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2-6 『楽しい戦』

読んでくださりありがとうございます!

よければブクマなどしていってくださいね。



 建物全体が揺らぐような衝撃に重なるように凄まじい爆発音が鳴り響く。



カフェの入っている三階部分の壁は直撃した車によって大きく穿たれ、続く爆発が瓦礫を辺りに撒き散らしていった。




 噴き上がる紅焔と、立ち込めるような土埃が一面を覆い隠す惨状。

 命の灯火など容易く絶えてしまうだろうその噴煙の中で、確かにその音は響いた。




 ごくり……




 と。




 瞬間、一面を覆っていたはずの紅焔と土埃が消失する。

 まるで何かに丸ごと呑み込まれたかのような前兆のない空白の中で、シロは「ふん……」と気怠げに口元を拭い取る。

 

 

「やっぱり無生物の名前はまずいのぅ……せっかくのパンケーキの余韻が台無しじゃ」



 壁が吹き飛ばされ、雄大な青空をそのまま臨めるテラス席と化してしまったそこで、シロは何事もなく椅子に腰掛けていた。空になったパンケーキの皿を前に足を組んだ彼女は不機嫌そうにため息をついて前方を見やる。



 

「――――なぁ、シロ。車も飲み込めたりしなかったのか?おかげでコートがちょっと焦げたんだが」


 シロの視線の先で、丸焦げになった鉄の塊がぐらりと揺れた。

 それはカフェへと突っ込んできた車の車体……だったもの。席の前に佇むクロは涼しげな顔で、それも片手で受け止めていた。



 どれほどの力で留められたのか車体の前部は大きくひしゃげており、クロによって握られているバンパーはまるで紙切れのようにしわができていた。



 それを認めたシロはカラカラと愉快そうに嗤う。


「なぁに、今回は観客もおるんじゃ。これくらいのパフォーマンスは必要じゃろうて。のう……店長とやら?」



 突如としてもたらされた二人の視線に、背後で唖然していた金髪の男が「ひいっ……っ」と身体を震わせる。



 腰が抜けてしまったのだろうか、傍に立っていたメイド共々へたり込むように床に手をついていた。



「俺たちがいなけりゃとっくに死んでたんだ。飯代はチャラでいいよな?」

「は、はいぃぃい!すみませんっすみませんっ!!」

「な、なんなんっすか。お前たちは、いったい……」



 完全に恐慌状態となってしまった店長に対し、比較的余裕があるのだろうルルが、しかし額に冷や汗を浮かべながら問いかける。


その問いに、二人は迷うことなく答えた。



 

       だよ」

「「探偵

       じゃ」




 瞬間、耳を劈くような爆発音が地上から響き渡る。

 カフェから見下ろした先、多くの店が立ち並ぶビル街の一角で、何やら奇怪な衣装に身を包んだ三人組が破壊の限りを尽くしていた。


 

 人々が逃げ惑う中、悪魔のような哄笑を響かせながら、奴らは魔法を所構わず放っていく。

 


 先ほど飛んできた車も奴らの仕業なのだろう、三人のうち一際大きな体格をした男が車をむんずと掴み、無差別に投げつけていた。



「シロ。結構早くに当たりがあっちから来てくれたみたいだ。少し行ってくるぞ」

「うむ、行ってこい……ちなみになんじゃが、残ってるお主のパンケーキ……」

「あぁ、好きに食べていいぞ――――!」



 そう言い残してクロは建物の外へと跳躍する。



 青空の下、黒焦げとなった鉄塊を手に落下していくクロを尻目に、「……さてと」とシロは妖しく光る瞳で店長たちを睥睨した。


「主らには世話になったのでな。二、三個お主たちに礼をしてやろう。まずはそうじゃな………」


シロは頬杖を突き、持ち上げられた頬の内側から鋭くとがった歯を覗かせて冷酷に告げる。


「名でも、聞こうかの」



 






「ボハハハハッッッ!!楽しいな、楽しいぞ!!どうだお前たちッッッ!!!」

「へいっ!!さいっこうに楽しいですぜ!!アニキ!!!」

「あ、アニキィ……早く宝石持って逃げようぜぇ……魔導警察が来ちまうよぉ……っ!」


 黒煙を立ち昇らせる宝石店の中から、三人の奇妙な男たちが散らばるガラスを踏み砕いて歩み出る。



 錆びたガスマスクを付け、獣の生皮をそのまま剥いだような蛮族が如き衣装を身につけた彼らは、各々が宝石のたんまりと入った袋を手にしていた。



 アニキと呼ばれた、一際大きな体格をした赤毛の男は、他の二人の言葉に「ボハハハハッッッ!!」と豪快に哄笑する。



「小鉄、お前はもっと自信を持て!!!自信を持てば人生は楽しいぞッッッ!!!」

「あ、アニキと一緒に悪いことできるのは楽しいよ……」

「そうか、楽しいかッッッ!!!!だが自信を持てばもっと楽しくなるぞッッッ!!」

「でもよぉ、早く逃げねぇと……っ」



 小鉄と呼ばれた一番体の小さい男の泣き言に、赤毛の男は耳を貸すことなく続ける。


「楽しいは凄いぞッッッ、こうやっ、っってえ……ッッッ!!!」


 その場にあった車を左手で徐に握り込むと、まるで野球選手が遠投するが如く大きく振りかぶり、優に1トンはあろうかという鉄の塊を向かいの建物へとぶん投げた。



「何でもできるッッッ!!何だってできるッッッ!!楽しいは最強だァァッッッ!!!!ボハハハハッッッ!!!!」



 轟音を撒き散らして爆発する建物を眺めながら、男は野蛮な嗤い声を響かせて走り始める。



 広場の真ん中へと飛び込み、気のゆくままに破壊をし始めたその男を、小鉄が呆然として見つめていたその時、ポンっと何者かに肩を叩かれた。



「小鉄ぅ、アニキの言うとおりだぜぃ?」

(あたる)兄……」

「オメエは小心者すぎんだよ、アニキみたいにもっとこう、ガツンッ!!と行こうぜぃ!ガハハハッッ!!」



 中あたると呼ばれた緑髪の男はそう言い残して広場へと駆け始める。

 猛々しい笑い声を響かせながら赤毛の兄へと駆け寄ろうとした、その時――――



「――――んぁ?」



 男の頭上に、影が堕ちた。




 それは、黒く焼け焦げた鉄塊。


 端を握る何者かの怪力によって鈍器のように振り下ろされ、呆けた声と共に上空を見上げた中あたるの頭を、



 ガツンッッッッッッッ!!!!



 と強かに打ち据えた。




(あたる)兄ッッッ!!!?」

「むッッッ!!何だか楽しそうなやつが来たなッッッ?!?!」



 鈍い衝撃と共に舞い上がった土埃が次第に晴れ……その姿が露わになる。


 そこにいたのは、地面に打ち付けられた鉄塊の上で、二人を見下すように佇むクロの姿であった。



 鉄塊は完全に石畳へとめり込んでおり、緑髪の男は地面へと植えられてしまったのかどこにも姿が見当たらない。



「一つ、お前たちに選択肢をやろう。……お前たちの名前を言え。そうすれば見逃してやる」

「ボハハハハッッッ!!見逃すとは、貴様は魔導警察の者ではないのか?!いいぞ、名乗りなら大好きだッッッ」



 赤毛の男はまるで歌舞伎の演目が如き勇ましいポーズをとり、朗々と自身の名前告げた。



「俺の名前は久万(くま)大将(だいすけ)!!泣く子も黙る久万三兄弟の長男よッッッ!!!ちなみにぃッ、いま死んだっぽいのが次男の(あたる)で、そこのちっこいのが小鉄だ!!!」



「くま……だい、だい……ご?あた、あたり……?……まずいな、全然覚えられん」



 クロは頭を掻いてたっぷりと唸った後、「はあぁ〜〜〜……」と深々とため息をついて俯く。しかしすぐに切り替えたのだろう、次に顔を上げたときにはいつも通りの無感情が湛えられていた。



「ま、いいか。前言撤回だ」


 鉄塊の上から軽々と飛び降りたクロは、俄かに握り込んだ拳を上げて構えを取る。その瞳には、無感情の奥に肌を刺すような鋭い敵意が確かに込められていた。




「とりあえず倒して、その後にじっくり名前を聞くことにしよう」

「ボッハハハハハッッッ!!!やっぱり楽しい奴だ、貴様はッッッ!!!」



 大将と名乗った赤毛の男は痛快に嗤って、その丸太のような太い腕を掲げる。


 瞬間、大気を焦がすような大玉の火球が男の手の上に出現し、キリキリキリ……と槍状に圧縮されていった。


「"イグナイトスピア"ッッッ!!!」



 男の剛腕によって投擲された炎の槍は、凄まじい速度でクロに迫っていく。しかし、クロは一切防御の姿勢を取ることなく、逆に槍に向かって疾駆すると、



 ふっ……



 とクロの身体に着弾した瞬間、炎の槍が掻き消された。



「ぬっ?!?――――ぐおっ」



 予想外の消失に面を食らったその隙を逃すことなく、クロは男の顎を力強く蹴り上げる。



 そのまま後ろに倒れるかと思われたその巨体は、しかし――――ガッとクロの足をその手で捕まえて、踏み留まる。



「…………」

「はなれてろよぉ……小鉄ぅッッッ!!!」

 ガスマスクの奥から覗く獰猛な瞳が、チリッ……と炎を浮かび上がらせる。



「"フォクストルネイド"ッッッ」



 男を中心に業火の嵐が巻き起こる。


 視界が全て眩むような紅焔の檻の中、息を吸えば肺が焼け爛れてしまう高温の中で、「ボハハハハッッッ!!!」と豪快に嬉々とする声が響いた。



「なんってことだ!!!この炎の中でも無傷とはッ、なんって楽しい男なんだッッッ!!!」


 炎の嵐をまるで優しくそよぐ春風程度にしか感じていなさそうなクロに、男は驚嘆する。



 クロは身体を捩り男の腕から逃れると、涼しげな顔で再び構えをとった。


「まるで霧を叩くような不可解な感触ッ、加えて魔法への絶対的な耐性…………防魔鎧(マジックスケイル)ッッッ!!!!貴様、神代の遺物かッッッ!!!!」




 目を見開いて楽しげに叫ぶ男に、クロは僅かに眉を顰める。

「この時代にも知ってるやつがいるとは。意外に賢いんだな……誰かに教わったか?」

「無論ッッッ!!俺たち兄弟は皆、魔法大学を出ておるッッッ!!!ボハハハハッッッ!!!」

「ならもっと知性を感じる笑い方をしろよ」

「知性と理性で抑え付けた嗤いは楽しいかッッッ???答えは否だッッッ!!俺は俺のままッッッ!俺の思うがままにこの世界を楽しむぞォッッッ!!!!」



 早くも魔法に見切りをつけたのか、男がその巨体を活かしてクロに肉薄する。炎に囲まれたリングの中でブォッン!と剛腕を振り抜く男は、しかし、その全てをクロに躱され、弾かれてしまう。



 攻撃の間を縫い、懐へと迫ったクロは力強く握った拳を男の脇腹へと叩き込んだ。



「ぐぼぅっ!!」と湿った嗄れ声を上げて、男の巨体は膝をつく。地面に手をついて苦しげに呻く男を前に、クロは淡々と手についた汗を振り払う。

 轟々と燃え盛る炎の中、決着がついたかと思われたその時、



「ボハハハハ……」


 と捻り出すような笑みが溢れた。



防魔鎧(マジックスケイル)に人間離れした肉体ッ……楽しいッ、楽しいぞ!!!だが、ここからはもっと!!!楽しくなるッッッ!!!!!」

「――――――!!」



 異変を感じて身を引こうとしていたクロの足が、何かに縫い留められる。足元、クロの身体を固定するように岩が這い上がっていた。



「器用なやつだ……っ」

「防魔鎧マジックスケイルはあらゆる魔力を防げるッ……が!!!魔力に依らない物理現象には一切の効力を持たないッッッ!!!出ててよかった、魔法大学ッッッ!!!――――小鉄ぅッッッ!!!!」

「"タイダル……フォール"!!!!」




 その時、炎の渦のさらに上空。何もなかった空間から特大の水流が形成される。

 炎の柱と津波がぶつかり合い、急激な蒸発を引き起こした二つの魔力の奔流は……



 ドゴォォォンッッッ!!!と脳が揺らぐような轟音と共に、超大な白雲を作り出した。




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