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3-1 『掴む尻尾と揺れる心』

読んでくださりありがとうございます!



「……ふぅ、ざっとこんなもんですかね」





 度重なる爆発と衝撃波によって穴ボコとなってしまった広場。そこから少し離れた路地裏で、外薗は地面に座る二人を見下ろしていた。





 陽の光が遮られて若干薄暗いその空間にはクロと外薗、そしてたった今拘束された二人の男しかおらず、外の騒ぎに反してシンとした息苦しさが満ちている。






 建物の壁を背にどっしりと腰を下ろしている赤毛の男は、手にかけられた微光の鎖をジャラリと揺らして嗤う。




「ボハハハハ。こんなものしなくても俺らは逃げ出しやしねぇよ」


「許さねぇっ!さっさとこれを解きやがれっ……!」


「な?俺たちは負けたんだ。今更抵抗するつもりはねぇよ」


「中兄の仇だっ……絶対に殺してやる……!!!」


「せめて兄弟で意見を統一してくれませんか……?」





 本当に抵抗する気がないのか、打って変わって穏やかな表情を浮かべる大柄な男に対して、小鉄と呼ばれていた小柄な男は今にも噛み付かんと鎖を軋ませて喚く。





 どちらも頭に大きなタンコブを抱えていること以外は正反対な二人に、外薗が(うーん……本当に兄弟なのかな....?)と自分の言葉を省み始めたその時、クロが二人の近くへと歩み寄っていく。





 怒りに満ちた瞳で睨み付ける小鉄を前に、一切の躊躇なくかがみ込んだクロは、視線を合わせてゆっくりと口を開いた。


 




「お前たちには色々と聞きたいことがあるが……まずはそうだな……」


「お前なんかに教えることは何もねぇっ!!中兄を殺しやがって!!」


「そう、そのことだ。お前たちの仲間は死んでいない。ちゃんと手加減してやったからな。今頃は土の中で目覚めてるだろ」


「――――はっ?」





 素っ頓狂な声をあげて硬直する小鉄を尻目に、傍らの赤毛の男は「ボハハハハッッッ」と堰を切ったように笑い始めた。





「こちらから命を狙ったというのに、なんと律儀なやつだ。気に入ったッッッ!俺たちの知ることならなんでも答えよう。嘘偽りなくな」


「話が早くて助かるな。それで、最初に聞きたいんだが…………お前たちの名前ってなんだったっけ」


「……はっ?」


「はあ〜……やると思いましたよ、クロさん」


 





 出鼻を挫かれ、赤毛の男はガクッと身体をぐらつかせる。しかし、すぐに気を取り直したのか、まるで幼子に話しかけるような柔らかい口調で質問に答えた。




「いいか、俺が久万大将。こっちが久万小鉄。いま土の中にいるやつは久万中だ」


「一気に三人……これは……」


「くま……こっちが、大作。そっちがそてつ……?」


「逆だし名前も違う……だいすけ、くまだいすけ。ほら言ってみろ」


「くま………………」


「……もうクマさんでいいぞ」


「兄貴が折れたっ?!」





 戦闘中にも見せなかった翳りを浮かべるクマさんと、やっぱりと言わんばかりに頭を抱える外薗に、しかしクロは気にすることなく頷く。





 本題に入るべく再び質問を投げかけようとした、その瞬間、





「――――久万大将に中、それと小鉄か。わしは覚えたぞ」





 路地裏の入り口から、軽い足音が幼なげな声と共に響いてくる。





 赤みを帯びてきた陽の光を背に歩を進めるその少女は、指先でつまんだ何かをチロチロと舌先で遊ぶようにして口に頬張ると、




 ゴクリ……




 とその小ぶりな咽頭を鳴らして呑み込んだ。







「――――――っ。なんだ、今の感覚は……」


 脳裏に走った、背骨を舐め回されるような不快な悪寒に、大将は冷や汗を浮かべる。





 その様子に少女はカラカラと嗤って、逆光の中から姿を現した。白色の狐耳と尻尾とを傲慢に揺らして。





「安心せい。少々記憶を読んだだけじゃ。取って食いはせんよ」


「――――シロさん!って……その格好は一体どうしたんですか?」


「んぉ?あぁ、これか。ええじゃろ〜」





 素っ気ない反応とは裏腹に、隠しきれない歓びを口角に浮かべて、シロは身を翻させる。




 下半身から胸下までを覆うゆとりのあるサロペットは、色褪せた紺色のデニム生地がグラデーションを生み出し、下に着込んだ生成色のシャツとの間にはっきりとした境界線を作っている。





 長く伸びた白銀の髪はサイドの髪を僅かに巻き込んだ形で一本に結われており、耳だし穴のついた深緑のハンチング帽と、琥珀色の大ぶりな丸サングラスが異質な美しさを浮き彫りにしていた。





 サングラスの奥で目を細め、「ふふん」と満足げに胸を張る彼女に、クロはどこか顔を引き攣らせながら問いかける。





「すごく似合ってるが……もしかしてそれ買ったのか?……金はどうした?」


「買っとらんよ。さっきの喫茶店の店長が気前よく見繕ってくれてな!『もうこれで勘弁してください』と頭を下げて喜んでおったわ」


「どうしよう……恫喝にしか見えない。逮捕した方がいいのかな……」


「これでわしもシテイガールというわけじゃ!やはり都会ではそれに見合う服を着ねばな!…………と。話がそれてしもうたな」





 すんっ、と尖らせた双眸でシロは今し方名前を飲み込んだ二人を眺める。






「お主らはもう用済みじゃが…………折角じゃ、尋問しておくか」


「いや、必要ない。もう食べたんだろ?さっさとここを離れよう」


「――――。クロ、どういうつもりじゃ?」






 予想外の制止に動揺するシロは、自身を見据えるクロの視線をしばらく吟味した後、「まさか……」と外薗へと視線を動かした。





「え?えっと、なんですか?」と気味悪さを覚える外薗を尻目に、シロはクロへと向き直り、真剣な表情で問いかける。





「話すのか?」


「あぁ、そのつもりだ」


「..........それは、本気で言っておるんじゃな?」


「さっきからお二人はなんの話をしてるんですか……?」





 堪らず割って入った外薗に、クロは優しげな微笑みを浮かべて告げた。





「合格ってことだよ。お前は強い。約束通り俺たちのことを教えてやる」


「――――!!本当ですか?」


「本当だよ」


「嘘じゃないですよね?!」


「嘘じゃない。って何回聞くんだよ」


「ボハハハハッッ、俺たちは蚊帳の外だなぁ!小鉄!」


「腹立つぅ……」





 激闘の後とは思えない朗らかな空気が流れる路地裏。





 しかし、その緩慢な神経を引き裂くかのように、サイレンの音が響いた。




 しなるような響きを持ってどんどん近づいてくるそれは、魔導警察のパトカーのそれに違いなく、クロとシロは一気に顔を強張らせる。





「ここを見られるのは面倒ですね……、クロさん!」


「あぁ、わかってる。流石に長居しすぎたな。シロ、掴まれ!逃げるぞ」


「…………待て、そこの黒いの!」





 シロの細身を抱えて、壁を飛び登ろうと身を屈めたその時、赤毛の男がクロへと向けて声を上げる。名前を覚えられなかったことの意趣返しか、それとも名前を聞かれるのを忌避してかはわからないが、彼はその黒いのへと気持ちのいい笑みを浮かべると、





防魔鎧(マジックスケイル)はすげえスキルだ。だが、そこから出されるのがただの徒手空拳では華がねえ!たまには魔法を織り交ぜた方が楽しいぞッッ!」


「…………あぁ、肝に銘じておくよ」





 クロはまるで忍びのような身のこなしで壁を蹴って、ビルの屋上へと消えていく。





 その姿を見届けたその時、複数人の嵩むような足音が路地裏へと傾れ込んできた。







「なんや、もう片付いたったんか。流石は署長のお墨付きってわけやな、よーやるわ」


「骨塚さん……!」




 鋭い爪を携えた腕を掲げて、後方で続いていた部下たちの動きを止めると、骨塚は太いマズルを揺らして鼻を鳴らす。





 彼の鼻に魂まで吸い込まれるような緊張感の中、匂いを隅々まで吟味したのだろう骨塚は「ふぅ"ぅ"〜……」と息を吐いた。





「犯人は三人だけみたいやな。一人で捕まえるとか、スーパーマンかっちゅうねん。あ、ウーマンか」


「――――!」





 目を僅かに見開いた外薗の姿に、小鉄は俯かせた顔の奥で静かにほくそ笑む。


隠遁魔法『デオエア』。路地裏からシロとクロの匂いを隠したことで、獣人族の嗅覚ですら二人を感知できなくなっていた。


 「.........チッ。なぁんでこんなこと......」






「……はい!私が彼らを捕まえました!」


「わーっとるわ。威勢がいいんはええけど、流石に土の中に埋めるのはやり過ぎやで、気ぃつけや」


「それは……いや、はい……」





 骨塚は慣れた手つきで部下に指示を出し、久万兄弟を連行させる。





 路地裏を出た時、世界はすでに茜色に染まりつつあった。陽が傾き始め、どんどんと赤みを増していく夕焼けの中、「ん?」と骨塚は外薗を見つめて小首を傾げる。





「なんや、えらい嬉しそうやないの!そんなに初めての逮捕が嬉しかったんか?」


「…………そうですね」





 夕日が頬の熱を隠してくれていることを期待して、外薗は微笑む。






「やっと、尻尾を掴んだって感じです」









「――――本当にいいんじゃな?クロ……話してしもうて」





 建物の上を軽快に飛び移っていくクロの腕の中で、シロはどこか浮かない顔で問いかける。





「シロは嫌だったか?それならやめてもいいが」


「いや、わしは構わん。構わんが……」


「…………?」





 腕の中でシロがモゾっとクロの身体に縋るように蠢く。話したがらない雰囲気を感じ取ったクロは、何も言うことなく前方の夕焼けへと視線を戻し、足に力を込める。




 (わしは、わしはな……)




 ギュッと黒いコートの生地を握りしめて。




 (◾️いんじゃよ……お主がいなくなることが、◾️い……)




 ◾️◾️に震える指先を、誤魔化して。






 地面を蹴る強かな振動に、今はただ身を委ねた。




こんばんわ!星見夜船です!


愛は想いなので、重い方がお得なんですよね

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