第187話 裏街の始末
「なんだ、こりゃ」
クーゴは唖然となっていた。
地下〝工場〟自分の城。捕まえたミルと仲間の男。自動警報装置のシグナルに駆けつけてみれば、2人は逃げた後だった。切断された拘束具が、床に虚しく転がっている。
鉄壁の警戒態勢だったはずなのに。
頭を抱える工場の〝王〟を、機械やロボットたちが、申し訳なさそうに見つめている。
「こりゃ、もうダメだ」
青ざめたクーゴ、わなわなと震えながら、舌で唇を舐める。
ミルが逃げた。そして一家のみんなに、クーゴから聞いた話をペラペラとしゃべったら。
「まずい。これは絶対にまずい」
全てが終わったことを、クーゴは理解する。
地下〝工場〟苦労して築き上げた自分の城、王国。今日これまでだ。築き上げてきたもの、一切合切失う。大幹部の地位も、莫大な収入も。
でも。
「大事なのは命だ。それだけありゃあ、上等だ」
クーゴは、地下〝工場〟を飛び出すと、エアカータクシーを呼び、走り出す。途中、何台もエアカーを替えながら逃げる。裏街とも、スキッド一家とも永遠におさらばだ。
遠くへ。できるだけ遠くへ行くんだ。
スキッド一家の本部事務所では。
縄張りのゴタゴタを片付けてきたジロモが、クーゴの言っていた話とは何だろうと、ずっと待っていた。
◇
レイラは、やっと寮に着いた。
なんだか急にぐったりしてきた。刑事として、修羅場はくぐってきてはいるんだけど。ギャングの世界の命のやりとり。やはり重いな。本職の犯罪者。一般市民の犯罪とはわけが違う。まだ裏街を管轄したことのないレイラには、ズシリときた。
やっと自分の部屋へ。
「おや、誰かいる?」
部屋の前に立つ人影。レイラは、一瞬、警戒するが、
「レイラさん」
声をかけてきたのは、カオリ。同僚の下着モデル。モデルの寮であるこのタワービルの、隣の部屋に住んでいる。
「どうしたの? カオリ」
「心配で待っていました」
無表情のまま言う、カオリ。
「遅くまで、夜遊びですか? それにしては、思い詰めた顔をしてますね。このところ、様子がおかしいですよ」
「……そう? 心配してくれて、ありがと。私、そんなに変かな」
「はい。いつも自信たっぷりなレイラさんが、ずっと何か迷ってるようにみえます。自分でもよくわからない出来事に、巻き込まれているんですね?」
レイラはビクっとなる。この子は相変わらず鋭いなあ。確かに。アスターシャの妙な頼みに付き合ってから、なんだかずっと宙ぶらりんな気持ちなんだ。どこに到着するかわからない列車に乗せられているような。
「レイラさん」
カオリが、夢見心地な瞳で言う。
「本当に気をつけてくださいね。おかしな話には、びっくりするような裏があるものです」
「うん。本当にありがとう。気をつけるよ。じゃ、今日は疲れたから、もう寝るね」
レイラは、カオリのまなざしを背に自分の部屋に入ると、すぐにベッドに倒れ込んだ。
ともかく、今夜は無事だった。
明日で、本当に最後。
びっくりするような裏がある。そうなのかもしれないけど。




