第191話 身代わり
アスターシャ、自分がミル・フレイザーだと名乗った少女は光線銃を握りながら、勝ち誇ったように笑う
「レイラ、どうしたの? 幽霊でも見るような目をしちゃって。これから幽霊になるのはあなたよ。いや、あなたはミルの、私の幽霊としてここに現れた。そういうことかな。うふふ。こんな話、わけわからないよね。わけわからないまま死ぬのって嫌でしょ? やっぱりちゃんと教えてあげるね。あなたがなんで死ぬのかを」
うん。それは助かる。レイラは思った。この状況。自分の頭で考えても絶対何もわかりっこない。こんな絵合わせ、見たことない。誰にも解けない。
アスターシャは続ける。
「私はミル。間違いなくミルなのよ。孤児院出身のミル。そして、裏街で、ギャングの女になったミル。ここの親分のスキッドの女にね。親分の女って、そりゃ楽しかった。スキッドは、私を大事にしてくれた。私のために何でもしてくれた。そう、最高だった。でもね、私にもっとすごい幸運が舞い込んだの。気分転換に、裏街を離れて街歩きしてた時、呼び止められたの。あなたは私の死んだ娘にそっくりだ、ぜひ、うちの養女にならないか、ってね。それがお養母様よ。アルデランタ家のお養母様。びっくりしちゃった。調べたら、アルデランタ家って古い由緒の、とんでもない大金持ちなのよ。そこのお嬢様になれる。信じられない! 私、その話に飛びついたの。ギャングの女より、よっぽどいいじゃない? そうでしょ? それが半年前のことよ。で、考えたの。裏街の関係を引きずって、大金持ちのお嬢様になるなんて絶対に無理。すっぱり切れなきゃいけない。でもスキッドが、そんなこと許すはずがない。スキッドは、誰よりも私を愛していた。私を自分のものにしたがっていた。私を手放すなんてありえない。裏街を出るなんて、許さない。でも、私はどうしてもアルデランタのお嬢様になりたい。どうしようかなって。それで思いきった勝負をしたの。一家を売ったの。警察に密告したの。スキッドのこともね。それでみんな逮捕された。私は裏街を出てアルデランタ家に行って、ミルは他の星に逃げたことにした。でも、警察って本当に無能!」
アスターシャ、いや、ミル・フレイザーは、怒りに声を震わせる。
「警察は証拠不十分とかで、みんなをすぐに釈放しちゃったの。そしてスキッドも、短期刑にしかならなかった。ほんと、何やってるの! スキッドは大勢人を殺した凶悪犯。ありとあらゆる悪事に手を染めている。そんなのみんな知ってるじゃない! それできっちり長期刑にできないなんて!」
れっきとした宇宙警察の刑事であるレイラとしては、なんとも面目ない次第である。だが、警察としては、ちゃんとした証拠がなければどうにもならないのだ。「みんなが知っている」だけでは、誰かを訴追有罪にすることはできない。それが法の正義というものである。そうは思ったが、とても正論を言える状況ではない。
怒りに満ちたミル・フレイザーは、
「やっと夢の大金持ちお嬢様になることができた。でもスキッドは、無能な警察のせいで、すぐに出所しちゃう。そうしたら、私を探す。追いかけてくる。どこまでも追いかけてくる。絶対に私を見つける。そういう男なのよ。私が一家を売ったことを、突き止めるかもしれない。私はお嬢様でいたい。本物のお嬢様になりたい。そのためには、スキッドとギャングとの関係を、全部精算しなくちゃいけない。それで結局、考えたの。私が死んだことにする。それしかない。ミルが死ねば、もう、追いかけてこない。追いかけてくることができない。私は完全に、関係を断つことができる。これしかない。誰かを、私の、ミル・フレイザーの身代わりとして殺そう。そう思った時、レイラ、あなたが目に留まったの」
アスターシャは、一旦言葉を切る。その手の自動照準追跡式光線銃は、ずっとレイラを狙っている。
どうすることもできない。レイラは、ただ話を聴いているしかない。
えらいことに巻き込まれちゃったな。
本当に。ありえないミルの物語に、頭がぐるぐる回る。




