第148話 地下工場の夢 〜3年前の出来事(6)
地下〝工場〟の奥。
「すごい」
ミルは、息を飲む。
特大のエアカー、というより、ちょっとした家である。10人、いや、15人は乗れる。
エキュール。トップブランドの超高級エアカー。贅を尽くした外観と内装。それをクーゴが腕によりをかけて、修理し磨き上げ、丁寧に整備してある。
スキッドが、後部の扉を開ける。
覗き込むミル。
「わあ」
広いスペース。キングサイズのベッドがあった。一流ホテル並みの豪華さ。スクラップの積まれた地下〝工場〟に、全く似つかわしくない光景。
「さ、入って」
スキッドに促されて、ミルはエキュールの中へ。
◇
2人は、ベッドに並んで腰を下ろした。
こんな立派な空間は、いつぶりだろう。いや、初めてかもしれない。ミルは、思った。そして隣にいるのは、流れるような銀髪を逆立たせた燃えるように赤い瞳の美少年。少女の頬が、ピンクに染まる。
「ここが、あなたの寝ぐらなの?」
「寝ぐらの1つだ」
スキッドは言う。
「俺は、あちこちに寝ぐらを持っている。こういう稼業だからな。いつでも潜り込める場所が必要だ。多けりゃ多い方がいい。今日は、1番上等なところにお前を案内した」
「ありがとう」
心を浮き立たせたミル、にっこりとする。
「地下の工場が、極上のホテルだなんてね。びっくりした。でも、潜り込めるところって? 追われることも、あるの?」
「ああ。そりゃそうだ。この街じゃ、いつ何が起きるか分からないんだ。不意打ちを食うなんて、当たり前さ。やばくなったときのことを、先に考えておく。それが大事だ。だけど、みんな調子のいい事しか考えない。うまくいっている。もっとやってやろう。それしか考えない。それがダメなんだ」
「へえ」
ミルは、感心する。
「スキッド、あなた、しっかりしてるのね。同じ歳なのに」
「そうでもないさ」
スキッドは、肩をすくめる。
「俺はまだ、ただの用心棒だからな。これから一家に貢献して、出世しなきゃ」
誰かに責任を持てる。そういう人間になる。スキッドは、初めて考えていた。
「ねえ」
ミルは、瞳を輝かせている。
「これで外を走れないの? これで一緒にドライブできたら、すごく素敵」
「それは、ダメ」
と、スキッド。
「これは売り物だからな。表には出せない。それに外を走って ちょっとでも疵つけたら、クーゴの奴、本気でブチ切れるぜ。あいつにとっちゃ、自分が手入れした機械は、自分の兄弟みたいなものだからな。雑な扱いには、我慢ならねえんだ」
「あらら」
ミル、慌てて座り直す。
「じゃあ、綺麗に使わなきゃね」
盗難車横流し品である。こんな目立つエアカーで、外を飛ばすことは、絶対にできない。
でも、いつか。
スキッドは思った。
本当に自分のエキュールを持って、ミルと、思いっきり外を飛びたい。街の誰をも見下ろしながら。
ミルも同じだった。
クーゴが丹念に手入れした高級エアカーのベッドで、スキッドと2人で外をドライブする夢を見ながら、眠りに落ちたのだった。
ミルのすぐ側には、ずっと微笑んでいるスキッドが、いるのだった。




