第147話 スクラップの夜 〜3年前の出来事(5)
「こっちだ」
スキッドは、古ぼけたビルへと、ミルを案内する。ビルの1階に、ぴったりと閉じたシャッターがあった。スキッドが暗証番号を入力すると、シャッターは、すっと開く。地下へ続く階段が現れた。
「さあ」
スキッドは、ミルの手を引いたまま、階段を降りる。
電気をつける。地下は広い空間だった。
「ここは?」
ミルは、目をみはる。
エアカーや、ロボット、各種の電子機器が、折り重なって、雑然と山積みになっていた。長い配線コードが絡み合って、縦横に伸びている。
「俺たちの〝工場〟さ」
スキッドは、得意そうに言う。
「工場?」
「ああ。修理工場だ。古いエアカーに機械をここで直して、売るんだ。俺たちの貴重な収入源だぜ」
実際には。盗難車に盗難品、訳ありでそのままでは表の市場に出せない製品を安く買い叩いて、使える部分を取り出し、交換し、製品番号を変え、闇ルートで売りさばくのである。機械の故買屋稼業は、グルーリン一家の地下ビジネスの柱の1つだった。
スキッドは、スクラップの山に向かって歩き、
「技師もいるんだぜ。おい、クーゴ! 俺だ」
と、叫ぶ。
ややあって。
「なんだい?」
スクラップの山の後ろから、少年が現れる。機械油の染みついたデニムを着ている。
クーゴ。スキッドと同じ15歳。元工業専門学校生。この〝工場〟の長である。まだ、あどけない顔。
「スキッドの兄貴、こんな夜中になんだ? 俺は今やっと、エアカーを1つ解体して、一眠りしてたとこなんだぜ。まったく。今日は1日中、働きづめだったぜ。年代物のエアカーでよ。いろいろ面白い部品があってさ。つい夢中になっちまった。掘り出し物ざくざくだ、いい値で売れそうだ。親分には、喜ぶ報告ができるぜ。あっ」
眠そうに目をこすりながら現れたクーゴ、ミルに気づく。
「兄貴、その子は?」
「ミルだ」
スキッドは、ミルの肩に手を回す。
「俺の女だ」
俺の女、と言われたミル。カッと熱くなる。
「へえ」
クーゴは、ミルを仔細に眺め回し、
「可愛い子じゃないか。さすが、兄貴だ。で、なぜ俺のとこに? 結婚するから俺に、式の立会人だか証人になってほしい、そういうことか?」
「違う。まだ、そんなんじゃない」
微笑むスキッド。
「今日の寝ぐらを借りてに来た。それだけだ。一晩、泊めてもらうぜ」
「あ、ああ」
クーゴ、すっかり目は覚めている。
「ひょっとして……」
「そうだ」
と、スキッド。
「奥のエキュールを借りるぜ」
エキュール。超高級エアカーだ。すっかり修理手入れして、転売前のものが、〝工場〟の奥に鎮座している。
「なるほど……どうぞ」
クーゴ、奥の方へ、チラッと目線をやり、
「兄貴とその子、えーと、ミルだっけ。今日はエキュールでお泊まりってことだな? で、俺はどうすればいい? 入り口で見張りでもしてろってのか?」
「おいおい」
と、スキッド。
「クーゴ、察しろよ。女と一緒なんぜ。今日はお前は、他所で寝てくれ」
「ええ?」
クーゴ、口をとがらせる。
「なあ、兄貴、言っただろ。俺は今日1日働きづめだったって。やっと寝たとこなんだぜ。それでこんな夜中に、寝ぐらを追い出されちまうのかい?」
「頼むよ」
と、スキッド。
「この子は、この街は、初めてなんだ。今日は、ゆっくり寝かしてやりたいんだ」
自分を見据えるスキッドの眼。有無を言わせない圧がある。兄貴に逆らっても無駄なのだ。よくわかっている。
クーゴは、チッと舌を鳴らし、
「わかった。俺は他所へ行くよ。あーあ、こんな寒い夜に、自分の寝ぐらを追い出されちまうなんて。兄貴、結婚式には、俺を特等席で招待してくれよな」
「ああ、もちろんだ」
スキッドは、ポンとクーゴの肩を叩く。
「ありがとよ、兄弟」
クーゴは、チラっとミルに目線をくれると、ぶつくさ言いながら、〝工場〟を出ていく。
スキッドは、ミルに微笑んで、
「さあ、お嬢様、この街で1番のベッドへどうぞ」




