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2-4 『まっくろな正義』

ブクマ、評価、本当に励みになります!

ありがとうございます!



「本日より京都魔導警察署に配属されました、外薗水鳥と申します!どうぞ、よろしくお願いします!」




 殺伐とした空気の流れる現場に、場違いな堅い声が響く。規制線の張られた部屋の前で、現場検証のために集まっている人達に念の為と告げた挨拶は、だが応える声はひとつもない。

 


「…………」

 色味の薄い作業着に身を包んだ鑑識達が一瞬だけ彼女に目をやって、何の返事をするわけでもなく黙々と作業を再開していった。




「えっと……?」

「何やっとんや。警官学校のコンプラ研修ちゃうねんぞ。さっさと中に入らんかい」

「……はい、骨塚警部」



 骨塚と呼ばれた獣人族の男は、その太いマズルの奥から「フン」と荒々しく息を吐いた。




 全身を覆っている黒くツヤのある体毛に、魔導警察の制服の上からではあるが、はち切れんばかりに鍛え上げられた筋骨隆々な身体。



 純粋な犬型の獣人族なのだろう。猟犬の如く鋭い眼光と、整えられ半ばオールバックのようになっている頭部の毛からして、凄まじい威圧感を放っていた。




「なんっかいも言っとるやろ。骨塚さん、それかロウさん。それか全部とって骨塚ロウさんでええって」

「で、では、骨塚さんで」

「よっしゃ。ほれ、さっさと入らんかい。この歳になると腕上げるのもしんどいねん」




 (このフランクさをどこまで真に受ければいいんだろう……)

 そんなことを考えつつ、外薗は垂れ幕の中へと入り込む。骨塚によって再び垂れ幕が下げられると、辺りが一気に仄暗くなった。




 若干見えづらさを感じる程度の暗闇に、外薗は足元に注意しながら奥へと進む。



 その先に広がっていたのは、室内とは思えないほどに広々とした空間だった。横だけではなく、高さのある空間は一部が吹き抜けになっており、リビングに入ってすぐのところに二階部分へと続く階段が見える。

 


 高級マンションの一室らしく、高価そうな家具や装飾品が散りばめられているこの部屋は、しかし、暗闇に支配されているためであろうか。本来の輝きが鈍くなり、どこか寂れたような雰囲気を纏っていた。

 


「暗いやろ。防衛システムが作動しとるから、窓が全部塞がっとんねん。現場の保存が済んだら解除されるゆうから、ま、少しの辛抱やな」



 話しながら手招きしてくる骨塚に従って、外薗は鑑識の邪魔をしないよう慎重に歩を進める。



「報告書は既に目ぇ通しとるな?」

「はい。被害者の名前は佐野賢一。数々の機械的防衛システムを手掛けてきた警備会社、『アイアス』の現CEOです。死神ジャックからの殺害予告を受けたことで、自社システムが導入されたマンションに身を隠すも……本日午前8時頃――――」




 ピタ……。と骨塚の足が部屋の中央で止められる。

 彼の足元には、血に塗れた一人の男が横たわっていた。



「――――何者かに殺害される」




 その遺体は、見るに耐えない有様であった。


 何か鋭利なもので幾度となく刺されたのだろう。恐ろしいほどに刻まれた傷跡に、しかしそれだけでは絶命に至ることはできなかったのか、彼は苦悶に満ちた表情で固まるように息絶えていた。





 経験豊富な外薗でさえ息を呑んでしまうほどの惨状に、だが骨塚は「はぁ〜あ」と辟易するような溜息をついて、遺体の前にしゃがみ込む。



 大ぶりな手を合わせて黙祷を捧げ始めた彼に、外薗も倣って手を合わせる。横目で外薗を捉えた彼は、小さく「真面目やなぁ」と溢して浮かない顔のままに嘆息した。



「……犯罪者心理の講義は覚えとるか?ワイらが受ける、あのよ〜つまらん奴や。あの講義の中で、被害者を滅多刺しにするような奴は、恨みよりも恐怖からの防衛反応の方が大きいっつう話があるやろ」



「でも、実際はちゃうねん」と諦観に満ちた声音で細々と告げる。



「こいつはわざと急所を外しとる。楽しんどんや、こいつは。自分だけの正義を行使するのを心の底から楽しんどる」

「機械派の人間を殺して……ですか?」

「せや。差し詰めジャックザリーパーは、自分がRPGで言う勇者みたいな感じで、機械肯定派が魔王って本気で思っとるんやろうな。ほんっま……気色悪いわ」

 


 黙祷を捧げ終えた頃を見計らったのだろう、「お取り込み中申し訳ありません」と鑑識の一人が声をかけてくる。



 骨塚は緩慢な動きで立ち上がると、用件を待たずに答えた。



「なんも証拠でんかったんやろ?いつものことや。防衛システムにもなんも異常なかったみたいやし、もう解除してええで。あとは他に任せて撤収しよか」

「了解です。……全員、撤収作業に移れ!」

「え、ちょ、ちょっと待ってください!」



 あまりにも早すぎる諦めに、外薗は思わず声を上げる。その思いを汲んでくれたのだろうか、「……あんなぁ」と骨塚が彼にしては優しげな声で諭す。



「あんたにとっては初めてなんかもしれんが。ワイらにとっては何日何週間何ヶ月も繰り返してきた日常なんや。証拠もない、臭いもない、魔力痕もない。監視カメラの映像にもなんも映っとらん。髪の毛一本と見つからん。血眼になって探すんが無駄やってことは、痛いほど知っとんねん」


「だからといってこのまま犯人を野放しにするつもりですか?!見つからないとタカを括って、また次の犠牲者が出るのを傍観しろと?!」


「人聞きの悪いこと言うなや……ワイらかて警官や。市民を守ろうって気概だけは一丁前にあんねん。せやけどな、その守らなあかん市民ってのは、死神に狙われるような上流階級だけやない。この街に住む、全ての人や」


「――――」




 瞬間、重々しい機械音と共に、窓を覆っていたシャッターが徐々に開かれていく。



 広がっていく隙間から入り込んだ肌を突き刺すような昼日が、部屋を支配していた暗闇を祓い去っていき、その都市の全貌を恥ずかしげもなく露わにした。


「っっ……、………え?」

 久方ぶりに見る陽光に目を灼かれながら、外薗は眼下に広がる光景に目を見開く。



 逆光を背に、骨塚は言った。



「――――ここは"魔の都"やで?……死神以外にも、魔物はぎょーさんおんねん」



 高層マンションの一室から見下ろされる、美しい街並み。碁盤目状に建ち並ぶ、マンションとまでは行かずとも背の高い建物群。整えられた街路樹と人々の活発な蠢きは、確かに目を見張るものがあった。



 しかし目につくのは、その美しさではなく――――数多の、異変。



 あちこちで立ち昇る黒煙。地盤を揺るがすような爆発。天を衝くように生える土塊の槍。地面を裂く水の刃。逃げ惑う人々。


 金品を奪うため。あるいは自身の力を誇示するため。あるいは、ただその悪意を振り撒くため。

 



「……これ、っ……て……」

 魔の都と呼ばれる所以。魔法犯罪が白昼堂々と行われるその様に言葉を失いかけた外薗に、骨塚はぶっきらぼうに言い放った。

 


「ジャック・ザ・リーパーを追いたいなら勝手にしたらええ。うちはお邪魔もお節介も大歓迎や。でもな――――」



 ひどく、冷酷な瞳で。



「弱音吐くんやったら、帰ってな〜」







「「「「お帰りなさいませ、ご主人様〜〜〜〜♡」」」」




 店に入るなり、猫撫で声の嵐が二人を包み込む。


 後ろで閉まるドアの音も聞こえないほどにもたらされたその歓声は、まさに二人の目の前に屯しているメイドの一群から発せられていた。



 黒地と白のフリルのコントラストが鮮やかなメイド服に身を包み、愛嬌に満ちた笑みで恭しく二人を出迎える彼女たち。



 クロとシロは入るや否やの突然の歓迎に、その表情を一切揺るがせることなく、堂々たる様で応えた。




「「…………うす」」

「違いますよ〜ご主人様♡。ここはご主人様のお城なので、『ただいま戻ったぞ、我が眷属たち』って言ってくださいね♡」

「……クロ。お主が言え。慣れとるじゃろ」

「…………た、ただいま戻ったぞ。我が眷属たち……」

「「「「2名さまご来城で〜〜すっ♡」」」」



メイドたちは貼り付けたような笑みを浮かべてクロの返事を受け流す。その可愛らしい口元からは、獲物の血を吸い取るべく鋭く尖った犬歯が覗いていた。



 ここは吸血鬼メイドをコンセプトとしたカフェテリア『ドラクール』。全ての従業員が純潔の吸血鬼で構成されており、その鼻につくような接客と上位種らしく主人を弄ぶような一面から、一部の層からは人気を博している。

 


 そんな店に、二人はパンケーキを食べにきていた……のだが。



「なぁシロ。この店壊してもいいか?」

「やめておけ」




こんばんわ!星見夜船!


読んでくださり本当にありがとうございます!皆さんが読んでくださるおかげで、非常にモチベが上がっております。まだまだ更新していきますので、お楽しみに!

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