第189話 最後の巡礼
「レイラ、来てくれて、本当にありがとうーっ!」
夜のアルデランタ邸の前で。
飛び出してきたアスターシャは、レイラに抱きついた。
「これで最後だよ」
レイラは言うが、アスターシャは抱きついたまま、
「うん、うん、レイラ、あなたって、本当にミル、ミルそのものよ。私のミル。永遠に私のミル・フレイザーだからね」
興奮して、紫の瞳が異様に輝いていた。
2人は無人エアカータクシーを呼んで乗り込む。
「ねえ、アスターシャ」
レイラが訊く。
「護衛、今日はいないの? 昨日の人、今日は来ないって言っていた」
「うん」
と、アスターシャ。
「今日行くところは、本当に安全なの。護衛なんて、要らないから」
裏街。
夜になると、活気が出る街。今日も、燦然たるネオンにイルミネーションに飾られて、真昼のようだ。シン・トーキョー星随一の歓楽街不夜城である。
「綺麗だね」
アスターシャが言う。今日も黒のワンピースに黒の面紗。レイラは、露出の多いミルの服装。ギャングの女。
◇
今日の行く先。大型の飲食店。珍しく地下ではない。
1階が大きなホールになっていて、一般客で賑わっていた。割と健全な雰囲気だ。
床も壁も木目調。
ホールの中央に、広い、これまた木目の階段があり、2階へと続いている。
レイラは、今日の行く先をあらかじめアスターシャから聞いて、下調べしておいた。
ここも無論、スキッド一家の縄張り。
1階は普通の飲食店。2階はギャングの溜まり場である。ただ、半年前の一斉摘発以来、ギャングたちはここを避け、2階も使っていないと言う。
一般客の喧騒。特に危険はなさそうだ。
「レイラ、2階へ行くよ」
アスターシャが言う。
「2階、今、使ってないんじゃないの?」
「うん。お店の人に連絡して聞いたら、使ってないけど、ちょっと覗くのは、いいって。前にミルに連れて行ってもらったのは、2階なの。だから、どうしても2階に一緒に行きたくて」
ここの2階。
ギャングの巣だ。ミルが一家の構成員たちと、盛り上がっていた場所。でも、今日は使っていない。いいだろう。問題ない。
お嬢様の追憶と感傷の仕上げ。
レイラは、広い木目の階段へ。
アスターシャは、少し離れて後ろからついてくる。
「先へ行って、レイラ。ミルは、いつもずんずんまっすぐに、私を引っ張っていってくれたの」
レイラは頷いて、階段を上る。本物の木製らしく、足で踏むと、キュ、キュ、と音がする。
無意識のうちに階段の数を数えていた。
1つ、2つ、3つ、
おや。
2階へ上がった。
階段は全部で13段だった。
13段。
死の13階段。
そうだ。レイラは、思い出す。
確か、大昔の絞首刑台の階段は、13段と決まっていたのだ。
ギャングの巣に上るのに、死の13階段?
ジョークのつもりか?
ともかく。
上ったのだ。
死の13階段を。
追憶と感傷の巡礼。
最後の場所。




