K
不信の心
「紫様に化けるとは、貴様死んでも許さんぞ」
藍が言い放つ、口調は穏やかだが顔は対照的に怒りが映る。小悪魔の腹からは血液が流れ落ちる。体は心なしかふるふると震えていた。息も切らしている。このままでも死ぬだろう。
「いたたたた、”彼奴ら”行かせなきゃよかった。血が…」
小悪魔が片膝をつく、腹部の血は小さな池を産んでいた。傷は深い、医学にまったく精通していない藍でも分かる。あの傷は助からない。藍は容赦なく弾幕を放った、小悪魔は魔法陣で何とか防ぐ。だが魔法陣に一瞬でヒビが入る。小悪魔は魔法陣を作り直す、だがそれも一瞬で破られる。小悪魔は息を切らしながら魔法を展開する、だがそれより早く魔法陣が破られる。弾幕は小悪魔に当たり続ける、小悪魔は構わずに創った魔法陣を橙に向ける。魔法陣の中で何か蠢いている。橙はぐったりとしている、最後の悪足掻きか、恐らく小悪魔の攻撃は当たる。藍は歯を噛み締める、小悪魔の口が緩む。そこから血が止めなく流れ堕ちる。もう勝算は無い。
「こあさん、ラストの…一閃」
小悪魔がそう言い、魔法をはな…つはずだった。だがそれは叶わない。次の瞬間小悪魔に凶悪な弾幕が襲いかかったからだ。小悪魔は一瞬で死んだ。顔には苦悶の表情が浮かぶ、情は湧かない。藍はその弾幕を知っていた。同じ幻想郷の者。そしてそれは舞い降りた。
「フランドール スカーレット…」
藍が呟く、フランは藍の方を向いた。表情は冷静であった、冷たすぎる程に。
「お…そろそろ始めようかな」
場所変わって人里。ここでも悪意が生まれていた。今は家の中に居る。慧音の腕は始末した。さあ、始めよう。男は立ち上がり襖を開けた。新鮮な風が入ってくる。それは旧い空気と混ざった。旧い空気は消え去っていった。
「慧音先生、大丈夫ですか?」
医者が慧音に尋ねる、慧音は頷く。表情は少し明るくなっていた。医者はそれを見て安心した素振りを見せて、奥に消えていった。慧音は失った右手を見る。森近霖之助が着けた義手がつけられていた。あの時霖之助は迷うことなく慧音の腕を切り、一瞬で義手に付け替えてくれた。腕が復元するまでの辛抱らしいが。慧音は義手を触る、冷たい。それは無機質な金属の腕。どう考えても守谷の巫女が持ってる本に書かれていたロボットの腕、なぜ霖之助が持っているのか、使い方は知っているのか。その疑問が慧音に過る、だが直ぐに消えた。何故なら、煙が慧音を襲ったからだ。
「あひゃあひゃあひゃあひゃあひゃあひゃあひゃあひゃあひゃあひゃあひゃあひゃあひゃあひゃあひゃ」
下から笑い声が聞こえてくる、だが炎が酷く、よく分からない。慧音は急いで窓から飛び降りる、二階からではあるが妖怪故問題はない。飛び降りながら異変に気付いた、あちこちに火の手が上がっている。結界が強すぎたせいで妹紅は気づいていないのか…。慧音は下に降り立つ。だが声の主らしき人物は見えない。東から悲鳴が聞こえる、慧音は急いでそちらに走る。
「永…琳…」
輝夜が小さく声をあげる。しかも珍しく悲しそうに。突然永遠亭が移動し、出られなくなった、永琳は薬の調合を必死に行っていた。この状況を打破するための何かをしているのだろう。輝夜が膝をついた音が聞こえた。
永琳は声を聞き輝夜を見た。
「それでは山の侵略を開始する」
マイルは言って、山に足を踏み入れた。後ろから部下たちが入ってくる。無論四天王、副国王も一緒に。500人近くで攻め込んだ。しばらく歩いていると。前に天狗が一人立っていた。天狗は巨大な扇を持っている。次の瞬間思い切り鼻息を思い切り吐いた、それが天狗の威圧感を増長させる。
「これより先は聖域。餓鬼共が入って良い場所ではない」
天狗はそう言い、扇を振るった、味方が次々飛んでいく。マイルと一部の部下は飛ばなかった、残ったのは四天王と副国王だけである。
「王、私が向かう」
一人の男がマイルに言い、前に足を踏み出す。天狗が扇を振るう、男はステップで側面に回る。そして剣を繰り出す。天狗はそれを扇で防ぐ。火花が散る。
「確か八百屋の…何をしている」
慧音は異変の原因を見た。それは八百屋の主人である。その男が何故か家に火をつけて回っていた。男の手は震えていて、その行為が本意でないことは明確である。下には人が火達磨になっている。
「慧音先…せ…」
男の言葉が止まる、自分の足に火を放ったからだ。身体が小刻みに震えている、恐らく何らかの力に抗っているのだろう。男は火達磨になる。
「相手は我々を操ることができます!お気をつけて…」
男は言い残し塵になった、慧音の拳が強く握り締められる。
「–––––––––で、宜しいでしょうか」
幽々子は正座をして言った。前には賢者達が座っている。幻想郷を紫と共に設計した者たちである。賢者達も同じく正座をしている。
「どうせ出しておるのだろう、構わん」
それを聞き幽々子は頭を畳につける、そして襖を開け出て行った。不穏な風が流れた。
「どこだ…どこにいる…」
慧音は人里中を走り回っていた。敵の目星はついていた。最初に来たあいつ。あいつはどのような仕組みかは知らないが、人の体を強制的に動かすことができる。慧音は主に高いところを見た、だがそれらしい人物は見当たらない。気づくと人里を一周してしまっていた。これ以上は危険だ、慧音はそう思い、急いで寺子屋に戻っていった。
寺子屋には怪我人を大量に受け入れている。今そこを攻められるとまずい、慧音は速度を上げる。恐らく妹紅は何らかの方法で無力化されたのだろう。人里は今地獄となっている。
「面白い光景だぁ…笑えるなぁ」
男は笑う、男は現在家の中にいる。当然気付かないだろう。男は扉を開ける、前では人が逃げ惑っている。
そろそろ寺子屋を血祭りにあげるか、男はニヤリと笑って足を踏み出す。煙の匂いが鼻を刺激した。
慧音は寺子屋の前に来た、そして素早く戸を開ける。
一部の人が驚いた様子を見せる。よかった…間に合った…慧音は一息つく。そして考えを整理する。相手について分かっていることは、人を操る、男、極度の自己中心的思考。そして操られた者は逆らうことができない。周りは怪我人ばかりでここで戦うのは危険だ。
足に怪我をした者も居て非常時には逃げられるか分からない。
「慧音先生、腕の調子はどうですか?」
いつの間にか横に居た霖之助が慧音に尋ねた。慧音は一瞬驚いたが頷いた。霖之助の横には阿求が座っている。阿求は暗い顔をしている。
「この中に今回の異変の首魁が居ます」
阿求は慧音に耳打ちした。太陽が雲に隠れる、影が慧音たちの影を濃くしていった。
視点が定まらぬ




