妖精“浦島”
家に着く頃には、辺りは暗闇に包まれていた。図書館を出た時は聞こえたヒグラシの鳴き声も、もう聞こえなくなっていた。玄関の扉を開けた結は、いつもは母親にただいまを言うためにリビングに行くが、今日はそれを避け、素早く階段をのぼり2階の自室へ入った。なんとなく、今自分が両手に抱えている妖精のようなソレを母親に見つかる前に隠す必要性があると感じたからであった。
「とりあえず、なんか食べれるもの持ってくるから、ここでちょっと待ってて」
「いろいろとすまないな……」
「親にバレたくないから…、静かにね」
「あぁ」
結は自室を出ると、リビングに向かう。
「お母さん、ただいま」
「おかえり。さっき急いで2階に行ってたけど何があったの?」
「いぃや、別になにもないよ」
「そっか、ご飯食べてくるって言ってたから用意してないけど大丈夫だった?」
「うん、食べてきたからいい」
母との会話を終えてリビングを出ると、次はキッチンへ向かう。戸棚の中の魚肉ソーセージを一本出し、一口サイズに切ってからアルミホイルに乗せてマヨネーズを少しかけ、トースターに入れる。5分ほど焼いたら皿に適当に盛り付ける。結が夜食としてよく食べているものだ。それを2階の自室の妖精のもとへ持っていく。
「とりあえず、食べるもの持ってきたよ」
「…すまない」
妖精は、初めてこの食べ物を食べるかのように、恐る恐る口に入れた。よほど美味しかったのだろう。すぐに2つ目を口に入れ、続いて3つ目、4つ目と、あっという間に完食した。
「ふぅ、腹が満たされた」
「それはよかった。で、聞きたいことあるんだけど」
「そうだったな。何が聞きたい」
「まず、あなたは誰?」
「俺は…。」
『俺の名前は浦島太郎だ』




