第177話 金庫の番人
「さて、ミル」
クーゴが、縛られて床に座り込んだレイラを見下ろしながら言う。
「今、どういう状況か説明しよう」
「助かるわね」
レイラはあれこれ考えている。自分はミルじゃないと言い張っても、ダメみたいだ。当然と言えば、当然。ミルの双子の妹のアスターシャに頼まれて、裏街でミルのフリをしていた。正直にそう言うのは? いや、こんな突飛な話、信じてくれるわけがない。あまりにも不自然だ。かえって状況をおかしくしそうだ。
実は宇宙警察の刑事です、と言ってみるのは? もっと状況がまずくなるに決まってる!
とにかく話を聞くしかない。レイラは覚悟した。話を聞きながら、脱出の糸口を探さなきゃ。
「つまり、こういうことだ」
クーゴは、ナイフを取り出し、舌なめずりする。
「ミル、お前はこの前の警察の手入れに怖れをなして、この星から逃げ出した。そして手術で顔を変えた。もう、ここのギャングのところに戻ってくるつもりはなかった。ところが、どこで暮らすにも、金が必要だ。金を持ち出すのを忘れていた。で、ミル。お前はこっちの事情を調べた。スキッドの親分が、もうすぐ出所する。その前に一旦この星に戻って一家の金を持ち出そう、そう考えた。お前は兄貴から、うちの金庫を任されていたからな。うまいこと隙をついて俺たちを騙して、ごっそり金を持ち出し、またずらかった。そういう話でどうかな? 気にいってくれたか?」
「……何言ってるの?」
もちろんレイラには、さっぱり訳が分からない。
「わからないだろうな」
クーゴは、得意然と、
「兄貴は頭の良さで有名だ。でも俺だって、ちょいとばかし、頭が切れる方なんだぜ。ミル、俺とお前の仲だ。最後に、やっぱりちゃんと説明してやろう。実のところ、うちの金庫を空にしちまったのは、この俺なんだ」
「……そう、なの」
レイラは、そういうより他にない。クーゴは、ナイフをくるくる回しながら続ける。
「兄貴が捕まった。俺も捕まったがすぐに釈放されて、親分が出てくるまで、一家の頭を任されることになった。頭だ。このクーゴ様が頭だ。なんだかんだ、この俺も、つい浮かれちまってよ、前からやってた賭博に、一家の金を使っちまった。そういうことだ。親分も、ミル、お前もいない。一家の金庫は俺が自由にできたんだ。この誘惑に、どうしても勝てなかったんだ。で、賭博ってのはよ、大きく張れば、その分大きく負ける。そして負けを取り返そうとして、もっと大きく張る。もっと負ける。それで結局、一家の金庫を空にしまった、そういうことさ」
クーゴは、じっとレイラを見つめる。
「これがどういうことか、ミル、わかるよな。重大な、一家への裏切り、掟違反だ。兄貴が出所して、うちの金庫を調べたら終わりだ。確実に俺は、血の制裁を喰らう。あらゆる意味で終わりだ。どうしようか考えてたんだ。もう遠くへずらかるしかないと思ってたんだ。けど、そこに、お前が現れた。帰ってきた。こりゃ、幸運だと思ったね。それで、さっき言った筋書き。一旦逃げたお前が戻ってきて、一家の金庫を抜いて、また高飛びした、そういう話にしようと思ったんだ。お前なら、金庫に触れる立場だからな。こりゃ、うまい考えだ。ミル、お前は俺の救世主だよ。兄貴がお前のことを、幸運の天使、と呼んでたよな。本当にそうだ。お前のおかげで俺は助かる」
クーゴの瞳、凄みを帯びた光を放つ。
「わかっただろう? お前は俺の代わりに、金庫を抜いた罪を被って死ぬんだ。ここでお前を殺す。一旦帰ってきたお前が一家の金庫を抜いて、また高飛びした、親分にそう報告する。それで全て決着だ。俺は安全ということだ」




