第179話 標的は2人
「ミル、もう一つ、あの世への土産にいいものをやる」
クーゴがニヤリとして言う。
「なに?」
どうせ、ロクなものじゃないだろう、と思ったが、果たして、
「ジロモだ」
「え?」
「ジロモ。あいつを、お前にプレゼントしてやる」
ジロモって確か。レイラは警察の記録を思い返す。スキッド一家の大幹部で、凄腕の殺し屋用心棒だ。プレゼント? なんのことだ?
「つまり、こういうこと」
と、クーゴ。
「俺はあいつも殺す。あいつが生きてると、いろいろ邪魔なんでね。お前とジロモの死体は、もちろん隠す。そしてお前たち2人が手を取り合って、一家の金を持って一緒に逃げた。そう親分に報告するんだ。なかなかいいだろ? お前、あいつとも仲が良かったからな。仲良く一緒に、あの世に行くといい」
やっぱり、まともな話じゃなかった。
どういう事情か知らないけど。
ギャングってのは、平気で血を流すものなんだ。警察の記録で、わかってたことだけど。
「さあ、ミル、お祈りするんだな」
と、クーゴ。
「俺はこれから、ジロモを殺ってくる。確実にあいつを仕留めたら、次はお前だ。今夜中に全部カタはつける。ことは迅速に。それが兄貴の教えだ。お前も覚悟を決めとけよ」
そういうと地下〝工場〟にレイラを残し、出ていった。
ぽつんと1人残されたレイラ。
とりあえずほっとする。
いきなり殺されなくてよかった。
でも。手足はがっちり拘束されている。逃げられない。
クーゴが一仕事して戻ってきたら、今度は本当に殺される。
抜け出さなきゃ。時間は無い。
◇
クーゴはジロモを探していた。
ジロモも殺さねばならないのだ。
最初に一家の帳簿の不正を見られたのは、ジロモだった。
「おい、これは、なんだ? ちょっとおかしくねえか?」
クーゴが帳簿の操作をしている時、大型端末を後ろから覗き込んだジロモが言ったのだ。
「え? なにが?」
何気ない風を装うクーゴだったが、ジロモは妙な目をしていた。
「お前、やってることおかしくないか?」
「そんなことないぜ、なに言ってるんだ」
クーゴは心底驚いた。ジロモは戦闘員としては裏街随一だが、頭のほうはからっきしダメで、帳簿だ会計だのことがわかるわけないと高を括って、堂々とジロモの前で不正帳簿操作をしていたのである。
「おいおい、ジロモ、お前、金の出入りなんて、何もわからないだろ。俺様は電子犯罪だってやってのけるんだぜ。俺の仕事にケチつけるなよ」
強気で言い張った。
「そりゃ確かにそうだ」
ジロモは言うが、まだ納得できない様子で、
「とにかく、親分が出てきたら、きっちり報告するからな」
と言った。
クーゴは冷やりとした。まずい。
血の巡りの悪いジロモに足を掬われるなんて!
その時クーゴが考えたのは、ジロモを殺してジロモが一家の金を盗んで逃げたことにする、そういう筋書きだった。だが。いろいろ無理がありすぎだ。ジロモが細かい金庫の操作を自分でやるのは絶対に不可能だからだ。それは、みんなが知ってること。そこで、ちょうど現れたミル。ミルなら、スキッドから、金庫を任されていたのだ。ミルが金庫を抜いたことにする、何の問題もない。
そして、ミルと、クーゴのやばい秘密を知ったジロモを殺し、2人が一緒に逃げた、という話にする。それしかない。
クーゴは決めていた。
ミルもジロモも、大事な仲間、心を許しあった兄弟分であった。
「でも、1番大事なのは俺だ」
自分が生き延びるためには。
大切な仲間でも、裏切り、殺さねばならない。そうしなければ、自分が殺られるのだ。
それがギャングの道なのだ。




