第146話 路上の決着 〜3年前の出来事(4)
「痛」
ゴレヌが呻く。左腕をしっかりとキメられ捻られたまま、地に叩きつけられたのだ。体が動かない。
スキッドは素早く立ち上がると、ゴレヌの顔を思いきり蹴った。
ギャッ、と鈍いくぐもった声を上げるゴレヌ。地を転がる。
やったか。スキッドは光線銃を拾い、左の踵で、メリケンサックを嵌めたゴレヌの右手をドン! と、踏みつける。そして、右の踵で、ゴレヌの頭を蹴る。靴の踵には、強化鉄が仕込んである。
ゴフッ、
呻き声。ゴレヌ、口から血を流している。荒い息をし、歪んだ眼球で、スキッドを見上げている。目には、憎悪のこもった光を宿しているが、動くことはできない。
スキッドは、光線銃を突きつける。
「出て行け」
低い、静かな声で言う。
「この街からすぐに出ろ。今度俺に顔を見せたら、これじゃ済まんぞ」
ゴレヌ、ぜいぜいと、息をするだけ。
こいつは、もうダメだ。この辺でいいだろう。
判断したスキッドは、最後にもう一度、思いきりゴレヌの顔を蹴った。
ギャッ、という声。血の匂い。
ゴレヌは、動かなくなった。
スキッドは、奪った光線銃を腰に差すと、身を翻し、走り出した。ミル、どこへ行った?
◇
あまり走る必要はなかった。
少し行った先の街灯の影で。
ミルは、体を震わせていた。
「スキッド?」
少年の姿を認めたミルは、ほっとして、頬を上気させる。
「無事なの? 大丈夫だった? あいつは?」
「やっつけたさ。何でもない。それより」
走り寄ったスキッドは、ミルの髪を撫ぜて、
「逃げろ、と言ったら、もっと遠くまで行かなきゃダメだ。こんなに近くにいたら、逃げたことにならない」
「だって」
ミルは、頬を膨らませる。
「スキッド、あなたと離れたくないんだもん」
「離れないよ」
少年は、そっと両掌を、少女の両の頬に当てる。
「だからとにかく、俺の言うことを聞くんだ。言うとおりにしろ」
「うん……わかった」
「行くぞ。ここは他の一家の縄張りだ。早く離れよう。これ以上のトラブルはまずい。俺の寝ぐらに行くんだ」
スキッドは、ミルの手を握ると、足早に歩き出す。ついていくミル。
昔、孤児院で一緒に遊んだ男の子。こんな風に手をひかれたこと、確か、前にもあった。
先ほど感じた恐怖を、ミルは、すっかり忘れていた。ただ、スキッドの掌の温もりが、うれしかった。
「ねえ、スキッド」
「なんだ?」
「あなた、私と同じ歳、15だよね」
「ああ、そうだ」
「ここでずっと、こんなことしてるの?」
「まあな。よくわからず暴れていたら、いつのまにかギャングになっていた」
「ギャング……そうなんだ。喧嘩ばかり?」
「いつも喧嘩ってわけじゃない。大体、話せば、収まるんだ」
話す、というのは、凄みを利かせるということなのだが。
ミルは、うっとりとした口調で、
「スキッド、あなた、強いの?」
「ああ。一家の用心棒をやってるし」
「私のことを、これからも守ってくれるの?」
「俺の言うこと、ちゃんと聞くならな」
ミルの心は、すっかりと温まっていた。孤児院から裏街に飛び出してきたときには、冷え切っていたのだったが。
凍てついた夜。ヒラヒラと雪が舞い降りてきた。
白く舞う雪。それが自分を祝福する紙吹雪のように、ミルには見えたのだった。




