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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.11 裏戸のスキッド
143/195

第143話 出会い 〜3年前の出来事(1)



 冬の裏街(アンダーグラウンド)で。


 大通りの雑踏の角に佇み、ミルは、体を震わせていた。立派なコートなど、持っていないのだ。何も考えずに、とうとう孤児院を飛び出してきたのだ。


 寒いし、お腹も空いた。


 でも、孤児院に戻るのは嫌だった。飛び出してきたんだ。ここで戻ったら、また元の生活に戻り、何もできなくなる。自分を変えようと、決心したんだ。何があったとしても。


 しばらくの間、人の流れを見つめている。


 宵闇が濃くなってきている。どうしよう。今日の夜を過ごすところを見つけなくちゃいけない。


 ミルは、中心街(メインストリート)から、裏通りへ入った。あてもなく、歩いて行く。狭い路地に入り込んだ。


 「よう、嬢ちゃん」


 声をかけられた。酔っ払いだ。早い時間から、顔を真っ赤にしている。


 「子供が何してんだ? 歳はいくつだ?」


 「15よ」


 ミルは、ぶっきらぼうに答える。


 「15? いいね」


 酔っ払いは、舌なめずりする。


 「1人か? 俺と遊んでかないか? きっちり支払うぜ」


 やっぱり。


 ここで声をかけてくるのは、だいたいこんな男だ。


 ミルは、チラチラと男を見るが、やはり覚悟はできない。


 「やめて」


 背を向けて、歩き出す。


 「待てよ」


 酔っ払いが、追ってきた。


 ミルの、手を掴む。


 「離して!」


 必死に振り解こうとする、


 だが、意外と男の力は強かった。振り解けない。


 「ちょっと! やだってば!」


 ミルは叫ぶが、男は逆にしっかりとミルの肩をつかまえ、路地の壁に体を押し付ける。


 「ここで、いいぜ」


 酒臭い息を、かけられる。


 「嬢ちゃん、お前も、そのつもりなんだろ? ここは、子供が遊びに来るところじゃないんだぜ。わかってるよな?」


 ミルは必死にもがくが、がっちりと掴まれて動けない。


 男の顔が、迫ってくる。


 「やだ!」


 目をつむり、顔をそむける。


 その時。


 「おい、やめろ」


 声がすると、急に、抑えつけていた力が消えた。

 

 ミル、顔を上げる。酔っ払いの腕を、若い男ーーまだ少年だーーが握っていた。


 「なんだ、てめえは。またガキが出てきやがった」


 酔っ払いは、ペッ、と唾を吐く。


 「とっとと失せろ!ガキが大人のすることに口出すんじゃねえ、あっ!」


 少年の動きは素早かった。


 間髪入れず、拳を男の腹に、叩き込んだのだ。


 「うご、うぐぐ……」


 崩れ落ちる酔っ払い。


 「ぐほ、ぐほ、」


 やっとのことで立ち上がると、少年を怯えたような、憎々しげな目で一睨みし、荒い息をしながら、ドタドタと駆けていった。



 逃げる酔っ払いを見送った後。


 ミルと少年は、向き合い、見つめあった。


 「大丈夫か?」


 ぼんやりとした街灯の下、流れるような銀髪を逆立てた赤い瞳の少年は、美しく見えた。


 「あり……がと」


 助けてくれたんだ。


 少年は、訊く。


 「お前、この街に住んでいるのか?」


 ミルは、首を振る。


 「どこから来たんだ?」


 ミルは、答えない。


 「家に帰るんだ」


 少年は言った。


 だが、ミルは、首を振った。


 「帰らない。もう、帰る家なんてないの」


 「家出してきたのか」


 少年は言った。家出した少年少女、この街にはたくさん流れ込んできている。


 「俺と同じだ」


 少年は、ふっと笑った。


 「俺が家出したのは、2年前、13の時だ。今は、ここに寝ぐらを持っている。よかったら、俺の寝ぐらに来るか?」


 「え、いいの?」


 ミルは目を見開く。


 「ああ、いいぜ」


 「ありがとう。私は、ミル」


 「俺は、スキッド」


 「あ」

 

 ミルは、思い出した。


 「どうした?」


 「スキッド、間違いない、孤児院にいたよね。そうだ、飛び出して、裏街(アンダーグラウンド)に行ったっんだよね。私、ミルよ。ミル・フレイザーよ。ほら、一緒に遊んだじゃない」


 「え?」


 スキッドも、ミルをまじまじと見つめ、


 「ミル! ミルなのか! そうだ。覚えてる。孤児院で一緒だったよな。なんだ、お前も孤児院から、逃げ出したのか」


 「うん」


 ミルは、微笑んだ。


 一緒に孤児院で育ったスキッド。可愛い男の子だった。それが今は、美しい少年になっている。



 なんていう偶然の導きだろう。


 ミルは、寒さも忘れ、耳朶を赤く染めていた。



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