第194話 裏戸のスキッド
現れたスキッド。裏戸のスキッド。
「やあ、ミル」
レイラに向けて微笑む。
「え? なんで?」
レイラが思ったのは、スキッドの出所は7日後のはずだ。どうしてだろう? その事だった。
ミル=アスターシャは、
黒面紗の下で唖然となっていた。顔は見えないが動揺している。当然だ。完全に注意を奪われている。
今なら銃を奪える。
レイラはそう思った。
動くか?
だが。
先に動いたのはスキッド。その顔、ミル=アスターシャの手の銃を認めると、一転厳しくなった。
本職のギャングなのだ。冷徹非情で鳴らした裏戸のスキッドなのだ。
スキッドは光線銃を抜きざまに撃つ。
狙ったのは、
黒衣黒面紗の女。
ミル=アスターシャ。
ミルは胸から血を噴き上げ両手を大きく広げながら、後ろの階段を、死の13段を転げ落ちていった。
一瞬の出来事だった。
階上で凍りついたように立ちすくむレイラ。
「ミル、大丈夫か?」
スキッドが、微笑みを取り戻して言う。非情な殺人者。
「その顔、いいじゃないか。刑務所でお前が遠くの星へ逃げて顔を変えたって聞いて、びっくりしたぞ。でも、送られてきた画像を一日中ずっと見ていた。すっかり覚えたよ。顔をどう変えたって、お前は俺のミルだ。本当に、お前に対する気持ちは変わらねえよ。俺が出所すると聞いて、また戻ってきてくれたんだよな? あ、ちょいと早めに出てきたこと、びっくりしてるか? 実は俺の弁護士が、拘束拘置に不正があったことを見つけたんだ。それで司法取引して7日間早く出所できたんだ。このことはみんなに内緒にしておいた。驚かせさ。出てきてよかったよ。ミル、お前、今、撃たれるところだったんだよな。ギリギリ間に合ったよ。あの女、誰なんだ?」
スキッドの声。
遠い星から聞こえてくるように思えた。
でも事情はわかった。司法取引で早く出所した。みんなに内緒にしておいた。それで勝手知ったる巣の裏戸から現れた。
確かに。
神出鬼没。裏戸のスキッド。誰をも欺き、裏をかき、出し抜く男。誰にも捕まえることのできない男。
そして、ここでスキッドが見たのは。
新しいミルの顔と信じるレイラが、黒衣黒面紗の女に銃を突きつけられているところだった。
スキッドに躊躇いはなかった。ミルを守るために、黒衣黒面紗の女を撃ったのだ。当然の判断だった。
スキッドが胸を撃ち抜き、血飛沫とともに死の13階段を転がり落ちていった女こそが、スキッドが誰よりも愛した、誰よりも守りたかった、そしてどうしても手放せなかった女、ミル・フレイザーだったのだ。
階下では、悲鳴が上がっていた。
あたりまえだ。階段から、撃たれた女が転がり落ちてきたのだ。
騒ぎになっている。さすがに通報もいっている筈。警官隊が来るのも時間の問題だろう。
ここはなんであれ。
レイラは素早く動いた。
逃げよう。とにかくここにいちゃいけない。
全力で、いましがたミル=アスターシャが転げ落ちた階段を駆け降りる。そのまま店の入り口から、飛び出す。振り返らない。後ろから、「ミル、ミル」というスキッドの声がした。
スキッドはレイラをミルだと信じている。追っては来るが撃ちはしないだろう。
店から飛び出したレイラ。
いきなり腕を掴まれた。
ギルバンだった。
エアカーの前部座席の扉を開け、中から、レイラの腕を掴んでいる。
「乗れ」
ギルバンは短く行った。レイラもすぐさまエアカーに飛び乗る。
「中で殺人があったの。撃ったギャングが私を追ってくるの」
息せききって言うレイラにギルバンは、
「座席に身を伏せろ」
と言って扉を閉める。
「発進しないの?」
伏せながらも心配なレイラにギルバンは、
「ギャングに追われてるんだろ? すぐ発進したら、ここにいますって教えてやるようなものだ。身を伏せてじっとしてればそれでいい。関係ないふりをするんだ」
2人の乗ったエアカーの横を、光線銃を手にしたスキッドが走り抜けていった。
なにか大声で、ギャングたちに指示を出している。




