第186話 下着モデルの感想を言われて
「なあ、レイラ」
エアカーを疾駆させながらギルバンが言う。
「なに?」
「見たぜ」
「何を?」
「お前の画像さ」
「画像?」
「ほら、この前、お前下着モデルやってるって言ってただろ? だからどんなのか、見てみたんだ」
「あ」
この前会ったとき、下着モデルをやっているとバレたんだ。バレてもいいし、職業だから下着モデルの画像を見られてもいいんだけど。ドン・ハルキサワ事務所のサイトにはもちろん、所属モデルの下着姿の画像がいっぱい置いてある。あれ見られちゃったんだ。
なぜか赤くなるレイラ。
「……どうだった?」
一応、感想を聞く。
「うーん、そうだな」
ギルバンは、もったいをつけて、
「なかなか……パンチ力があったな。それで、その……はっきり言おう、お前はやっぱり下着モデルに向いていない。胸がデカすぎて、下着より中身に目がいっちまうからな」
と、レイラのメロン級の胸を見ながら言う。
バチーン!
レイラが、ギルバンを、ひっぱたいた。
「もうっ!」
レイラは、カッカしている。
「ふざけないでよ! 私、真剣に下着モデルやってるんだから!」
「なにするんだよ」
ギルバンは、頬をさすりながら、
「モデルって、見られて感想言われたらキレるのか?」
「あんたのは下着の感想じゃない。下着の感想だったら、何言ったっていいわよ。あんたは、下着の中身について言ってるじゃない。別にあんたみたいな男に見られるために、モデルやってるわけじゃないのよ!」
「おー、怖い。下着モデルって、おっ怖いんだねえ」
ギルバンまだ頬をさすってる。
「あの、こんなことを今言うの、なんだけど」
レイラが言う。
「なんだ?」
「私の依頼も受けてほしいの。あんた、裏街に伝手はある? 今日会ったギャングのクーゴがこれからどうするか、探って欲しいの。スキッド一家のクーゴよ。技術屋の大幹部」
「いいぜ」
と、ギルバンは事もなげに、
「俺も巻き込まれた以上、ちょっと気になるからな。で、報酬は? 今ひっぱたいてくれたことが、報酬なのか?」
「もう」
レイラは、
「それはそれよ。なんであれ変なこと言ったら、容赦しないんだから。今日、助けてくれたことも入れて、きちんと借りは返すからね」
「わかった。期待してるぜ」
◇
エアカーは、アルデランタ家に着いた。
「レイラーっ!」
通信を入れると、アスターシャが飛び出してきた。やはり、クラブでレイラとはぐれ、先に帰っていたのだ。
「どうしたの? 急にどこかへ行っちゃって、全然出てこないし。通信入れても返事ないし、私、なんだか怖くなっちゃって、先に帰ってたの」
「うん、実はミルと間違われて、ちょっとギャングに絡まれてたの。でも、この人が助けてくれた。あなたの雇った護衛なんでしょ? 大活躍してくれたわ」
「そうなんだ。ありがとう!」
アスターシャは、ギルバンに、
「やっぱり、業界で評判高い人選んで良かった。特別割増、しっかりだすからね!」
ギルバンは、雇い主に軽くお辞儀する。実際は、〝ちょっとギャングに絡まれた〟どころではなかった。あと一歩で殺されるところだったのだ。でも、アスターシャに言ってみても仕方がない。
「レイラ」
アスターシャは、紫の瞳をキラキラとさせて、レイラの手を握る。
「今日は大変だったね。で、明日、最後、お願いできない? あと1回、あと1回だけ、一緒に裏街に行って欲しいの。本当に、それで最後だから」
「う、うん、今晩、ちょっと考えさせて」
今夜のことを考えると。
もう行くべきではなかった。普通に考えたらそうなる。危ない目にあったのだ。だが。レイラは、どうしても断ってこのままアスターシャと別れることができなかった。なぜだろう? アスターシャの感傷に付き合う。それだけではない何かを、感じるのだ。最後まで、結末を見届けたい。そんな気がしてならなかった。
明日で最後だ。
きっちり安全が確認できたなら、行ってみよう。
レイラはそう決心し、アスターシャと別れた。
「お願いね、レイラ」
アスターシャは、何度も言っていた。その瞳には、ただならぬ気迫と決意を感じた。何があるんだろう。追憶と感傷の向こうに。
アルデランタ家を去る。
ギルバンはモデルの寮まで送ると言ってくれたが、レイラは自分でエアカータクシーを呼んで帰った。
あの後。裏街では、どんな騒ぎになったんだろう。




