二人の周りの空間に大量の結界が張巡らせられる。ステアは急停止する。ギルガーナは瀕死でまだ制御はできた。ステアは急いで霧の密度をさらに濃くする。このままではギルガーナが殺される。
結界圧縮
八雲紫の一言で結界が狭くなる。体が圧迫されて気持ちが悪い。ギルガーナもメキメキと音を立てて死んでいく。ステアは霧散し結界から逃れる。ギルガーナは潰れて死んだ。もう見る影もない。霧を収束させて地面に降り立つ。八雲紫がまっすぐにこちらを見ていた。その視線はとてつもなく鋭い。
「自身の状態を操る能力ね、分かったわ」
八雲紫がそうステアに囁く。いつの間にか八雲紫の顔が耳元に迫っていた。ステアは急いで全身を霧にしてそこから逃げる。八雲紫は口に笑みを浮かべたまま動かない。先ほどから寒気が止まらない。目の前に居る、いや在る八雲紫に自分は恐怖を抱いている。認めたくないが認めるしかない。なぜか分からないが目の前の生物が異常に恐ろしい。あの恐怖は生物が出せるものなのだろうか。総ての細胞が振動する。おくすりのんだのにこわさがおそってくる...ん?あれ
ステアは違和感に気付く、自分を気体にしたのはいいが戻れない。八雲紫がこちらを見ていた。その口は三日月のように歪んでいた。
「貴方...気体になるのはよろしいですけれど...
貴方と空気の境界は何処なのかしら?」
告げられステアは死んだ。自分が何なのか分からなくなって。
「りはびりくらいにはなったかしら」
八雲紫は嗤う。幽々子はパタパタと扇子を扇いでいた。そして自分が少し震えていることに気付いた。
「次は何かしら」
八雲紫の顔から笑いが消え、その眼光はより一層鋭くなっていた。その眼光は幽々子に向かっていた。幽々子は妖怪の山を見ていた。八雲紫も同じようにそちらを見る。
「凱天玉...現世を落とす気かしら」
八雲紫が呟く。
「八雲紫、貴女は人里に向かって頂戴」
幽々子は八雲紫に背中を向けて冷たく言う。八雲紫はスキマを作り出し消えた。幽々子は一人取り残され、妖怪の山を見る。
「妖夢...さよならかもしれないわね」
幽々子は弱弱しく呟いた。それとは対照的に背中からは異常なまでの死気が噴出されていた。太陽が雲に隠れる、影が落ちる。だが幽々子の辺りだけ異常に暗かった。
今回のタイトルは中二臭くない気が




