第192話 とんでもない裏
自分がミルの身代わりとして死ぬ? なんだそりゃ?
ポカンとするレイラに本物のミルは、
「アルデランタのお屋敷のポーチでお茶を飲んでいたの。そうしたら前の道を通るあなたを見かけたの。ピンときた。年恰好も背格好も同じ。これは使えるってね。この子に決めよう、そう思ったの。で、あなたの顔を撮影して、家から飛び出して、あなたに抱きついて、見せたの。あなたの画像を私の双子の姉の画像だって言ってね。びっくりしたでしょう?」
レイラは愕然となった。びっくりするどころではない。なるほど。あの時アスターシャ、いやミルは、ポーチから望遠ズームでレイラを撮影して、その画像を見せたんだ。あんまりそっくり瓜二つなのにびっくりしたけど、そりゃそうだ。そっくりとか瓜二つとかそういう話じゃなくて、自分の画像をそのまま見せられたんだもん。
なんてこった。
いろいろ話についていけなくなっているレイラに、ミル=アスターシャは、
「うふふ。レイラ、あなたは私の作り話を全部信じてくれた。ほんといい子ね。ミルのフリをして裏街に行くことも、承知してくれた。こんなに簡単にうまくいくなんて。私もびっくりしちゃった。で、情報屋をつかってね、ミルが他の星に逃げて顔を手術で変えた、そういう話を裏街に広めたの。そして私の、ミル・フレイザーのアドレスから、一家の仲間にあなたの画像を送ったの。これがミルの新しい顔だっていってね。みんな、信じた。もちろんミルは、私は顔なんて変えてないんだけどね。これでもう完全に、レイラ、あなたがミル・フレイザーになったの。ミルが新しい顔になって裏街に帰ってきた。みんな信じている。で、今日が仕上げ。ここであなたを撃つの。殺すの。あなたの死体に、私の、ミル・フレイザーの身分証を置いておく。それでおしまい。みんなあなたのことを、他の星で顔を変えて戻ってきたミルだと証言する。警察なんて、暗黒街住人の死体なんてろくに調べはしないから。身分証確認して周囲の証言を聞いて、それでおしまい。ミルは死んだ。それが公式記録になる。スキッドも見破れない。私の名前も汚い前歴も、あなたにあげる。私は本物のアスターシャになる。アスターシャってのはね、お養母様の死んだ娘の名前なの。その名前を私はもらったの。お金持ちってすごいのよ。何でもできるの。私がお養母様にお願いして、正式にアスターシャの身分証を作ってもらったの。私は本物のアスターシャ・アルデランタよ。由緒ある家の後継者よ。もう誰にも後ろ指さされない、本物のお嬢様。ミル・フレイザーは死に、アスターシャ・アルデランタは生きている。公式記録でそうなるの。ね、凄いでしょ」
凄い。
確かに、凄すぎる。
レイラは、ぐうの音もでない。
なるほど。やっと全貌がわかった。カオリの警告していた通り、夢のような偶然なんてあるわけないんだ。意図、作為、とんでもない裏。こういうことだったんだ。でも、こんな絵合わせ解けっこない。
警察の記録にアスターシャの名前が出てこなかったのも当然だ。ミルに双子の妹なんて、いなかったんだから。いや、ミルの血縁データをちゃんと調べていれば、そもそも双子じゃなかったってわかったのだ。迂闊だった。
でも、ここまで大胆な仕掛け、想像がつくはずがない。
アスターシャに付き合ってずっと感じていたモヤモヤ、これでスッキリした。
レイラは本職の刑事である。犯罪を相手にするのが専門である。古来より、自分が死んだことにするために別人を身代わりにする。別の死体を用意する。よく行われてきた手口である。ここまで大胆なのは聞いたことがないが。
なんてことしやがるんだ。
依然として自分に向けられている銃口。
ここで、死ね?
それが総仕上げ?
それは嫌だ。
何とかしなきゃ。




