第182話 工場の王
「なんで、あんたが?」
レイラは唖然となった。
紛れもなく、目の前にいたのは私立探偵ギルバン。何度か顔を合わせたことがある。
「助けに来たぜ」
ギルバンは事もなげに言う。そして強化ナイフを取り出すと、レイラの拘束具をスパッと切った。毎度ながら鮮やかな手捌き。
自由になったレイラ、手足をさすりながら、
「ありがと……で、どうしてここにきたの?」
ギルバンは何でもない、という顔で、
「どうして? そりゃ、依頼されたからさ。俺は私立探偵だ。報酬をもらって依頼を引き受けた以上、きっちりと仕事はする。そういうことだ」
「依頼? その、いったい、誰に頼まれたの?」
「アスターシャって、お嬢様だ」
ギルバンは言う。
「レイラ、お前が裏街でゴタゴタに巻き込まれるかもしれない。だから、護衛をするようにって依頼されたんだ。大金持ちのお嬢様らしく、結構いい報酬だったぜ。聞いてないのか?」
聞いていた。護衛を雇う、とアスターシャは言っていた。でも、それがよりによってギルバンだったなんて。
レイラは、まだポカンとしている。ギルバンは続ける。
「クラブで俺はお前を監視していた。お前が奥に連れていかれるのを見ていた。これは何かあると思ったね。どこかへ連れていかれるんじゃないかと。で、店の外で、張っていたんだ。そしたら、ガレージからエアカーが出てきた。それを追跡してきたってわけさ。ここ、工場か何かなのか? 周辺を探ってたら、表の扉の他にも、隠し扉がいくつもあった。それを見つけて、やっとこじ開けて中に入れたってわけさ。間に合ってよかったぜ。あんまり大丈夫じゃなさそうだな?」
「大丈夫……だよ。あんたが来なかったら、本当に危なかったけど」
何はともあれ今は。ギルバンが救世主ヒーローなのだ。この男に護衛を依頼したアスターシャの判断、正しかったということになる。
「さ、行くぞ。ここは物騒なギャングの巣だ。まだ全然安全じゃない。早く行こう。立てるか?」
ギルバン、手を差し出す。レイラ、おとなしく、つかまった。手を引かれて立ち上がる。
「俺のこじ開けた隠し扉の外にエアカーが停めてある。すぐだ」
歩き出す2人。
助かった。
レイラが、そう思った時、
後ろにいた、細長い体型の人型ロボット。その手がゆっくりと動いた。そして、その指先から閃光がほとぼしる。
「きゃっ!」
「ギャッ!」
レイラとギルバン、背後からまともに電撃を喰らった。ショックで床に倒れる。ビリビリとして体が動かない。
「おい」
上から声がした。
「ここから逃げられると思ったのか? 逃げられねえよ」
足音が近づいてきた。現れたのはクーゴだった。目をギラギラさせている。
「工場は、俺の城だ。俺は工場の王だ。ここじゃ誰も好きにはさせねえ。工場じゃ誰も俺に勝てねえ。ここじゃ、みんな俺に這いつくばるんだ。 2重3重に罠が張ってあるからな。工場を守るためなら、俺は何だってする。殺人なんて、なんでもねえさ。たとえ、俺の大事な姐さんだとしてもな」
床に転がる2人を見下ろすクーゴ。
地下〝工場〟の王。
臣下の機械たちは、無機質な無言。
レイラとギルバンに電撃を食らわせた細長いロボットは、赤い目をチカチカとさせている。




