第190話 死の13階段の上で
ホールの2階。結構広い。
ここも木目調。
卓と椅子。カウンターもある。カウンターの奥の棚には、酒瓶が並んでいる。奥には、いかめしい木製の裏戸がある。
今日は使っていない。賑やかな1階と違って、誰もいない。綺麗に片付いている。
ミルの巣。
レイラは、がらんとしたスペースを中ほどまで進み、振り返る。
アスターシャは、階段を上りきったところに立っている。
その手には、光線銃が握られていた。
銃口はレイラに向いている。
「何をしているの?」
アスターシャが光線銃を隠し持っているのには、気づいていた。護身用だと思って気にも留めていなかったんだけど。なんで私に向けてるんだろう? レイラは訳が分からない。
アスターシャは片手で銃を握り、もう一方の手で面紗をめくると、くっくっと笑う。
「わからないの?」
アスターシャの紫の瞳、爛々と光っている。
「撃つのよ。あなたを」
「撃つ?」
自分に向けられた銃口。冗談で言ってるように見えない。この銃は。レイラは見てとる。自動照準追跡式だ。近距離なら、標的を自動でロックオンし、吹っ飛ばす。つまり銃の使い手の腕前は関係ない。避けようとするのも無駄だ。アスターシャが引き金を引いたら、どうやってもおしまい。
「ねえ、ふざけないで」
と言うレイラに、アスターシャは笑みを浮かべながら、
「ふざけてるわけじゃない。本気よ。ずっとこのために、今日まで準備してきたの」
「なんで? どうして私を撃つの?」
「あなたが、ミルだからよ」
アスターシャは、カッと目を見開く。
「レイラ、あなた、本当にうまくやってくれたわ。本物のミル・フレイザーよ。あなたはミルになり切った。なってくれた。私の想像以上にね。あなたの顔がミル・フレイザーの顔だと、もう、裏街のみんなが知っている。あなたが死ねば、それはミルが死んだということ。ミルは、死ななきゃいけないの。だから、あなたにミルになって死んでもらうの。そういうことよ」
「え?」
訳が分からない。わかるはずがない。
「あの、アスターシャ」
意味不明なことを口走るアスターシャに、レイラは、
「ミルは、あなたのお姉さんなんでしょ? なんで死なきゃいけないの? それに、本人は別のどこかにいるんだから、私を殺しても、意味ないよ」
アスターシャは、また、くっくっと笑い。
「違うの。ミルは、私の姉なんかじゃない。どこか遠くにいるわけでもない。私よ。私がミルなの。私がミル・フレイザーなの」
「はあ!?」
何言ってるんだ! 目の前にいるアスターシャが、ミル・フレイザーだって!?
だめだ、もうついていけない。
レイラ、頭がパンクしそうになって、ただただ自分に向けられる銃口を見つめている。




