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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.11 裏戸のスキッド
146/195

第146話 路上の決着 〜3年前の出来事(4)



 「(いて)

 

 ゴレヌが呻く。左腕をしっかりとキメられ捻られたまま、地に叩きつけられたのだ。体が動かない。


 スキッドは素早く立ち上がると、ゴレヌの顔を思いきり蹴った。


 ギャッ、と鈍いくぐもった声を上げるゴレヌ。地を転がる。


 やったか。スキッドは光線銃(ブラスター)を拾い、左の踵で、メリケンサックを嵌めたゴレヌの右手をドン! と、踏みつける。そして、右の踵で、ゴレヌの頭を蹴る。靴の踵には、強化鉄が仕込んである。



 ゴフッ、



 呻き声。ゴレヌ、口から血を流している。荒い息をし、歪んだ眼球で、スキッドを見上げている。目には、憎悪のこもった光を宿しているが、動くことはできない。

 

 スキッドは、光線銃(ブラスター)を突きつける。


 「出て行け」


 低い、静かな声で言う。


 「この街からすぐに出ろ。今度俺に顔を見せたら、これじゃ済まんぞ」


 ゴレヌ、ぜいぜいと、息をするだけ。


 こいつは、もうダメだ。この辺でいいだろう。


 判断したスキッドは、最後にもう一度、思いきりゴレヌの顔を蹴った。


 ギャッ、という声。血の匂い。


 ゴレヌは、動かなくなった。


 スキッドは、奪った光線銃(ブラスター)を腰に差すと、身を翻し、走り出した。ミル、どこへ行った?


 

 ◇



 あまり走る必要はなかった。


 少し行った先の街灯の影で。


 ミルは、体を震わせていた。


 「スキッド?」


 少年の姿を認めたミルは、ほっとして、頬を上気させる。


 「無事なの? 大丈夫だった? あいつは?」


 「やっつけたさ。何でもない。それより」


 走り寄ったスキッドは、ミルの髪を撫ぜて、


 「逃げろ、と言ったら、もっと遠くまで行かなきゃダメだ。こんなに近くにいたら、逃げたことにならない」


 「だって」


 ミルは、頬を膨らませる。


 「スキッド、あなたと離れたくないんだもん」


 「離れないよ」


 少年は、そっと両掌を、少女の両の頬に当てる。


 「だからとにかく、俺の言うことを聞くんだ。言うとおりにしろ」


 「うん……わかった」


 「行くぞ。ここは他の一家(ファミリー)縄張り(テリトリー)だ。早く離れよう。これ以上のトラブルはまずい。俺の寝ぐらに行くんだ」


 スキッドは、ミルの手を握ると、足早に歩き出す。ついていくミル。



 昔、孤児院で一緒に遊んだ男の子。こんな風に手をひかれたこと、確か、前にもあった。


 先ほど感じた恐怖を、ミルは、すっかり忘れていた。ただ、スキッドの掌の温もりが、うれしかった。


 「ねえ、スキッド」


 「なんだ?」


 「あなた、私と同じ歳、15だよね」

 

 「ああ、そうだ」


 「ここでずっと、こんなことしてるの?」


 「まあな。よくわからず暴れていたら、いつのまにかギャングになっていた」


 「ギャング……そうなんだ。喧嘩ばかり?」


 「いつも喧嘩ってわけじゃない。大体、話せば、収まるんだ」


 話す、というのは、凄みを利かせるということなのだが。


 ミルは、うっとりとした口調で、


 「スキッド、あなた、強いの?」


 「ああ。一家(ファミリー)の用心棒をやってるし」


 「私のことを、これからも守ってくれるの?」


 「俺の言うこと、ちゃんと聞くならな」


 ミルの心は、すっかりと温まっていた。孤児院から裏街(アンダーグラウンド)に飛び出してきたときには、冷え切っていたのだったが。


 凍てついた夜。ヒラヒラと雪が舞い降りてきた。


 白く舞う雪。それが自分を祝福する紙吹雪のように、ミルには見えたのだった。



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