第180話 2人の大幹部
スキッド一家の本部事務所に、ジロモはいた。好都合なことに1人だ。
「よう、ジロモ」
声をかける。
トロンとした目で、ジロモはクーゴを見て、
「クーゴか。今日は何だ? 縄張りで何かあったか?」
「何もねえよ。相変わらず、順調だ。クラブで1人、ラリってぶっ倒れたけど、どうってことない。店の者には、あんまり薬打ちすぎんなと、言っておいた」
「お前は細えな」
と、ジロモ。
「誰がぶっ倒れようが、そんなの気にする必要ない。俺たちの商売だ」
「親分のいない間、一家を任されたのは俺だ」
クーゴは胸を張る。
「もうすぐ親分が出てくるんだ。一家を疵一つ無い状態にして、お迎えしなくちゃならねえ」
「ちぇっ」
と、ジロモ。
「一家は機械じゃない。そんなにいつも綺麗にきちんとしてなくてもいいさ。お前はちょっと神経質すぎるんだ。それに親分のいない間戦争にならなかったのは、俺が睨みを利かせていたからだぜ」
「おいおい」
と、クーゴ。
「裏街の連中が怖れているのは、スキッドの兄貴だ。刑務所にいても、みんな兄貴を怖れている」
「そうだ」
ジロモもあっさり認める。
「それには違いねえ。兄貴あっての一家だ」
猛獣と怖れられる殺し屋ジロモの、スキッドへの忠誠は絶大だった。親分への裏切りは、この男も絶対に許さない。
やっぱりこいつも消すしかないんだ。
クーゴは頭の中で、忙しく算段をしている。
一家の大幹部クーゴ。ビジネスの柱、故買屋稼業を仕切っている。電子ビジネスにも手を広げている。飛ぶ鳥を落とす勢いだ。工業専門学校の落ちこぼれの自分が、今や誰にも畏敬されている。
それもこれも、親分の信頼があるからだ。スキッドを殺して自分が頭になることは、とても考えられなかった。荒くれギャングたちを仕切り、押さえつける力量度量器量は自分にはない。スキッドの威光があってこそ、思うままに仕事ができるのだ。大幹部の地位がある。
親分の信頼を失なったら。築いてきたものを、全てを失う。それどころか命も危ない。
だから。
一家の金庫を抜いた不始末を隠すため、かけがえのない仲間のミル、そして、目の前のジロモを、始末しなければならないのだ。
「悪いな、ジロモ」
クーゴは、内心、呟いていた。
ジロモを殺す手筈。もう考えてある。ここから、兄貴自慢の秘密通路を使って、地下〝工場〟に連れて行こう。
あそこはクーゴの城。なんとでもできる。
直接の戦闘だったら、絶対にクーゴは、ジロモにかなわない。
だが、そこが付け目だ。ジロモはクーゴのことを、非力な技術屋と見下している。いつも隙だらけなのだ。
自分の城で罠を仕掛け、この凄腕の殺し屋を殺すのは、わけがない。
「ジロモ」
クーゴはにっこりとして言った。
「ちょっと話があるんだ。ここじゃまずい。場所を変えよう」
親分の最愛の女と、片腕と頼みにするジロモを殺す。そして何食わぬ顔で、親分の下で働く。クーゴ一世一代の勝負である。
できるだろうか? いや、やるしかないのだ。
もう、後戻りはできないのだ。




